
映画『善き人のためのソナタ』(2006年)のザックリとしたあらすじと見どころ
映画タイトル:善き人のためのソナタ
原題:Das Leben der Anderen
製作年:2006年 ドイツ
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
映画『善き人のためのソナタ』は、
1984年の東ドイツで反体制派の劇作家を監視盗聴するシュタージ局員の葛藤を描いた映画です。盗聴器から聴こえる他人の生き方や愛し方に触れ心が揺さぶられていく主人公。
旧東ドイツだけでなく、葛藤する人の心を肯定し再生させる力に満ちた作品です。(2007年アカデミー賞外国語映画賞受賞)
キャスト
・ウルリッヒ・ミューエ(ゲルト・ヴィースラー)
国家保安省の秘密警察(シュタージ)の尋問官
・セバスチャン・コッホ(ゲオルク・ドライマン)
劇作家
・マルティナ・ゲデック(クリスタ=マリア・ジーラント)
女優 ドライマンの恋人
・ウルリッヒ・トゥクル(アントン・グルビッツ)
ゲオルクの上司 大学の同期
・トーマス・ティーメ(ブルーノ・ハムプフ)
ドイツ社会主義統一党中央委員会の大臣
映画『善き人のためのソナタ』の見どころと感想

1984年の東ベルリン。反体制派の劇作家ゲオルク・ドライマンの監視を命じられたゲルト・ヴィースラーはドライマンの家に盗聴器を仕掛け監視を始めます。
聞こえてくるのはドライマンと恋人クリスタの愛の生活、そして芸術に込めた2人の思いでした。
しかし、クリスタには薬物を使用していること、そしてハムプフ大臣の愛人であるという秘密がー。苦しむクリスタと、そのことに気づいていながらどうすることもできないドライマン。
ヴィスラーはその様子を耳にしながら、自分の人生の空虚さに気づいていきます。コールガールを呼んでみたものの満たされない。ドライマンの部屋から盗んだブレヒトの詩集を読んでさらに虚しくなる。
そんな中、ドライマンに強い影響を与えていた演出家のアルベルト・イェルスカが自殺。ドライマンは仲間とともに、多くの芸術家が自殺に追い込まれている東ドイツの実態を西側に知らせようと動き始めます。この動きをつかむヴィスラーは上司にある報告をしー。
評)「監視」する者を「監視」する重層的体験とその先にあるもの
全体主義、総監視社会といわれた東ドイツ。冒頭、尋問のプロとしてシュタージ大学で教鞭をとるヴィスラーは、使命感に満ちた真面目そのものの人物として描かれています。そんなヴィスラーですが、ドライマンへの監視”体験”を通じて心が大きく揺さぶられていきます。
この映画の見どころは、「他者の人生を見ること(聴くこと)」によって心が揺さぶられる”体験”を視聴者にもさせている点にあります。ドライマンを監視しているヴィスラーを監視する視聴”体験”です。
イェルスカが亡くなった知らせを聞いたドライマンがイェルスカから贈られた楽譜のピアノ曲「善き人のためのソナタ」を奏でるシーン。それを盗聴して涙するヴィスラー。そのヴィスラーを見て何を思うか。愛の尊さ、芸術の力。
しかし、そんな美しいだけではない思いがこみ上げてきました。自分が正しいと思ってやってきたことへの疑問と葛藤です。
映画はベルリンの壁の崩壊、東西ドイツ統一後と変化していく中でのヴィスラーとドライマンを描いていきます。
民主化という「解放」の一方、アイデンティティを全否定されたかのような旧東ドイツの現実。身近な人が内通者だったをわかるシュタージの監視の記録は多くの人々に深い傷を残しました。
国家体制ゆえ、とはいえ、自分自身の生き方は自分で引き受けるほかないという重みも。が、この映画はそんな旧東ドイツに生きた人々を否定することなく、再生への確かな光を灯しています。そしてその光は、この映画を見ている自分にもあたっていることに気づく。素晴らしい作品です。ぜひ。