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これからの「メディア」はスクリーンの形をしていない。変わる編集者の存在意義

先日、アメリカの女性向けニュースレター企業のサクセスストーリーに関する記事を読んで、これからの時代における編集者の存在意義について考えるきっかけになった。今のところの考えをまとめてみたい(写真:Headway on Unsplash, Newsette, Instagram, Facebook, Glossier)。

読者数50万人、年商7億円のニュースレター企業

つい昨日、スターバックスがアメリカ・ワシントン州でのワクチン接種効率化を支援するという話題にふれ、今多くの企業や個人が自らの存在意義を再定義する必要に駆られている、またその方法について記事を書いたばかり。

だが、そのブログの草案について考えているときに、まさにその答えーーつまり、「編集者」という自分の存在意義の再定義に着手するきっかけとなるような記事に出会った。それがこのForbes JAPAN誌の1月31日付の記事だ。

見出しのとおり、読者数50万人年間7億円を売り上げる女性向けのニュースレターを配信する企業、そのサクセスストーリーを、創業者兼CEOである25歳のダニエラ・ピアソンさんのインタビューを交えて紹介したもの。

ピアソンさんはそれまで、ジャーナリズムの経験はなくメディア企業に勤めたこともなかった。しかし、2015年、学生時代にフロリダ州ジャクソンビルにある実家のベッドルームでニュースレターを立ち上げ、その後成長。

ウォルマートなどブランドとの提携も実現しながら、2020年の売り上げは700万ドル(日本円にして約7億3000万円)と、前年2019年の100万ドルから7倍もの急成長を記録した。

ニュースレターの配信企業が海外で成功をおさめる事例が増えているというのは、彼女以前にも知っていた。企業だけでなく、ジャーナリストなど個人が立ち上げて、巨額の収入を読者から直接得るケースがあることも。

僕も「Mailchimp」を使ってニュースレターを作成してみたことがある。

「ニュースレター」というと、前時代的に感じる人もいるかもしれないが、この情報過多の時代に、コンテンツが作り手の顔が見える形で、しかもメールの受信ボックスという私信的な場所を通じて届く感覚が受け入れられ、その人気が再燃している。

コンテンツは手段、彼女が既存メディアに伝えること

メールの受信ボックスに届くということで、Web上でだれもが無料で閲覧できるものではなく、そのニュースレターの存在を知り、購読者として登録をした、一部の人にしかコンテンツは届かない

ピアソンさんも、自身はメディア企業だが、「Webサイトでコンテンツを公開するつもりは今後もない」と言っている。

主に媒体社や企業のWebサイトで、無料で公開されるコンテンツの制作に携わっている身としては、それだけでも異質なものを感じるのだが、衝撃だったのは、そのあとに続く彼女の言葉だった。

最初にコミュニティを作り上げれば、ユーザーが興味を持つコンテンツや、購入したい商品に関するデータを獲得できるため、製品やサービスをローンチした場合により早く成長させることが可能だ。

Webサイトでコンテンツを無料で公開するつもりはない。コミュニティーを作り上げるのが最初で、コンテンツを提供するのはそのあと

そう受け取ったときに、僕も彼女も広く言えば同じ「メディア企業」だが、僕にとって仕事のすべてであるコンテンツを彼女は「単なる手段」として捉えているという違いに衝撃を受けたのだ。

彼女の先ほどのコメントは、論理的に矛盾していることにすぐに気がついた。

なぜなら、コミュニティーを作り上げるのが最初とは言いつつ、そのコミュニティーを人が知り、コミュニティーの一員となるよう呼び込むのは、多くの場合、ニュースレターのコンテンツだからだ。

だから、正確には、コンテンツにふれるうち、コミュニティーの一員としてエンゲージメントを高めていく、これがNewsetteの本来の姿だろう。

しかし、その矛盾は一旦脇に置いておいたとして、大事なのはコンテンツがいち手段でしかなくなっているということ。そして、その目的は熱量あるコミュニティーを作ること

どんなコンテンツが求められるかも、そのコミュニティーに問いかければいいという考えのようにも聞こえる。つまり、コンテンツは書き手だけではなく、読者とともに作るものだと考えているということだ。

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これからのメディアは「コラボレーション」の形をしている

そのときに、「ああ、僕とピアソンさんとでは決定的な違いがあるんだ」と気がついた。

その違いとは、「メディア」という言葉を聞いたとき、僕は文字コンテンツのように「スクリーン」のようなものをイメージするのに対して、おそらく彼女は「読者やファンが集っている場」ーーオフラインのミートアップやオンラインイベントのようなものを想起するのではないだろうか。

そのことは、彼女が事業を拡大するうえで、人気コスメブランドの「Glossier」を参考にしているというコメントにも現れている。

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Glossierは元々、創業者の美容ブログからスタートした、読者コミュニティーを築き、読者とともにコスメ製品を開発・販売して成功したブランド。そんなGlossierが創業初期、熱狂的なファンとコミュニケーションの場として活用した場所、その一つは「Slack」だった。

Webマガジンでも、記事を読むためのアプリでもなく「コラボレーションツール」。ただコンテンツを読んでもらうのではなく、それは読者との会話のきっかけであり、その先でコミュニティーが起点となるアクティビティーを起こすことが目指すところ。

読者が課金するのも、それは「コンテンツの提供に対する対価」ではなく、「アクティビティーへの参加費」としてお金を支払っているのかもしれない。

「ニュースレターなんていう、閉じたところでコンテンツを発信したって多くの人には届かないわけだから、それでは物足りない」「コンテンツを作るだけでも大変なリソースを割かれるのに、さらに読者とのコラボレーションやイベントを運営するだなんて、すぐに限界が訪れる」

・・・そういう考えも浮かんでくるが、この流れにはあらがえない気もしている。

これから、人が「メディア」と聞いたとき、それはスクリーンの形をしていないかもしれない。「編集者」とは、コンテンツを生み出すだけでなく、読者を行動へと駆り立てる人のことを指すようになるのかもしれない。

ポッドキャストもそうだが、まだまだいろんな試行錯誤をしていく必要がありそうだ。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。


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岡徳之 @okatch
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