映画「百円の恋」と「YOLO 百元の恋」
「百円の恋」
未見だったので、このタイミングで観てみた。
テンポやギャグセンスが合わないところがいくつかありましたが、中盤からはのめり込んで観た。
何と言っても安藤サクラが素晴らしい。
引きこもりニートがボクシングに目覚める話で、それ自体に面白みはそこまでないけれども。
安藤サクラが演じることでベタなお話に命が吹き込まれている気がします。
映画としての輝きは陽というより陰。ゲロやタバコや怒鳴り合い、人間のきったねえ部分が特盛になっていて、そこを楽しめるか、が鍵の映画かと。
で、ある程度楽しんだんですが、これをリメイク、ってのは相当にハードルが高えなと思いました。
まず安藤サクラを超える演技やキャラを立てられるのか?という疑問が1点。
もう一つは、こういう人間の腐った部分、情けない部分に光を当てた映画の場合、楽しみ方が「スカッと爽やか」にはならないんですよね。
ゴミ、ゲロ、錆び、敗北、こういう通常触りたくないきったないものを愛でることは本当にできるんだろうか?
そこを回避して、スカッと爽やかに仕上げたら、それはオリジナルの良さを無視したことになっちゃうぞ、と。
ちゃんとゴミのような生活を描けるのか?
そういう気持ちで、少し不安になりながら、リメイク版を観に行ったんですが……
「YOLO 百元の恋」
杞憂、。。圧倒的杞憂、でございました。
思えばこの主演脚本監督を務める贾玲(ジア・リン)は、前作デビュー作の「こんにちは、私のお母さん」が泣くほど素晴らしかったのだった。
単に映画がよくできているだけでなく、世界で1000億円を遥かに超える額を稼いだんだった。
100億円ちゃいまっせ。1000億円。
YOLOはそこまでいかついヒットはしていないものの、それでも700億円を突破し、桁違いの風格を見せつけている。
そうだ。とんでもなく力のある俳優監督なんだった。
という。
そんな監督、この世にいる?
コメディアン出身で、初監督作品で1000億稼ぐて。
たけしで言ったら、「その男、凶暴につき」が1000億円売れて、「3-4X10月」が700億円売れるってことだから、まじでありえない。
そういう、桁違いの人が作った映画であった。
杞憂も杞憂。
しょうもない『陽』に頼らず、デブパートが長い長い。
映画的には体を絞ったかっこいいパートが売りだとは思うんですが、オリジナルが醸し出す『負』の愛しさを、デブパートできちんと描き続ける。
いやあ素晴らしい。
一つ懸念していた、「最終の試合で勝ってしまうのでは?」というのも杞憂に終わった。
きちんと負ける。
引きこもりニートが一念発起したところで、ボクシングの試合に勝てるほど甘くはない。ちゃんと地道に何年も身体を磨いてきたやつに勝ててしまう世界ではない。
それでも、百円の恋がエモかったのは、ロッキーと同じく「負けたけど、勝ったで」という部分。
自分のルールを設けることで、人は誰だってちゃんと勝てるんやで、というそういう部分にあるのだった。
ゴミのような生活をしている場末のボクサーが、世界チャンピオンとの試合に抜擢され「勝てるわけねえから、最後まで立ってられたら俺の勝ち」と決めて、試合に望む、という・・・。それがロッキーのクライマックスの熱さだった。
百円の恋は40年の時を経て『ロッキー』をやってみせたわけで。
そして百円の恋から10年。
「YOLO」は魂をしっかりと受け継ぎ、見事にロッキーをやってのけたのだった。
特に涙が出たのは、ガチで「ロッキーのテーマ」がかかるんですよ。
どういうお金の使い方で使用できているのか全く謎なんですが、「ロッキーのテーマそのもの」がかかって、トレーニングがはじまる。
映画「どついたるねん」では、ロッキーのテーマをパクったような楽曲でトレーニングしてて、まあそれはそれでしゃあねえな、とは思ったんですが、お金ってこういうふうに使うんじゃねえの?と。
そして、百円の恋、より好きなのは、ラスト。
オリジナルでは「勝ちたかった」と安藤サクラは泣くんですけど、
今作は「私、勝ったよ」と笑う。
いや、試合は負けなんですよ。
負けなんだけど、引きこもりのクソデブが50キロ以上減量して、試合して、一発でも良いパンチ当てれたら、どれだけボコされても「勝ち」だろう、と。
そういう部分で変にひねることなく「勝ち」と宣言できるのは素晴らしい。
ロッキー1でも、勝ち名乗りを受けて飛び跳ねるアポロをカメラは捉えるが、それよりも感動的なロッキー、エイドリアンの呼びかけ合い。
彼らは、試合には負けてるんだけど、ぜんぜん勝ってるんですね。それを今回は素直に描いているので本当に良かった。
*****
しかし、ジアリンは1年芸能界から姿を消し、20キロ増量してから50キロ減量したらしい。
20キロ増量してから、50キロ減量。
映画監督が?
いやあ。意味不明。
ほんと、こういう人間のパワーにしびれることができるのも映画の素敵なとこやな。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?