松本清張に学ぶ創造性3 モノや場所があなたにストーリーを教えてくれる?
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:恐れながら松本清張の作品創造には、これまで論じてきたスケッチが大きな役割をしているのではないだろうか。ある作品を通じ具体的に見ていく。
スケッチが作品を創った?
松本清張の「遭難」という作品には、何か恐ろしい臨場感のようなものを感じるんです。
ネタバレを避けるために、ある印象的なシーンだけを取り上げて解説しますね。
主人公は愛人の女性をなきものにしたのですが、「ひょっとして生きているかもしれない」という疑念に苛まれ、推理と調査で、某県の山岳愛好家が集う喫茶店で働いているかもしれないことを突き止めます。
作品では、その喫茶店の描写があるのですが、とても空想だけで描いたものとは思われないほど、リアルで生き生きとしているのです。
僕は「清張はこの喫茶店をスケッチしたな」と感じました。
勝手な想像を続けると、こうです。
インスピレーションでスケッチする
僕ごときが、天下の清張の創造過程を語るなど片腹痛いのですが、経営学も推理小説と同じで「アイディア創出こそが命」なので、あえて続けさせていただきます。
清張の、何かのインスピレーションにかられてスケッチするという行為は、小説の構想や全体像につながるだけではないと思うんですよ。
例えばあなたが企業の開発担当で、あるいは新サービスを模索されているような場合、この手法で、求めている全体像、つまり新製品、新サービスが生まれる可能性があるのではないでしょうか。
やり方は簡単です。
何かあなたが、「うん?ここはスケッチしたほうがいいかな」と感じた場所や人やモノと遭遇したら、すかさずスケッチをする、ということです。
ポイントは、スケッチに備えて常にB4の鉛筆と小さなスケッチブックを携行することです。
ここが大事なのは「いつでもスケッチする」という意識を、描く道具を常に身につけることで、強くインターナライズ(心身に刷り込むこと)できることです。
スケッチが創造性を生み出す理屈
これも、凡人の戯言なのですが、あえて。
僕は何事も「縁」だと思っているんですよ。
何気なく入った喫茶店ですが、それは縁があったからです。
人との出会いも全く同様です
そこで何かスケッチしたいという気持ちが起きるならば、対象物はあなたとの縁を欲しているのです。
「スケッチして、もっとよく見て、ヒントはここだよ」と、語りかけているのです。
荒唐無稽に過ぎるなら、これはどうでしょう。
スケッチは、隠された全体性を明らかにする行為なのです。
例えば喫茶店のテーブルに置かれた花を描くには、背景も写し取ることになるし、喫茶店全体の雰囲気もスケッチはとりこむことになります。
全体の一部を描写するつもりでも、全体を写し取っているのです。
推理小説とは、事件という部分がメインですが、その背景や全体があってこそ、部分が生きるのです。
どうでしょう、「信じる、信じないはあなた次第です」
さて、
清張は、「カメラじゃなくスケッチ」、と言ったのは、カメラだとまわりを威圧する恐れがあるし、肖像権の問題も当時から気にしていたのではないでしょうか。
スケッチならば、誰からも怪しまれないでしょう。
野呂 一郎
清和大学教授