弁護士からビジネスプレイヤーへ。NOT A HOTEL初のインハウスロイヤーの目指す先
NOT A HOTELには法務領域をリードするインハウスロイヤーの渡辺徹志がいる。渡辺は金融が専門分野の豊富な海外経験も持つ弁護士だ。政府系金融機関である国際協力銀行で弁護士として働いた後、米国へ留学。ニューヨーク州での弁護士資格を取得した後、ロンドンの金融機関に出向した。2022年に帰国後、所属法律事務所でパートナーに就任。それから一年後の23年3月、NOT A HOTELに参画した。
弁護士として着実なキャリアを歩んできた渡辺は、なぜこのタイミングでスタートアップに飛び込むことを決めたのだろうか。法律事務所を飛び出し、NOT A HOTELへの参画を決めた背景に迫りつつ、渡辺のキャリアと今後の構想を聞いた。
なぜ海外勤務を経た弁護士が、
NOT A HOTELに参画を決めたのか
なぜ海外勤務を経た弁護士が、NOT A HOTELに参画を決めたのか
ー渡辺さんのキャリアを振り返ると、豊富な海外経験が印象的です。海外への目線はいつどんなきっかけで持つようになったんですか。
渡辺:弁護士を始めてから二年ほど経ってから、オリジナリティを高める必要があると考えるようになりました。以前から関心の高かった金融の分野と海外を掛け算することで、専門性をつくっていこうと思ったんです。そこで国際協力銀行に期限付で着任し、国際取引の経験と一定の英語力を身につけました。
ー国際協力銀行ではどんなプロジェクトを?
渡辺:印象に残っているのは、アフリカのタンザニアに発電所建設のための融資を行うプロジェクトですね。現地に足を運んで政府と交渉したり、国をまたいで多くのステークホルダーを巻き込んでいくスケールの大きさに醍醐味を感じていました。その後、より国際的なキャリアを積むためにアメリカのロースクールへ留学に行きました。
NY州の弁護士資格を取得した後は、金融機関のロンドン支店に出向し、インフラ関係のプロジェクトファイナンスの部署で働きました。このときは法務からは離れ、プロジェクトのキャッシュフローやリスク分析を行ったり、金利等の条件交渉をする銀行員に近しい業務を中心に取り組んでいました。振り返ると、未経験の領域で仕事をしたこの時の体験が、現在NOT A HOTELで取り組んでいるチャレンジに活きていますね。
ーロンドンを経て帰国した後は、パートナーとして法律事務所に戻られた?
渡辺:そうです。法律事務所での仕事は順調でしたが、一方で、そのまま業務を続けていくことに徐々に疑問を感じるようになりました。
ーどんなところに?
渡辺:現在、弁護士が多くの時間を割いている書面作成や、リサーチの多くはAIに代替されるのではないか、今後、法律事務所のビジネスモデルは大きく変革するのではないかと。であれば、人間にしかできないことにフォーカスすべきではないかと思うようになっていきました。
それは社会やビジネスを深く理解し判断すること、人とコミュニケーションをとり、人を巻き込んで大きな動きをつくることだと思うんです。一通り弁護士としての下積みを経て、自分の残りの職業人生を考えたとき、「その道の職人として生きるのではなく、ビジネスの熱源に近いところで色んな人と情熱をもって仕事をしていきたい」「他人やAIに代替されない自分ならではの仕事ができるようになりたい」ーーそういう思いが芽生えました。そんな矢先、NOT A HOTELに出会ったんです。
ーNOT A HOTELはどんなきっかけで知ったんですか。
渡辺:NOT A HOTELのことを知ったのは偶然Xのタイムラインに流れてきた、NOT A HOTEL AOSHIMA(青島)に宿泊したオーナーさんの投稿でした。直感的に「すごい建築だな」と思い、調べてみると、建築だけではなくビジネスモデルにも面白さを感じました。
自分の専門である「金融」と「不動産」の相性はとてもよく、今後NOT A HOTELのビジネスモデルに金融を組み合わせることで発展する未来図が想像できたことも大きかったです。自分の専門性を生かし、事業側で役割を果たせるかもしれない。何より、生み出しているプロダクトや裏側のビジネスに並々ならぬ熱量を感じました。ここに自分が求めているものがあるのではと、思い切って飛び込んでみることにしたのです。
DAY1からグループ会社の
M&Aプロジェクトのリーダーへ
ー実際に入社してからは、まず何を?
渡辺:ちょうど当時、新規事業(リゾート会員権や別荘のセカンダリー取引プラットフォームを展開するNOT A HOTEL2nd)の構想が具体的に動きはじめたタイミングで、金商業のライセンスを保有する会社、ロケットメーカーズとの出会いもあり、同社の株式を取得する運びとなりました。
渡辺:NOT A HOTELの物件は現物で売っているものと、信託受益権という金融商品として売っているものがあり、金融商品を2次流通させるには金商業のライセンスが必要になります。入社直後でしたが、私はM&Aの経験もあったので、デューデリジェンスや株式譲渡契約などの取引周りを担当することになりました。結果、M&Aの話が持ち上がってから、二週間程度でクロージングまで行いました。
ーものすごいスピード感ですね。
渡辺:異例の速さだったと思います。私個人としても、入社してすぐ、ものすごいスピードでM&Aをクローズさせ、さらにはその経営陣に入る、という怒涛の展開に、興奮冷めやらぬ思いでした。ただ、M&Aしたからといっていきなり信託受益権を売買できる状態ではなく、業務方法書を変更する必要があったんです。
業務方法書を変更するためには、新規業務ができる人的体制や業務フローを整え、財務局にビジネスの内容を説明し、理解を得なくてはならない。この一連の体制構築、プレゼンテーション及びコミュニケーションの責任を私が全面的に担うことになりました。ここをクリアにしないとNOT A HOTELが目指すビジネスモデルが成り立たない…プレッシャーもありましたが、なんとか無事に終えることができて、ホッとしましたね。
ー入社直後に会社としても戦略的に重要度の高いプロジェクトを任されて、当時はどんな心境でしたか。
渡辺:正直、大変でした(笑)。純粋な事業会社で働くことが初めてだったこともあり、仕事のやり方も大きく異なります。法律事務所では自分の得意領域を主に求められていましたが、NOT A HOTELでは自分がこれまで経験のない領域も主体的にリードしなくてはいけません。そのためには自分自身のビジョンを持ち、計画をつくり、様々なステークホルダーを巻き込む力が問われます。このギャップの大きさに苦労していますが、こういう経験を求めて入社したので、日々邁進しています。
ー入社DAY1から苦しい状況が始まったなか、ポジティブなメンタリティを維持するためにどんなことを意識しましたか。
渡辺:一つ自分の強固な得意領域があることは支えになります。私の場合は金融法務です。まずは自分の得意な部分で組織に貢献する。同時に、自分の苦手な部分や未知の領域に挑戦して少しづつ活躍できる幅を広げていく。
あとは自分のなかで溜め込まず、周囲の仲間にサポートを求めることも大事だと感じました。スタートアップと聞くとキラキラした面が強調されがちですが、実務は骨が折れるようなことの連続で、挫けてしまいそうになる場面が何度も訪れます。プロフェッショナルとしての責任感ゆえに、何でも自分でやらなくては、と思いがちなところもありますが、自ら助けを求める動きも一つ大切なことかなと思います。NOT A HOTELは、分野の異なるプロフェッショナル同士がカバーし合うことで、一人では得られない推進力を生み出しています。それが私たちが掲げる「ワンチーム」にもつながる考え方かなと。
ロイヤーである前に、
ビジネスプレーヤーでありたい
ーNOT A HOTEL2ndの立ち上げ、NOT A HOTEL DAOのローンチなどを経て、NOT A HOTELらしい法務のあり方も含め、今後のご自身の役割についてどのように構想してますか。
渡辺:日々意識しているのはリソースの使い方です。NOT A HOTELはまだスタートアップなので、リソースが限られるなか、常に優先順位を見極めて素早く判断する必要があります。そのためには、ビジネスの一プレイヤーであるという感覚が必要不可欠であると認識しています。
また、NOT A HOTELは気鋭のスタートアップとして、次から次へと革新的なチャレンジをしているように見えているかもしれませんが、実は内部では保守的な判断・運用をしています。「すべての人にNOT A HOTELを」というミッションを掲げていますが、大前提にNOT A HOTELを所有してくださるオーナーさまからの信用があってこそです。あらゆる意思決定の背景には、「いかに信用されるブランドをつくるか」があります。プロダクトやビジネスの前提にNOT A HOTELならではのリスクマネジメントの思想があるのだと思います。
ー新しいチャレンジほど、リスクマネジメントが求められると。
渡辺:例えば、CGパースの状態の物件をインターネット上で販売し建てるビジネスモデル、あるいは宿泊の利用券をNFT化するアイデアなど、新しいチャレンジには落とし穴があるものです。法的観点はもちろんですが、お客さまにとって良い体験につながるかも含め、リスクマネジメントを徹底する。思い切りチャレンジするためには、しっかりとしたリスクマネジメントができている必要があります。明確な線引きが存在しない論点をどう形づくっていくか。法務としてのクリエイティビティが日々求められています。
渡辺:リスクマネジメント以前に、「ブランドとして、どうあるべきか」という視点は経営陣をはじめ、NOT A HOTEL全体に浸透してる考え方だと思いますね。法務界隈の知人からは、事業部との駆け引きに疲弊する、といった話を聞くことも多いですが、この会社で、他の社員に言うことを聞いてもらえないとか、法務の観点が蔑ろにされるなどという思いをしたことは一度もありません。
ブランド観点で、リーガルを捉え直す
ー渡辺さんがNOT A HOTELで今後チャレンジしようと思っていることについて聞かせてください。
渡辺:一つはNOT A HOTELのブランドづくりにもっともっとコミットしていくことです。ブランドとは、建築やソフトウェアといったプロダクトのみならず、セールスやコーポレート、もっと言えば私の専門領域である法務も関わる組織の集合体のはずです。例えばセールスであればお客さまと触れ合うなかでの所作、私が関わる法務においても、契約書のあり方一つがブランド価値につながると思うんです。
どれほど細部であろうが、お客さまと関わるすべての接点がブランドにつながる。その観点で法務を見渡すと改善できるポイントがたくさんあるので、そこをしっかりリードしていきたいです。
NOT A HOTELで働き始めてから一年が経過し、法律事務所で弁護士として働いていたときとの違いで最も強く感じているのは、自分で事業やブランドの意思決定に関われているワクワク感です。プロダクトはもちろん、NOT A HOTELの世界観そのものに心底ワクワクしているからこそ、自信を持って商品を勧められるし、自然と人を巻き込みたくなる。
巻き込まれた人が、さらに別の人々を巻き込んでいく渦ができているのを感じます。側からみるとNOT A HOTELは突拍子もないようなことをやっているように見えるかもしれませんが、やっていることは実はシンプルで、目の前のお客さまのことを第一に考え、満足してもらえるように渾身のサービスを提供する、という地に足のついたビジネスなんです。そういう芯の通った骨太のビジネスを、より強いものにしていきたいですね。
ー最後に、現在金融コンプライアンスと法務アシスタント(パラリーガル)を募集してますが、どんな役割を期待していますか。
渡辺:現在私がかなり幅広い範囲をカバーしているのですが、金融コンプライアンスは、その中でもグループにとって戦略的に重要な金融領域を担ってもらうことを想定しています。コンプライアンスといっても、NOT A HOTELグループはアイデアに溢れていて、「あれはできないか、これはできないか」という話があちこちで飛び交うので、必然的に多くの新規事業と向き合うことになります。そこでは、どうやったらリスクをコントロールしながらアイデアを実現できるか、クリエイティブかつバランスのとれたアイデアを出すことが重要です。受け身では決して成立せず、主体的に動いて社内外とやりとりをし、事業を推進させる役割も期待されます。
法務アシスタントの方には契約周りの細かい作業や、契約書・情報の管理の改善を担ってほしいと考えています。もちろん契約書の細かい一言一句にも気づけるソフトスキルは求められますが、何よりも目の前の業務がブランド形成に直結していることに誇りを持てる方が望ましいですね。それにより時々で変わる環境や役割にも抵抗なく順応できると思いますし、今後法務に閉じないキャリアを開拓していくうえでも必要なマインドセットではないかなと。一つの事業、一つのブランドを育てていく手触り感やダイナミズムを味わいつつ、二度とないこのフェーズを一緒に楽しんでいきたいです。
私自身、これまで専門性を高める方向のキャリアを歩んできましたが、それは同時に自分の世界を限定することでもありました。それが今、NOT A HOTELに来て、これまで会ったことのない人たちとの新しい出会いや、能力、気力、人脈をフルに活用しないと解決できない難題を前に、自分の世界や可能性が急速に広がっているのを体感しています。専門性を活かしながらも、役割に限定されず、自分の可能性を試したい、世界を広げて新しいことにチャレンジしたいーーそう思っている方には、ぴったりの環境だと思います。
採用情報
現在、NOT A HOTELの法務をはじめ複数ポジションで採用強化中です。カジュアル面談も受け付けておりますので、気軽にご連絡ください。
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