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HSPの彼女: 予定を立てる ~美容院編~ (1/2)

日常のなにげない予定を組むというものは、彼女いわく実に厄介なものらしい。一世一代の重要なものからすっぽかしても誰も気づかないような些細なものまで、カレンダーに書き込めるすべてのものは悩みの種であり、毎回かなりの気力と体力を消耗するのだ。

非HSPにとって普段の予定とは、ただ前もってわかっている用事であり、それ以上でもそれ以下でもない。その内容によって多少気の持ちようが変化することはあるが、なにか重大な用事でもない限り、そこに過度な緊張や興奮があることは少ない。自分にとって嬉しい用事や楽しいイベントであれば心待ちにするし、気乗りしない野暮用であればキャンセルにならないかなと考えてみたりする、良くも悪くも所詮その程度のことである。

しかしHSPにとってはそうはいかない。現代社会において予定というものは一般的に他者を含むことが多い。旅行や食事であればそれは友人や家族や恋人かもしれない。買い物や散策であればお店の店員さんや電車の駅員さんかもしれない。ただたとえそれが見ず知らずの他人で今後関わる可能性の低い人々だとしても、HSPとしては彼らが不快な思いをしないか常に気になるし、自分の不手際が迷惑をかけないか心配なのである。

そんなわけでHSP流の予定に対する心構えは、非HSPのそれとは決定的に違うのだ。決定する前の思案や相談から当日の工程、そして無事帰宅するまで(自分のセーフゾーンに逃げ込むまで、というほうが適当かもしれない)、そこには緻密な計画性と入念なシミュレーション、そして柔軟な実行力が複雑に絡み合う。その大小に関わらず、予定というものは過酷なサバイバルであり、フィジカル的にもメンタル的にも相当な準備をして臨まねばならぬものであるらしい。

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「美容院を予約しちゃった…」。いつもそうであるように、なんとも言えない苦渋の宣言から彼女の予定を知る。非HSP同士で会話していればなんてことはない、ただの予約の話。別にそれ自体は大変な予定でも嫌な予定でもなく、むしろ気になっている髪を整えられるから楽しみ、ぐらいのものである。

しかしHSPとなるとそうはいかない。「…」の含みがすごいのだ。そこには短編小説数編分の動揺と葛藤と決心が、推敲に推敲を重ねて織り込まれている。だから予定を伝える彼女の声のトーンは普段の何気ない一言とは違うし、どことなくどんより陰鬱な雰囲気である。HSPは、非HSPと異なるう捉え方、感じ方、考え方を持っているのだ。

まず、美容院に行くという決心をしなければならない。行くべきか行かざるべきか、自分への問いはそこから始まる。髪が伸びてきた。でもまだ伸び切ってはいない気もする。ヘアスタイルのバランスが取れない。でももしかしたら自分のスタイリングが悪いだけかもしれない。重たい印象になってきた。でも他の人の目にはそう写っていないかもしれない。雰囲気を変えたい。でも違うヘアスタイルにして似合わなかったらどうしよう。予約をするのに十分な理由が見つかるか踏ん切りがつくか疲れた挙げ句半ば投げやりになるまで、「気になる」と「でも」の間を何度も往復するのである。

さて、悩みぬいた上に美容院に行く決心をしたとしよう。そうしたら次の悩みが舞い降りてくる。どの美容院に行くべきか。前回の美容院はそんなに悪くなかったから、また同じところにしようか。それとも新しいところ試してより自分に合ったところを見つけようか。今月はお金を使いすぎているから安いところを探すべきか。いやしかし今回はヘアスタイルをこう変えたいから、以前行った別のところのほうがうまく切ってくれるのではないか。せっかく美容院に行くのだからそのほかに用事を済ませよう。ならば駅に近いどこそこが良いのではないか。せっかく駅まで出るのであれば少し電車に乗って、よりよい美容院を目指すべきではなかろうか。ああでもそうなると本格的な遠出となってきて面倒だからやっぱり近場にしよう。

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この過程だけ聞いていると、非HSPとしてはただの優柔不断な人の話に思えたりもするのだが、HSPはちょっと決めれないという程度では済まない。この悩んでいる間ずっと、大きな岩でも背負っているかのごとく心も体もどんより重く、どうにも息苦しいのだ。できることならばぱっと決めてしまいたいのだが、考えれば考えるほどに細部が気になり、では考えないで決めようと思うと自分が考えていないことがまた気になってくる、そんなにっちもさっちもいかない心境に立たされる。

そんなこんなで気になることを一巡して美容院を選び終える頃には疲弊しているのだが、当然まだ美容院という一大イベントをこなすまでの道程は長い。(続く)

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