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なぜ、あの会社は儲かるのか? (山田 英夫・山根 節)

 いつも拝見している会社の先輩のブログで紹介されていたので読んでみました。

 内容は、誰でも知っているような有名企業を材料に、その経営戦略・マーケティング戦略を「会計」という目を通して分析・解説したものです。
 実例が豊富で、テーマごとにポイントが分かりやすく説明されています。

 たとえば、伊勢丹帝国ホテルを例にした「高級化路線」という戦略について。
 何も工夫せずに差別化や高級化を図ろうとすると、コストもそれなりにかかってしまい、必ずしも高い利益率が得られるわけではないようです。

(p53より引用) 高級業態や高級品は、それだけでは高い利益率はとれない。競合が追随してくる中、常に高級のポジションを維持しつつも、顧客から見えない部分で、安くオペレーションする工夫をしていくことが必要なのである。

 この本には、こういった感じで、改めて頭の整理ができるトピックスやヒントが数多く示されています。
 M&Aやグループ経営等の際よく言われる「シナジー」については、著者たちは、まず、基本を以下のように整理します。

(p187より引用) 企業がM&Aや新規事業開発を行うにあたっては、シナジー(相乗効果)が発揮できるということが必要であると言われる。・・・
 シナジーがあるということは、技術、設備、流通チャネル、人材などの面で共有できるものがあると、両社が別々に経営を行うよりも効果が大きいということである。
 ・・・シナジーは、売上で見て、「1+1が2以上」になるか、コストで見て「1+1が2以下」になるかのどちらかで測ることができる。
 M&Aによって明確に1+1が2以上になったと断言できる事例はほとんど見つからない。

 そして、実際の企業合併や業容拡大、新規サービス展開等において、「近そうで遠かったもの」「遠そうで近かったもの」の実例を挙げていきます。

 たとえば、「近そうで遠かったもの」の例としては、「基礎化粧品とコスメティクス(花王)」や「電力と通信(東京電力)」
 逆に「遠そうで近かったもの」の例としては、「スーパーやコンビニと銀行(セブン&アイ)」等が紹介されています。

(p194より引用) 事業の「近い、遠い」は、表面的に見える製品・サービスの性格だけでなく、マネジメントのあり方という組織運営にまで踏み込んで考えていかなくてはならないのである。

 このあたりは結構興味深く読みました。

 そのほか、私が特に「なるほど」と思った点と、「そうかな?」と思った点をご紹介します。

 まず、「なるほど」です。
 「非日常」も反対サイドからみたり、「非日常」を集約したりすると「日常」になり、そこにビジネスのヒントがあるという点です。

(p83より引用) パソコン初心者の質問は、個々のユーザーにとっては、全く“非日常的”なものであるが、電話や注文を受ける企業側にとっては、極めて“日常的”なことである。実はここに収益源がある。「顧客にとって非日常的なことを日常的にこなすビジネスは儲かる」という法則があるからだ。

 逆に「そうかな?」と思った点は、「鉄道と通信」の相似性についてです。

(p208より引用) 小林一三が開発した事業モデル「鉄道を軸に多様な事業を組み合わせて、沿線全体の価値を上げる」の「鉄道」を「通信」と言い換えると、最近のネット企業のビジネスモデルになる。「通信ネットワークを中心に多様な事業を展開し、ネット全体の総合的価値向上を追求する」というネットワーク事業モデルは、鉄道と原型は同じである。

 確かに「原型」は似ているかもしれませんが、最近はそうともいえなくなっています。
 「通信」の方は、「(通信ネットワークを利用して)多様な事業を展開する『主体』」としては、ほとんどの業種・業界の企業が候補となり得ますし、また、その「展開する『広がり』」もボーダレスです。その分、「(旧来型の)通信事業者」にとっては、事業モデルにおける自社のウェイトは相対的に小さなものになっていきます。
(注:このあたり数年前に書いたコメントなので、さらに今考え直してみると違った結論になるかもしれません。“インターネット”がインフラ化してきたので「通信」の定義自体が変化していますね。)


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