エッセイ 睡眠時無呼吸症候群の恐怖(改題)
最近怖い夢を見ます。昨日も見ました。夢の中で誰かに追いかけれるのです。怖くて一生懸命逃げるのです。相手が誰なのかは、よくわかりません。姿形がぼんやりしているのです。でも何回か同じような夢を見るうちに、だんだん顔がはっきりしてきました。きのうは、子どもでした。しかし、顔は大人の顔をしているのです。見たことのない顔です。そいつが、なぜ怖いかというと、理由はわかりませんが、そいつにつかまると、殺されてしまうということが直感的にわかるからです。とにかく逃げなくてはいけないんですが、僕はベッドに寝ているんです。逃げ込んだつもりなのです。体が動かなくて逃げようがないのです。なぜか、家は、今のマンションではなくて、刈谷の生まれた家なのです。2階の子ども部屋で一人で寝ているのです。そいつが窓から中を覗いています。夏らしく、窓は網戸で鍵もかけてありません。簡単にあけられます。でも暗いからか、そいつは僕に気づいてはいません。中に入ってこられては困るので、僕はそいつが入って来ないように、追い払おうとします。(あっちへ行け!入って来るな!)と懸命に大きな声を出そうとするのですが、声になりません。そいつは、まだ僕の姿に気がつかないらしく、相変わらず、よそを向いています。でもじっと部屋の中を見つめています。(おい、わからないのか、来るんじゃない!あっちへ行け!)僕は叫ぼうとしますが、声になりません。声が出ないのなら、手を振って追い払うしかないと、手を振ろうとしますが、手も動きません。体全体を使って、足もバタつかせながら、反動を使って力一杯、手を振った瞬間です。パッと目が覚めました。
これはまだいい方で、足元から少しずつ這い上がって来られて、キスされそうになった時もありました。キスされると死んでしまうと思ったので、思い切り首を左右に振ってイヤイヤをすると、その瞬間に目が覚めるのです。
あぁ、またか…。仰向けで寝ているな、枕もちょっと高い。
何が起こっていたか、と言いますと、僕が正体不明のやつに追いかけられていた間、僕の呼吸は止まっていたのです。いわゆる睡眠時無呼吸症候群というやつで、舌が気道を塞いで、呼吸ができなくなってしまうのです。仰向けの姿勢で首が曲がるような高い枕をして寝るとなりやすいのです。姿勢を変えない限り、呼吸は止まったままです。この呼吸ができない苦しさ、このまま呼吸が止まったままだと死んでしまうという恐怖感が、正体不明の怪物となって僕を追いかけてくるのです。追いつかれると死ぬというのは、緊急事態だという意味なのでしょう。声や体が自由にならないのは、脳が麻痺して、金縛り状態になっているのかもしれません。力一杯、身体全体を使って手を振ろうとしたのは、そうすれは体が動いて、気道が開くことを経験的に知っているからです。
検査もして、最長3分ぐらい呼吸が止まっていることも知っています。太った人がなりやすいのですが、僕の場合は、生まれつき気道が狭いのが原因らしいです。横向きで寝るとか、枕を高くしないように気をつけていますが、寝ている間のことなので、思い通りにはいきません。いびきは前兆です。気道の通りが悪いから、大きな音が出るのです。そのいびきが止まっている時は、呼吸が止まっている時です。
最近少し夢の内容が変わってきました。あまり怖くなくなってきたのです。無呼吸に慣れてきたというのも変ですが、また来たかという、心の余裕のようなものができてきたという感じでしょうか。誰かがそばにいるのは変わらないのですが、あまり怖さを感じなくなりました。襲われるんじゃなくて、むしろ助けてくれているんじゃないかと思えてきたのです。無呼吸状態に陥ったときに、体は思うように動きません。しかしその状態をそのまま続けいては死んでしまいます。無呼吸状態から抜け出すためには、無理やり体を動かして寝返りを打つ必要があります。その僕の隣にいる誰かが「おい、体を動かせ。足をばたつかせろ。手を動かせ。首を振れ。上半身全体をエイやで動かして寝返りを打つんだ。さもないと死んじまうぞ。」と教えてくれているような気がしてきたのです。初めのうちは相互理解ができていなくて、向こうもわざと怖がらせていたようなのですが、最近はだんだんと相互理解が進んで、また助けてくれてありがとう、と言えるようになってきました。
もし、あなたの隣で寝ている人のいびきが急に止まった時、愛情があるなら、すぐに起こしてください。うるさいいびきが止まってやれやれ、と思う人は、そのまま放っておいてください。呼吸がずっと止まったままになるかもしれません。
まあ、この悪夢が正夢にならないように祈っていてください。