やぎにひかれて玉川上水参り。〈やぎさんのジューススタンド _小平市たかの台〉
一軒家を改装した『やぎさんのジューススタンド』で自家製コーラを飲みながら、店主八木沼志保さんとおしゃべりをして、その多才っぷりに驚いた話。
2023年3月下旬、鷹の台駅近くにオープンした『やぎさんのジューススタンド』。
小平でスタンドスタイルのお店はあまり耳にしないので、どんな人がどんな想いではじめたのか、とても気になっていた。
飲食店が並ぶたかの台本通りより一本入った玉川上水に近い住宅地に、玄関先にベンチが置かれた一軒家。
『やぎさんのジューススタンド』は店主の八木沼さんが、空き家になった実家を改装してはじめたお店である。
メニューは自家製シロップを使ったジュースや中国茶。
玄関先ある窓口で注文して、持ち帰るもよし、ベンチに座ってゆっくり飲むのもよし、玉川上水散歩の休憩にぴったりの場所だ。
この日いただいたのは自家製コーラ。ちょうどいい甘さと刺激、スパイスが効いた大人のコーラで癖になりそう!
シロップは国産のフルーツを使っていて、できるだけ皮ごと漬けているこだわり。
中国茶はたっぷり2〜3杯分飲めるティーバッグ。ベンチで楽しむ場合はお湯の注ぎ足しもしてくれるそう。
ベンチは玄関先と庭にもあり、なつかしくゆったりと時間を忘れてしまいそうな雰囲気がある。
庭のベンチのそばに置いてある棚が気になり尋ねると、中には本が入っていた。
「ここでゆっくり本を読んでもらえたらと思って。図鑑は子どもに人気です。祖父母のものなので古いものもあって、今の情報と違うこともあるのですが、それがまたおもしろいと喜んでくれる人もいます」
と八木沼さん。
ジュース屋さんの庭で本を読みながらひといきなんて、とても贅沢な時間ではないだろうか。カフェとはまた違う、こんにちはから井戸端会議がはじまるような、そんな和やかな場所になっているんだろうと想像する。
ムサビ(武蔵野美術館大学)に通っていたという八木沼さん。チラシやロゴのデザインも自身で手がけている。
なぜジュース屋さんを?と聞くと、はじめはジュースのもとになるシロップの販売をしたいと思っていたが、製造のハードルが高くあきらめかけた時に、空き家になった実家でジューススタンドをやってみようとひらめいてはじめたという。
飲食店で働いたこともなく、何もわからないところからはじめたという行動派だ。
しかし、ここから八木沼さんの意外な経歴にさらに感服することに…
窓口のカウンターに置かれた本。子どもが映ったその表紙にはアフガニスタンの文字。どなたの作品かなと手に取ろうとすると、
「これ、私が撮ったんです」とさらりと言われ、本業は戦場カメラマンなのか⁉️と驚いたが、この時にはカメラの仕事はしていたわけではなかったという。
旅好きでさまざまな地で写真を撮ってきたそうで、2004年に友人とアフガニスタンへ渡った。別の時期にカメラマンのお兄さんもアフガニスタンを訪れて写真を撮っていたこともあり、兄妹の写真と友人の文章、それぞれの視点を表現した作品を作ったそうだ。
他にもイエメンで撮った“扉”の写真を和紙に印刷した作品が賞をとったこともあるんだとか。
巻物のようにながい和紙に異国の扉をいくつも並べてデザインされた作品は、そのまま額縁にいれて飾っても美しく、スカーフや文具などのグッズにもできそうな見事なものだった。
「今はブラジリアン柔術のオフィシャルカメラマンをやらせてもらっています」と、またさらりと想像を超えるワードが飛び出してきた。
「ブラジリアン柔術ですか!?」と驚きを隠せない私。
「もともとは選手でした。日本人初の黒帯ムンジアル王者で…」と。
目の前にいるジュース屋さんは、美大卒でアフガニスタンで写真を撮り、ブラジリアン柔術の日本人初の黒帯でオフィシャルカメラマン。
「とっちらかった経歴ですよね(笑)」とはにかみながら話す八木沼さんからは、アームロックをきめる姿は想像できない。
しかし、ジュースの話をする顔も、カメラの話をする眼差しも、ブラジリアン柔術の話をする声色も、楽しそうな八木沼さん。
自分に正直で、まっすぐにやりたいことに向き合ってきた人柄が、初対面でもひしひしと伝わる。
そして何より、面識もなくどこの誰が書いているかもわからない『のしてん、こだいら。』のカードをお店に貼ってくれていたという懐の深いお方だ。
カードを目にしてうれしくなった私が、ぜひ記事にさせてほしいといきなりはじまった今回のインタビュー。
思いがけずジュース以外の話題も広がり楽しい時間になった。
マスコットのやぎさんはS.BUGIというぬいぐるみ作家さんのもの。腹巻きに草をしのばせている白やぎさんと、白やぎさんからのお手紙を持っている黒やぎさん。
SNSでは黒やぎさんのほっこりする写真が投稿されているので、ぜひチェックしてほしい。
(お)