MONKEY vol.21 柴田元幸責任編集
腑に落ちた箇所がある。
それは40~42ページに。
「作者を信じるな。物語を信じろ」(Never trust the artist.Trust the tale)
これは1923年に発行された『古典アメリカ文学研究』という本でD・H・ローレンスという人が書いたんだそうだ。
その文章を受けて筆者であるグリール・マーカスはこう書いている。
芸術がある高みに達すると、作者は歌の中に消え、それが誰だったか、どこへ行ったのか、何を言わんとしていたのか、すべてどうでもよくなる。私たちにとって大切なのは、歌が何を言っているかだ。
この一連の文章を読んだとき、私はひとつの謎がとけたような感覚を持った。そうなんだろう。きっと作品は「詠み人知らず」でいいんだ。以前、中島みゆきもどこかのインタビューでそう云っていたではないか。私の作品の究極の狙いは「詠み人知らず」の歌を作ること、みたいなことを。
これにはいろいろな解釈が出来るし、理解の仕方もそれこそ受け取り側によって変わるとは思う。
でも僕にはこの志しが、とても崇高なものみえる。そうこなくっちゃ、とも思う。
漫画家の加藤芳郎も小説家の北方健三も云ってるが、自分の書いたものって完成したら何をどう書いたか覚えてないみたいだ。で、あとで読み返してみて、よく出来てると。よく出来た作品ほど、その時のことを覚えていないんだって。このエピソードひとつとっても、そうではないか。まさに作者が歌の中に消えている。作者が云っているのではない。「歌」が何かを語っているのだ。
これでひとつ謎がとけた。
あとは、ではなぜこのような素晴らしい作品を創作することが出来るのか?残る謎はこれだけだ。
あと、今回の号にも載っているが、チャールズ・ブコウスキーの詩がいい。この人の詩は本当に好きだ。素晴らしい。ブコウスキー最高である。