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短編小説 英霊(わだつみ)たちの本音(こえ)   伊羅間智男

 またまた伊羅間智男氏の登場です。今回も女性の顰蹙を買うこと間違いなしのエロネタ満載です。ご注意願います。

 「おう、久しぶりだな。2人とも元気だったか。」
「まあな。水の中はちょっと寒いけどな。」
「ぜいたく言うな。お前は五体満足なんだろ。俺なんか散り散りばらばらなんだからな。さびしいもんだぜ。」
「ああ、そうだった。大変だったな。悪い、悪い。」
「俺は熱かったよ。真っ黒に焦げちゃった。」
「3人とも大変な目に合ったんだな。みんなにこにこしながら俺たちのことを見ているけど、誰もわかってくれちゃいないんだよな。」
「でも、まあ、こうやって3人また会えたんだから、いいじゃないか。」

「自分の運命を後悔する気持ちはないが、ひとつだけ残念でならないことがある。どうして日本は本土決戦をやらなかったんだ 。」
「やったらどうなったと思うんだ?勝てたと思うのか?」
「勝ち負けじゃない。義の問題だ。大義を貫くことに意味があるんだ。」
「その大義とやらも、終戦の瞬間にひっくり返っちまったじゃないか。絶対的な大義などというものは存在しないんだ。」

「そうだよな。終戦後の日本の様変わりをどう思う?神だ、英霊だとおだてられて、俺たちがやっていたことは何だったんだ?」
「俺たちが本当にやるべきだったことは、俺たちの力で戦争をやめさせることじゃなかったのか?批判がましいことをただ言うだけ、いや、書くだけで、何も行動に移せなかった。頭でっかちで、足が地に着いていなかった。」

「面白い話を教えてやろう。俺はお前たちと違って、女房持ちじゃないからな。長崎で世話になった女郎屋の、おふくろぐらいの年の女が、こう言うんだ。女には穴が3つあるから、一日一つずつ教えてあげる。後悔が残らないように女を味わい尽くしてから、行きなさいって。お前らだって知らないだろうな、女の3つの穴ってものを。夢のようだったなあ。」
「女の穴って、ひとつだけじゃないのか?え?あと2つって何だよ。女房だってそんなこと教えてくれんぞ。気になって成仏できんじゃないか。」
「そりゃ残念だったな。しかしもう遅いな。あきらめろ。それとも幽霊になってこの世に残って思いを遂げるか?それよりも、俺たちは仏にゃなれないぜ、神だよ。」
『「こんなのはまだほんの序の口だからね。女に3つの穴があることはわかっただろうけど、穴は入口にも出口にもなるからね。それに、女に穴が3つあるということは、男にも3つあるということ。女の3つの穴と男の3つの穴を、それぞれ入口と出口を変えながら組み合わせていけば、どれだけの楽しみができるか考えてごらん。あんたはそれらを知らないで死んでいくんだから本当に可哀そうだよ。」と言うんだ。その話を聞いた時、数学の組合せの授業を聞いているような気がしたよ。」
「お前、それは煩悩というやつだよ。女は恐ろしい生き物なのさ。」
「そして最後にこう言うんだ。『あんたも私も、物として使い捨てにされる運命なのさ。だったら、せめて死ぬ前に、私を物として、遊び道具として使っていきな。自分だけが使い捨てじゃないって思えたら、少しは気が楽になるから。』それを聞いた時は涙が出たよ。ああ、あの日のことが忘れられん。あの女にもう一度会いたくてたまらんよ。でも、あの女も長崎の原爆で丸焦げになっちまったんだろうな。惜しいことをした。神になっても性欲はなくならないだな。」
「馬鹿もん、お前ら、それでも英霊か?恥を知れ!セックスは子どもを作るために行うものだ。妊娠につながらないセックスなど邪道だ。犬猫以下だ。」
「そんなわかったような口を利くな。お前のような料簡の狭い人間が日本を戦争に追い詰めたんだぞ。恥を知らないのはお前だ。この世には男と女しかいないのだ。男と女が愛し合えないでどうする?とても外国人とは理解し合えないだろう。」

「それにしても、こんなに好き勝手に話せるってことは、いいもんだな。生きているうちに話したかったな。今の人が羨ましいよ。」

 昭和21年3月20日、東京の開花を告げる桜が3輪、靖国神社の境内に咲いた。楽しそうにお喋りでもしているかのように、そよ風に揺れていた。


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