『美は乱調にあり』を読む/「ダダ」の正体/「Seasons of Love」
2021年12月20日
先日の日記にチラッと書いた瀬戸内寂聴の『美は乱調にあり』を読み終える。
日記には"淡々とその(伊藤野枝の)人生がー"と書いたが、後半少々筆が乗りすぎでないか?と思える部分も。ま、それが読みどころでもあって最後まで面白く読んだ。
『美はー』は野枝の最後のパートナーであるアナキストの大杉栄が、三角関係(四角?五角?)のいざこざで神近市子に刺される「日蔭茶屋事件」までを描いたもの。その後は、『美はー』から16年の時を経て書かれた『諧調は偽りなり』(文庫上・下巻) に続く。
大杉の言葉と言われる「美は乱調にあり 諧調は偽りなり」 その言葉どおり大杉が提唱するのはフリーラブ。が、ただの女好きにしか見えましぇんって! 野枝はそれまでのパートナー辻潤と別れて大杉のもとに走ったのだが、この本を読む限りでは辻潤のほうが絶対いい。といってもその辻もダダイズム(既成の秩序や常識に対する、否定、攻撃、破壊といった思想)に染まり、最期は餓死。シラミまみれで発見というから、あの時代の人って何がしたかったのか......。
『美はー』はそうした思想の部分に深く切り込んでいないぶん、だいぶアレな大正男女の恋愛通俗小説として楽しむことができる。思想と史実は他の本でおさえておきたい。
ついでにダダイズムについて調べる。第一次世界大戦期にヨーロッパをはじめ世界に広がった思想。それまで重要視されてきた常識や秩序が戦争によってあっけなく崩壊する。その虚無感の中から既成概念や理性、作為を否定、破壊する思想が生まれ芸術分野を中心に広がっていった。(と、ザックリ理解)
で、このダダが1920年代のシュルレアリスム( 「シュール」の語源)につながり、それがさらにコーエン兄弟作品のような不条理劇へとつながっていく。フムフム、なるほど。
でもいちばんビックリしたのはウルトラマンの怪獣「ダダ」がダダイズムに由来していたこと。名前だけじゃなく存在そのものにダダイズムを反映させていたというから奥が深い。
Netlixの映画『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』(2021年)を見る前に、そのジョナサン・ラーソンの『RENT』(1996年初演)の映画化作品(2005年)を見る。
プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」を下敷きにしたストーリーには、同性愛者やエイズ、薬物依存、貧困といった問題が多重的に描かれてる。なので当然重い、かなり重い。が、それを音楽が包み込む。台詞ではない表現が心にストレートに届く。
メイン曲「Seasons of Love」は、ドラマ『glee』でもメインキャストの一人、フィンを演じるコリー・モンティスの死去時にも歌われた。分に換算すると52万5600分の1年。その価値を計測する方法を問いかけ、愛で測ろうと結ぶこの曲。音楽って素晴らしい。
その素晴らしさを見事に体現してみせたミュージカルスターの突然の訃報。残念でならない。
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