HSPの彼女: LINE (1/2)
近年様々なメッセージアプリが乱立し、いまや電話などと並んで主な連絡手段の一つとして人々に使われている。そして2020年現在、日本で最も使用率が高いのはLINEである(※1)。前回話したようにHSPにとって電話はことのほか気を使う連絡手段なのだが、ではLINEはどうかというと、また違った理由で大変な労力を要するというのが、HSPの共通の認識である。
きっとLINEを作った人々の最初の目的は、電話ほど時間的な拘束がなく、でもEメールよりも手軽に早くやり取りができるものを、ということだったに違いない。事実、使ってみると確かに非常に便利である。メッセージを打てば数秒後にそれが相手に届き、また相手からのメッセージを受け取ったときの間が悪くても、手が空いたときに返信をすればそれで相手に伝わるから、時間的な制限・拘束が少ない。また、過去のメッセージを見返すこともできるので、例えば今度の約束の日時はいつだっけ、なんてことになってもすぐに過去のやり取りを見れるので、わざわざ相手に確認を取らなくて済む。そういった点において、LINEは優れものである。
ただ彼らが知らなかったのは、HSPにとって新しい連絡手段というのは、新しい悩みの種となるということである。HSPの彼女に言わせれば、今まで存在しなかった問題ごとを、わざわざ新しい技術を駆使して作ってよこしたのである。なんともはた迷惑な話である。
電話口ですぐに返答しなければならない電話における悩みのプロセスを短距離走と例えるなら、LINEのそれは中距離走になる。返事をするまでに多少時間的な余裕があるぶん、毎メッセージ入念に考えることができる。考える時間があるのはいいことじゃないかと非HSPは思うかもしれないが、そうではないのだ。文章の推敲に時間を割くということは、その時間悩み続けるということにほかならず、また、自分の納得する言葉なんてどれだけ探しても見つかることは少ないのだから、その間ずっと苦しいのである。短距離走ならば思いっきり走ってゴールも比較的すぐに見えてくるが、中距離走となると思い切りの良さだけでは乗り越えられない部分というものがある。
LINEメッセージを受け取ると、まずは相手の心中を察し、想像・共感したのちに、ときには正しいことを、またときには相手に寄り添った言葉をといった具合に、できるだけ適切な返答をするように心がける。これは電話のときとだいたい同じであるが(前回参照)、少し違うのは、LINE上ではヒントが少ないことである。誰もが十分な説明と適切な言葉でメッセージを送ってくるわけではないうえに、声のトーンなどはさっぱり分からない。前の文脈があればまだ良いが、唐突な話題のメッセージなどはことさらその心情の読み取りに時間を割くことが多い。
HSPであることがプラスに働くことも当然ある。それは、返信の言葉の候補は比較的思いつきやすいことである。相手の心境に立って返事の候補を出すのは、それらが正しいかどうかはおいておいて、HSPの感受性豊かで細やかで繊細な性質を利用すればそこまで難しいことではない。もしかしたらその点は非HSPよりも得意かもしれない。ただ問題なのは、候補を挙げたあとの取捨選択である。カードゲームだったならば、手札は多いがさてどれを出そう、という状態だ。選択肢が多いのは良いのだが、カードの順序やタイミング、また相手の出方によって次の自分の動きが変わる。
そして大抵の場合はここで立ち止まって迷う。あの返事でも良いし、この返事でも良い。だた若干ニュアンスが変わったり、微妙な差が生まれる。それが後々どう影響するか。そこが気がかりという理由で、なんて言ったものかという悩みになる。その候補にはもちろん自分自身の言葉もあれば、若干テンプレート的な言葉もある。それぞれ良し悪しがあり、相手が気持ちよく話せるかは要は使い方次第だ。そんなことを考えながら、メッセージを書いては消してを幾度も繰り返す。
そんなこんなで本格的に迷い始めると、徐々に他のことが気になってくる。返信までの時間だ。自分はいまこの返信に時間をかけ過ぎなのではないか。相手が自分の返信を待ちわびていたらどうしよう。そんなに難しく考えずにささっと一言返して、細かい話はそれからではないのか。そんなことが頭の中をよぎり、急に気が急いて焦り始める。そうしてなんだか不安になってくる。何も間違えたことはしてないのだが。
こうなるとあとはもう、100%満足のいく返事よりも、相手を待たせないことの優先度が高くなってきてしまい、結果的に持ち合わせている候補を全て箱に入れて混ぜ合わせ、くじ引きをするがごとく一つ手探りで選ぶことになる。いわゆる「大外れ」なことはあまり無いのだが、それでも返信をしたあとに、何か失礼なことを言ってはいないか、やっぱり言い方を変えたほうが良かったのではないか、という後悔に苛まれるのは、日常茶飯事である。
この他にもLINEならではの「スタンプ問題」があるのだが、それはまた次回話すことにしよう。
※1 参照: マイナビニュース - https://news.mynavi.jp/article/20200729-1182451/