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「弟子」中島敦 感想
SNSで山月記のセリフを見て、ふと読みたくなってこの本を買いました。
山月記以外にも中島敦の作品集が9篇も収録されていて、読み応えのある本だと思います。
まだ全部読み終えていませんが、
その中の「弟子」という作品がとても気に入ったので
紹介しようと思います。
あらすじ
この本の舞台は中国の春秋時代で、
孔子の1番弟子である子路について
孔子や他の弟子たちとの16の話からなる歴史物語です。
孔子といえば「論語」などでは聞いたことがあると思います。
彼は、儒家の始祖で有名な思想家・哲学者です。
反対に今作の主人公である子路は、
孔子とはまるっきり正反対な軍人気質な人物です。
それを表す僕が好きな会話があります。
子路が孔子に弟子に入りする前の話です。
「汝、何をか好む?」と孔子が聞く。
「我、長剣を好む。」と青年は昂然として言い放つ。
学よりも剣を好む子路。
今でいうところの脳筋とイメージが近いかもしれません。
そんな子路ははじめ孔子を馬鹿にしようと訪ねますが、
あっさりと論破されました。
その後、孔子の持つ人間的な器の大きさに惹かれて
弟子入りをし人生を共に歩むことになります
まっすぐな(頑固)な子路
この物語の最大の魅力はなんといっても
子路の子路にあると思います。
どんな性格かというと
・真面目
・正義感が強い
・頑固
・仁徳を大事にする
な人です。
自分が納得のいく教え・答えでなければ
たとえ孔子の教えだとしても、
弟子の誰よりも反論と質問をします。
納得すれば、まるで子供のようにうなずく子路は
孔子にとってもかわいい弟子だったのだと思います。
実際に本文でも、孔子は子路のことを
大きな子供だと見ていました。
それくらい子路のまっすぐな純粋さは
読んでいてとても魅力に感じました。
この物語は、19のエピソードから
子路の人生をたどります。
どのエピソードからも、
子路の性格が読み取れ、読んでいてとても楽しくなると思います。
好きなエピソード(*ネタバレあり*)
そんな子路を表す好きなエピソードを1つ紹介します。
ネタバレになりますのでご注意ください。
ある晩、子路が瑟という楽器を奏でていました。
別室で聞いていた孔子は、その音が
殺伐激越、荒々しく、それは子路の精神によるものだという批判を
弟子を通じて子路に伝えます。
これを聞いた子路は
自分に音楽の才能がないことを自覚しつつも、耳と手のせいにしてその精神を深く考えていなかったことを反省します。
それは7日間も絶食をし、骨が出てくるほどの悩みました。
数日後に再び瑟を奏でたところ、
今度は孔子から何も言われませんでした。
子路は、何もお咎めがなかったと嬉しそうに笑いました。
しかし、実際は子路の音は何も変わらず
荒々しい音だったのです。
そうして、夫子がそれを咎め給わぬのは、痩せ細るまで苦しんで考え込んだ子路の一本気を憐れまれたために過ぎないことを。
子路の真面目さは、孔子が憐れみをあたえるほどのものでした。
このエピソードは短い話ですが
僕が読んだ中で一番
子路の真面目さや純粋な心が表れていると感じました。
子路は自分の音が改善されたことを全く知りません。
それでも師匠に認められてうれしい純粋な気持ち
をつねに子路は持っています。
不器用ながらも不器用なりに真面目に取り組む
そんな子路の物事への取り組む姿勢
が僕にはなく、うらやましいものに見えました。
何かと理由をつけてあきらめることもまだまだ多いですが
僕は子路のこの姿勢を見習いたい・身に着けたいと思いました。
孔子との関係性
先ほどは子路の性格がこの本の魅力だと書きましたが
もう一つの魅力は
師匠である孔子との関係性
であると思います
子路と孔子は全く異なる性格の持ち主です。
だからこそ、子路は孔子に憧れや尊敬を抱きます。
それだけでなく、
生涯を孔子のためにささげる、孔子をあらゆる悪から自分が守る
というほどの忠義を持ちます。
この子路の仁徳を重視する考えは
自分の命よりもより大きいもの国や師匠を優先する
いわば自己犠牲の精神だと思います。
こうした精神は、中々理解が難しいです。
しかし、身近な師である孔子が登場することで、
子路の信念はより強固なものとし
私たち読者に子路の人物像をより明確にしていると感じました。
だからこそ、この師弟関係がよりこの本の面白さを
引き立てていると思いました。
まとめ
この本を読んで、子路の
真っすぐに己の信念を貫き通す美しさ
を体感しました。
自分の信念を曲げないことはなかなか難しいとは思います。
それでも
自分も少しでもその生き方を真似して生きていきたいと思いました。
あと、読んで疑問が浮かびました。
なぜ中島敦はこの子路という人物を題材にしたのか
です。
この記事を書いている段階ではさっぱりわからないですが
その疑問に関してはすべて読み終えてから考えてみることにしました。