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読者を顧客に、顧客を仲間に。編集の力でビジネスに貢献するための「カスタマージャーニー」

顧客がモノやサービスを購入し、満足するまでの道のりは長い。モノ・サービスを知るところから始まり、調査・比較し、社内調整し、売り手と交渉し・・・ と、さまざまなプロセスを経るのだが、その中で編集者がこれまで貢献してきたことは「市場啓蒙」「商品紹介」など導入の部分のみ。実は顧客の購買行動の「氷山の一角」に過ぎない。編集者はもっと、顧客の購買行動を促すマーケティングに関われるのではないだろうか・・・?

長い長い「カスタマージャーニー」

 モノやサービスを売るために、これまでにさまざまなマーケティング手法が生まれてきた。その中の一つに「カスタマージャーニー」というのがある。

 直訳すれば「顧客の旅」。対象顧客(ペルソナ)を細かく設定し、彼らがモノやサービスを購入して成果を出すまでの行動や、その時の感情変化などを時系列で可視化したものだ。

 例えばBtoBの場合、顧客がモノやサービスを購入するまでの行動として、「商品を知る・調査する」→「比較・検討」→「交渉」→「社内調整」→「発注・契約」→「導入準備」→「利用」→「成果」といった項目が挙がる。

 また各行動段階では、「こんな悩みに応えられる商品はないか」「どれがいいか迷う」「使いこなせるか心配」「稟議書の作成が大変」などといった、顧客の感情変化が考えられる。まずはこれらを洗い出すことが「カスタマージャーニー」の基本となる。

 さらに、それぞれの段階でWebサイト、ソーシャルネットワーク、ニュースレター、店舗、営業担当者、セミナーなど、顧客が売り手と接する「タッチポイント(接点)」を加えれば、適切な場所・タイミングで適切な情報を提供できるよう、売り手側が対策を練るためのツールとなる。

 当然のことながら、テクノロジーの進化に伴い、最近の購買活動では情報収集や購買決定のプロセスが複雑化している。このため、カスタマージャーニーを作る作業もオンライン・オフラインのデータ分析やユーザーインタビュー、アンケート、受注情報の収集などを経てなかなか大変なものになってきている。

 しかし、それを行うことで、有力な販売対策が生まれる以外に、企業内の複数の部署を巻き込んで一緒にこの作業をすることで、顧客のニーズや企業の課題に対する共通認識が生まれたり、顧客の目線で考えるいいトレーニングになったり、いろいろな効果が期待できるのだ。

 この長いカスタマージャーニーの中で編集者の僕が関わっているのは、「商品を知る・調査する」という最初の段階に過ぎない。オウンドメディアを立ち上げて、商品に関して読まれるコンテンツを作り、人びとの間でシェアしてもらう・・・ というところまで。

 そこまではすでに貢献できているが、「顧客にモノ・サービスを売り、それを役立てて成果を出してもらう」というクライアントの最終目的を達成するには、もっとカスタマージャーニーの「その先の部分」にも貢献するべきなのではないだろうか?

「コンテンツ」はオウンドメディアだけじゃない

 実際のところ、マーケティングのトレンドに沿って、「商品を売る」ことを目的にオウンドメディアを立ち上げたはいいが、そのメディアが効果を表さず、結局閉鎖されてしまうというケースがこのところ相次いでいる。

 乱立したオウンドメディアは淘汰され、成果につながっているものだけが残る傾向にある。メディアとして生き残るためには、商品の存在を知らせるだけでなく、最終目標を達成するものでなければならないと思う。

 そのためには、編集者はオウンドメディアに関わるだけでなく、クライアントのアドバイザー的立場に立って、顧客とのタッチポイントで必要となる情報提供に貢献するべきではないかと思う。

 例えば社内外の資料、セミナーのコンテンツ制作、ユーザーコミュニティの形成、ニュースレター、社内報、成果の報告・・・ など、カスタマージャーニーに関わるすべての「コンテンツ」の制作への貢献が考えられる。

 これができれば、編集者はクライアントの業務をよりよく知ることができるだろうし、自分の仕事に対する見方や捉え方も変わり、結果的にコンテンツのクオリティも上がるだろう。なにより、クライアントとの信頼関係も深まることが期待される。

カスタマージャーニーを支えるコンテンツとは?

 それでは、編集者が関われるコンテンツにはどのようなものがあるだろうか? 具体的にカスタマージャーニーに沿って、必要とされるコンテンツを考えてみた。

1. 商品を知る・調査する
この段階は、従来の編集者の仕事にもある。オウンドメディアなど各種メディアで製品の性能、魅力、評価などを紹介。過去の事例などで、顧客の想像を具体化する。Webサイトからダウンロードできる資料の作成にも携われる。

2. 比較・検討
コストパフォーマンスの良さ、購入後のサポートの充実度などを伝える。また「使いこなせるだろうか?」という不安を持っている顧客には、実際に商品を使いこなしている人が登壇するセミナーを企画したり、セミナー内容を伝えるレポートを作成したり、使い方を分かりやすく示す動画を作ったりして、使いやすさをアピール。「悩み別診断レポート」を作って、各種の悩みに対する商品の機能紹介をするのも商品導入後のイメージを強化できるだろう。

3. 交渉
オンラインにしろオフラインにしろ、営業担当と顧客の1対1の対談となることが多い。ここでは他社との機能・価格勝負にならないよう、商品の付加価値をアピールしたい。例えば、商品を使いこなしている人たちのコミュニティを形成し、ユーザー同士の交流の中で相談し合ったり、新しいアイデアに触れたりする機会を設ける。ちょっとした異業種交流にもなり、強力でクリエイティブなネットワークになり得る。また、商品が到達しようとしているより大きな世界観や未来の青写真を伝えることで、その商品を今導入することに対する意義を示唆する。

4. 社内調整
稟議書を通りやすくするために、「ROI(投資利益率)」予想を伝える。また、企業に合わせて商品をカスタマイズした事例を紹介し、各企業の戦略に合った導入が可能なことをアピール。ニュースレターやフォローメールなどで、商品導入後のロードマップを提供するのも効果的だろう。

5. 導入準備
担当者によるセミナー開催のためのキットを作成。忙しくてセミナーに来られない人のためには、空いた時間に細切れに見られるレポートや動画を作る。

6. 利用開始
使い方が分からない時のためのチャットコンテンツを作成。ユーザーが自然に誘導されるような、分かりやすい「トラブルシューティング」を心掛ける。

7. 成果
ROIや顧客の満足度を測る指標を提供。指標の測り方や評価の仕方に関するコンテンツも作成する。また、ユーザーのインタビューなどで成功事例を伝え、新たな顧客の開拓につなげる(そして、新たな顧客のカスタマージャーニーが「1」に戻って繰り返される)。

カスタマージャーニーでは、どの段階でも結局はコンテンツが必要となる。コンテンツ制作といえば、そこは編集者が得意とするところ。「モノを売って、顧客の成果を上げる」という最終目的まで編集者が伴走できれば、それはクライアントにとっても心強いことのはずだ。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
執筆協力:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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