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販売会での「挑戦」-教師も生徒も、夢中で取り組む「作業学習」の仕掛けづくり(後篇)-

 前回のnote記事はこちらです。

    本番一週間前。販売会のリハーサルの日がやってきました。前日まで、「今考えられるベストでやってみよう」と最善を尽くしたと思っていましたが、いざリハーサルをしてみると、生徒も教師もしっくりこないところがいくつか出てきました。まず、販売場所ではレジ前が混み合ってしまうこと。販売する場所は、入り口で入場制限をしているのでそんなに多くの人は入っていないのですが、レジ前に人が溜まるとお客様が製品を近くで見られないという構造になっていました。これは、リハーサル後の職員の反省会で、「レジの場所と向きを変えよう」というアイディアが出て(ほんの1メートルです、でもそれだけで、動線がぐっとよくなるイメージが湧きました)、ひとまず解決です。また、お客様アンケートの場所も混み合うことがわかりました。これは、「アンケートを渡す場所と、書いてもらう場所を別々にするのはどうか」となり、これも当日やってみて、まだ混み合うようならば別の方法を考えよう、ということになりました。その他、こまごました反省点が出たのですが、一番の問題点は、「生徒の接客態度」でした。

 生徒は一生懸命接客していますが、製品の特徴が覚えられないのです。自分が担当した製品は説明できますが、その他の製品は、お客様から質問されても答えることができませんでした。答えることができなかっただけでなく、その場で周りにいる教師を呼ぶこともできず、固まってしまいました。

 これでは、前回の販売会と状況が変わりません。そこで、紙工芸班のメンバー全員で、「製品のおすすめポイント」を考える時間を取ってみることにしました。私ともう一人のMT(メインティーチャー)は、ある意味ここに賭けたのです。「自分達が作った製品を、誇りをもって売ってほしい」というのは、最初に私達2人が思っていたことでした。

 リハーサルの翌日、「おすすめ製品ポスターを作ろう」と生徒に伝えました。生徒は自分がおすすめする製品について、おすすめポイントを簡単に書き、笑顔の写真とともに、ポスターにします。イメージするなら、スーパーの生鮮食品のコーナーに、地元の人が作った野菜が売っています。そこには、「私達が作りました!」と笑顔の写真と、美味しい食べ方などが載っている、あれです。生徒達は自分が作った製品について、饒舌に語っていきます。ポスター用紙にあふれんばかりに文字をつづる生徒もいます。

 「これだね」

 授業中、私ともう一人のMTの先生は話しました。「これを校内に貼り出そう。廊下を通る子どもたちや先生方に、こんな製品があるんだと予め伝えておくことで、当日の生徒の接客の負担もかなり減るし、このポスターを(言葉は悪いですが)カンペにすれば、自分が担当しなかった製品についても説明ができます。こうして、当日に臨むことになりました。

    この頃のツイートはこちら。

    いよいよ当日です。一日目の朝、先生方も生徒も、見通しを持っているからか、それぞれの持ち場で余裕の笑顔で準備しています。開店15分前、紙工芸班の生徒と先生方が全員集まって来ました。「朝礼」の時間です。実は、普段の作業学習では「終礼」はしますが「朝礼」はありません。作業グループごとに簡単に連絡をするだけ(聞けば、それさえしていないグループもあるそうですが)。この日は販売会ですので、どうしても2つのことをやりたかくて、MT2人で仕掛けました。1つ目は、接客の練習。リーダーの声に続いて、全員で台詞と会釈の練習をします。「いらっしゃいませ」「少々お待ちください」「お待たせしました」「おそれいります」「ありがとうございます」など、気がつけば先生方も生徒と一緒になって声を出しています。一体感、こんなところで感じることができるとは。少し、感慨深くなりました。そしてやりたかった2つ目は、MTの思いを生徒と先生方に伝えること。1日目は私が担当しました。「まずみんなが楽しんで。マスクしてるから表情は見えないけど、目はしっかり笑いましょう。そして、こんな中だけど、校内の先生方や小学部のかわいいお客様が来て販売会ができることを、楽しんでいきましょう!」 販売会ではありますが、生徒にとっては最後の作業班での行事。みんなでたくさん笑顔になりたかったのです。そして、実際の販売会の様子はこちら。

    生徒の接客態度は、見違えるようによくなりました。製品がどんどん売れていきます。

 しかし、一日目を終えて、特定の製品が多く残ってしまいました。それは祝儀袋でした。生徒は使い道がよくわからず、「お祝いの時に使います」「この柄は、◯◯です」ぐらいしか説明できません。

    一日目を終えて、私達MT2人は、作業室で頭をかかえていました。「このままじゃ、ほとんど残っちゃうね。」「どうして作ることにしたんでしたっけ?これ、新製品ですよね。」「先生方の中に、祝儀袋があったらほしい、って言う声があったんじゃなかったかな。確か、小学部の先生から。」「あっ!」

 2人ともここで気づきました。もしかしたら、祝儀袋をつくったということを、校内の皆さんが知らないのではないか、と。確かに、品名は「ぽち袋(大)」です。これでは無理です!(笑)

 そこで、翌日の呼び込みの生徒のプラカードの裏に、急遽、祝儀袋を製品袋に入れたまま、両面テープで貼りました。そして、「祝儀袋にいかがですか?1枚入り80円」と大きく書きました。これを持って、明日は校内を練り歩いてもらうのです。明日の呼び込み担当は、小学部の児童達にも大人気、愛想がよく、笑顔いっぱいの生徒です。彼に全てを託してみよう、そう思い、前日の準備を終えました。

 そして2日目!

 というわけで、例の製品は呼び込みの頑張りでほとんど売れ(少しは残ってしまいましたが)、大成功に終わりました。終わった後の後片付けと反省会。本当に和やかで、互いの苦労を労いながら、いい時間を過ごすことができました。

 と、これで終わるかと思いきや・・・この数日後、放課後に私が教室で事務仕事をしていると、同じ作業班の先生がやってきました。

 「hana先生、俺一つ心配していることがあるんですけど」「どうしました?」「いや、先生、傷ついてるんじゃないかなって」

 ・・・すっかり忘れていました。販売会のリハーサルの後、別の作業班の先生に、「新しいことを次々にやらないでほしい、こっちでもやったらどうかという案が出てきてしまう。百歩譲って、やるならやってもいいんですけど、前もって伝えてほしい」と言われたのです。その作業班も、良いアイディアを次から次へと思いついて、すごいな、うちの作業班では思いつかなかったな、と思うことがたくさんあったので、「あ、そんなふうに見られていたのか・・・」と少しびっくりしましたが、「不快な思いをさせてすみません」とだけ謝り、それっきり、すっかり忘れていたのです。

 「お気づかいありがとうございます。でも私、寝たらすっかり忘れる特殊能力持ってるんで、大丈夫です」と伝えると、その先生は笑いながら「俺もです、一日はもやもやするんですけど、考えてもしょうがないな、って切り替えられるから」と言いながらも、「でも改めて考えると、今回の販売会に限らず、いろいろな問題点をはらんでいるのが、うちの作業学習だと思うんです。それぞれの作業班で、やり方があって良くて、それが結果的に、販売会のコンセプトに合っていることが大事で。でも今回、販売会全体を取り仕切っている実行委員会から出てきたコンセプトが弱くて、それなりに汲み取っていたのは紙工芸班だけで、あとはなんだか、好き勝手にやってて、全体の統一感がなかったように見えて。どうすればよかったんですかね・・・」と、ご自分の考えをまっすぐに私に伝えてくれました。思えばこの先生とこんなにじっくり話したのは初めてでした。気を使わせてしまったことは申し訳なかったですが、お話するきっかけになったのはよかったです。改めて、信頼できる仲間だと感じました。

 何はともあれ、今回の販売会では、たくさんの仕掛けをつくり、たくさんの挑戦ができました。一番の学びは、「人を巻き込むことの大切さ」です。巻き込まれながらも、夢中で取り組んでいる先生方や生徒達を見て、これからの自分の人生で、一つ大きな経験ができたな・・・と感じています。

 特別支援学校に来て良かった!チャンスを与えていただいて良かった!

 次の行事では、もっともっとレベルアップさせて・・・できることなら、もっと学校全体の統一感、一体感を作りたいです。そして地域に学校のことを発信したいです!もちろん、皆さんを巻き込みながら(笑)。

 まだまだ、挑戦は続きます。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

☆私、今月は誕生月です。こんな私を応援してくださる方がいらっしゃいましたら、是非サポートをお願いします。全額、ボランティアをしている学び直しサークル「みちしるべ」の活動に使わせていただきます。

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