米軍に学ぶヨコスカ・チーズケーキ物語
横須賀基地がなぜ愛されるのか
コロナ禍で飲食業の方々に、一つヒントになる事があると思うんですよ。それは、日本にない味覚を持ってくることです。The Wall Street Journal2021年4月30日号は、日本の横須賀市がアメリカ海軍と協力して、本場のニューヨーク・チーズケーキを横須賀に紹介し、本場のレシピのチーズケーキを売りにして町おこしを成功させたストーリーを紹介しています。
横須賀基地は、米海軍が誇る米国以外での最大の基地です。10年前に海軍は日本との友好のジェスチャーとして、ハンバーガーとニューヨークスタイルのチーズケーキのレシピを日本と分け合ったら面白いのじゃないか、と考えたそうなんです。誰が、どういう経緯でだか不明なんですが。(笑)
それでレシピを厳格に再現してくれるレストランを募り、横須賀市役所の協力で、米海軍公式ニューヨーク・チーズケーキを出すレストランがある街ヨコスカをPRし始めたと言います。
米海軍のおえらいさんの一人は、ヨコスカ海軍ハンバーガー(下の写真)は本場のよりうまいと太鼓判です。でもチーズケーキに関しては、レシピは守っても、なかなか日本人に愛される逸品にはなりませんでした。
ブランドを守るための努力
米海軍は、正式の米軍スタイルのニューヨーク・チーズケーキの定義を厳密にしました。クリームチーズは濃厚で、クラスト(パイ部)はグラハムクラッカーを、トッピングはワシントンかオレゴン産の缶詰チェリーの使用を義務付け、重さは3.2オンス(約90グラム)などと厳密にしました。
一方日本のそれまでのチーズケーキと言えばスフレ風で、軽い味で小さく切り分けて出されます。横須賀市役所は、海軍とコラボしてまったく真逆の本場のチーズケーキを横須賀名物にすべく、創り出そうとしたのです。
横須賀市観光局の副局長は「そんなに厳しいことは言わなかった」と言いながらも、厳密なレシピを要求したようです。
フィリング(具)の濃厚さにこだわり、認定したレストランに対しても、抜き打ちでチーズケーキをチェックし、基本的な要素、例えば重さや大きさが守られているか検査しました。
ニューヨーク・チーズケーキは特に大ぶりの切り方が標準で、「むさぼり食うことができない大きさ(関係者)」が大事だというのです。今は横須賀市内12のレストランで本場のニューヨーク・チーズケーキが食べられます。
でも、本場のレシピじゃ日本人の口に合わない
観音崎京急ホテルは、初期のころから認定レストランの資格をとって7年間、レシピを守ってきましたが、チーズケーキ人気が落ちた時があって、レシピを変える英断をしました。
クラスト(皮)の部分は米海軍がグラハムクラッカーを指定してきていたのですが、コストがかかりすぎるので、それを変えたのです。
レストランLAUNAで認定チーズケーキを出していたヒラノ料理長はもっと辛辣です。米海軍が最もこだわってきたフィリングつまり具のクリームチーズですね、これを数週間の試行錯誤の末に日本製のものに変えてしまったのです。
ヒラノさんは「アロマ(香り、匂い)がね、日本人の味覚には強すぎるんですよ」と話します。
さて、読者の皆様は、成功談だか、失敗談だかわかんねえ話を聞かされたな、と思われたかも知れません。僕はこの話は冒頭に申し上げたように、「コロナの今だから貴重な教訓」が入っていると思うんです。
外国の未知の味覚を探し出せ
アメリカのケーキを一度でも食べたことのある人は、その甘さに飛び上がることでしょう。空港で売ってますから一度召し上がって、甘さに飛び上がって写メしてツイッターにでもあげるとウケると思いますよ(笑)。
そんなことで、どこで食べてもアメリカのケーキは甘いので、二度と食べまいと思っていたのですが、あるとき真夜中にカナダのナイアガラの滝の近くにあるホテルに真夜中にチェックインしたとき、あまりの空腹にルームサービスを頼んだんです。
デザートにおすすめのニューヨーク・チーズケーキとあったので、甘いものも欲しかったので頼んだんです。それがもうびっくりするような美味しさだったんですよ。
だから、ヨコスカの米海軍ニューヨーク・チーズケーキの美味しさ、すごくわかる気がするんです。あれだとクリームチーズが濃厚なので、ちょっと甘くてもマッチする、というのもあるかも知れませんが。
ただ、ニューヨーク・チーズケーキより美味しい、日本人の舌にあうケーキがありますよ。僕がこの10年でニ回、都合1ヶ月ほど滞在していたスロベニアの”クリームケーキ“です。これは甘さとクリームの加減が絶妙なんです。誰も日本の人はこれを手がけないの?
「英語がうまいと出世できない」理由
世界中でね、日本と提携したがっている潜在的なビジネスパートナーは、一体どのくらいいるのでしょうか。無数、ですよ。
ヨコスカは積極的に米海軍と組みましたが、潜在的なパートナーシップのニーズはすごいものがあります。なぜじゃあ、こうした提携が少ないのか。それは日本人が消極的だからです。英語が下手なんじゃなくて、使わないからです。
MLBだって、日本と組んで野球をメジャーにしたがっていますよ。大谷くんの凱旋試合やりたいって、副社長も言ってましたよ。
政治だってそうですよ、なんで自民党はアメリカの民主党とタッグを組んで、超党派の世界平和をめざすグループ作らないかなあ。
それはね、日本人はグループになると、とたんに内向きになるからなんですよ。
海外に目を向けるより、自分の出世だけ考えて、社内政治だけに意識が向く。日本ではいまだに「英語ができると出世しない」と言われているのは、ここなんですよ。
でも視点を変えれば、これからどんどん海外とつながれば、ポストコロナの勝者になれます。ポストコロナでは、英語力が出世どころか、覇者への道をつないでくれます。
もう一つは、ハイブリッドのススメ、です。(ふふ、プロレスファンは”パンクラス”ですよね。関係なくもないから下にあげとくか)
日本人でもそのままの味覚を受け入れる人もいれば、「これはうまいけど、日本人の口に合わない」と判断する、さきのヒラノ氏みたいな人もいます。むしろそれは当然のビジネス判断ですよね。(ただ、個人的にはケンタッキーフライドチキンは究極の全世界で愛される唯一の味付けだと思いますが)。
積極性で世界と交われ
そこで必要なのは唯一つ。交渉力、なんですよ。ここでも英語力がモノをいいます。通訳つければいいと言いたいんですが、それでは情熱が伝わらないからダメなんです。それにあなたのデリケートな気持ちを伝える能力がある通訳なんて、そうそういないんですよ。自分でやるしかない。
もちろん、交渉相手はアメリカだけじゃないですよ。世界中どこだっていい。日本人はもっと世界を旅して、色々見て、食べて、飲んで、着て、遊んで、酔っ払って、日本にないよきものを体験して、そして提携すべきです。
すでに教育では、例えば僕が教えていた英国国立ウェールズ大学MBAコース、などは、英国からライセンス契約を通じて、カリキュラムを輸入、日本で成功しました。
いっくらでも教育で日本と繋がりたいところはありますよ。僕の教えている清和大学だって、中国でパートナーを探そうとした時に、すごく手応えがありました。
まあ、しかしこういうのも”縁“だから、無理くりに探す必要はないかも知れないんですけれど。
ところで、高校生相手の連載でのテーマは「積極性」なんです。
日本人は積極性が足りなさすぎるよ。
今日も最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
明日またお目にかかるのを楽しみにしています。
野呂 一郎