共創の足かせ「クライアントとの上下関係」をなだらかにする、僕なりの3つの工夫
日々刻々とビジネスを取り巻く環境が変化し、人びとの価値観が多様化する現在、僕ら編集者にかぎらず、プロフェッショナルたちはこれまで以上に、クライアント「ではなく」、最終顧客、市場を向いて仕事をしなければならない。
上下関係で仕事をするのはラク
だからこそ、重要になるのが「クライアントとの関係性」である。なぜなら、彼らは自分と最終顧客、市場との接点だからだ。もしそこに「上下関係」が存在すれば、自分の強みを発揮できず、間違いなく成果に支障をきたす。
これは、僕ら編集者に特に当てはまることかもしれない。クライアントのオウンドメディアにしても、一度立ち上げると、少なくとも2、3年は終わらない長距離走になる。それほどの期間、上下関係で持つはずがないからだ。
しかし、ときに「クライアントが上に立ち、編集者のようなプロフェッショナルは下請けする者」というマインドセットから、自分が依然として抜け出せていないと、無力さを感じる場面がある。
例えば、メディアの戦略づくりまでは双方で建設的に話し合いが進んだとしても、その後のコンテンツ企画の段階で、「おもしろそうなので、こんなコンテンツをつくってもらえませんか?」と、突拍子もない仕事を依頼されるとき。
ともに築き上げてきた戦略や、建設的な議論を一気に飛び越えて、トップダウンでコンテンツが企画されると、萎えてしまい、「もうなんだっていい」と、戦略に合致しないような仕事でも依頼を受け、タダこなしてしまいたくもなる。
やっかいなことに、クライアントに異論を挟むより、言われたことをタダこなすことのほうがラクだったりする。特に、議論に付き合っても付き合わなくても報酬が変わらない場合など、つい上下関係をうまく利用したくもなる。しかし――。
1. ぶつかるときは感情ではなく、ロジックで
当然、それではいけない。クライアントからの “理不尽な” 意見にただ従ってしまうのは、最終顧客のためにも、クライアントのためにも、結果として、自分のためにもならない。
なぜなら、納得しないまま仕事を続けるのは持続可能ではないし、自分の強みも発揮できない。クライアントから言われるまま仕事をするのでよければ、それは誰にでもできる仕事でもあるからだ。
クライアントから挙がった企画が、戦略に合わないと思ったら、編集者はそれをクライアントに論理的に伝えなければならない。その企画は顧客の悩みに応えているか、本当に顧客のためになっているのか、きちんと議論する必要があるだろう。
そのとき、大切なのは、自分が書きたいもの、作りたいものを感情的に訴えるのではなく、顧客のためになるという理由を並べ、ロジカルに相手を説得することだ。
議論の結果、クライアントのほうが論理的に正しい場合もある。そのときはクライアントからの意見が、決して “理不尽な” ものではなかったことになる。提示された案に納得し、「自分の仕事」として受け入れよう。
こうした議論は、時間と労力がかかる。クライアントとロジカルに話し合いを続けられれば、最後はみんなが納得できる案に行きつくはずだが、1記事書いて原稿料をもらうような単発の仕事では、このプロセスを端折ってしまいがちだ。
だから、常にディスカッションを続けるようなクライアントに対しては、1カ月単位などでコンサルティングや企画に対する報酬をもらうのが望ましい。いいプロセスが踏めるような仕事のやり方に、自分で持っていかなければならない。
2. 「顧客のため」は、いつだって正しい
そうはいっても、「仕事を切られてしまったらどうしよう・・・」という恐れがあると、なかなかクライアントに異論を投げかけるのは難しい。これは、現実的にお金をもらっている側の弱さである。
編集者が「ノー」と言える状態にするには、やはりある程度、仕事を切られてもいい覚悟が必要なのだと思う。
仕事を失うリスクに対処するには、複数のクライアントを持っていたり、たとえ一時的に仕事がなくなっても次に新しい仕事を得られる拠り所を持っていたり、自分に自信がある状態をつくることが大切。
そのクライアントと仕事をする前にも自分は飯を食えていたんだ・・・と思うと、そんなに悲惨な状況でもないのかもしれない。
ただ、そもそも、「顧客のため」を思い、顧客のためになるはずの異論をロジカルに挟もうとする相手を切るようなクライアントなど、存在してはならないと思っていい。
もし、自分が逆の立場、つまり、顧客のためを思い、ロジカルにモノごとを考えられるクライアントだったとすれば、そうした相手をむしろ歓迎するのではないだろうか。言い換えれば、自分の言うことを鵜呑みにするだけの相手を信頼できるだろうか。
それでも、クライアントと感情的な会話が増えてきたり、クライアントからの威圧的な要求が続いたりして、論理的な議論ができない場合は、そのときはこちらから相手を切るしかない。まずは担当者替えなどをお願いしてみて、それでもダメならこちらから逃げるのは止むを得ない。
3. 「チームで」成果を出すという意識
クライアントとフラットな関係を築くうえで、最後にもう一つ。
クライアントと編集者は、たしかに各々の領域のプロフェッショナル同士、ではあるものの、顧客のためになにかを共創する「チーム」を組成するために集まった「メンバー」同士である。つまり、「チームで」成果を出すという認識が必要だ。
この共通認識がないと、「もっと編集者にやってもらえるのかと思いました」とか、「そのロジックを考えるのは内部(クライアント)の仕事でしょう?」といった、他責思考、そこから来るボタンの掛け違いが起きてしまい、プロジェクトは自滅する。
クライアントも編集者もお互いを尊重し、しかし依存はせず、役割を分担して、それぞれが自分のスキルを発揮して「チームに」貢献していくのだという意識を持たなければならない。その意識があれば、お互いをフォローし合うこともできるだろう。
昨今、「個の時代」と言われ、とかくなんでも1人で解決できる人が “優秀” と見なされがちだが、今は正解のない複雑な問題をチームで解決していく時代。そう思えば、クライアントとの間で、自然と顧客のほうを向いた対話が進んでいくのではないだろうか。
編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
執筆協力:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。
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