問題は「燃料」ではなくて「抵抗」|56冊目『「変化を嫌う人」を動かす』
ロレン・ノードグレン ディヴィッド・ションタル(2023, 草思社)
僕だって "変化を嫌う人"
「変化を嫌う人」を動かす、というタイトルに魅かれてこの本を手に取りました。
”変化を嫌う人” の存在がクリエイティブの邪魔をして、イノベーションを阻害するので、そうした人たちをどうすべきかと、自分のことを棚に上げて自分以外の誰かを悪者としてイメージしていたのですが、よくよく考えれば、実は自分自身だって ”変化を嫌う人” に違いないことに気づきました。
新しいことはワクワクしますが、でもそれ以上にいろいろ面倒くさいことがあります。
引っ越しするには整理整頓をして片付けをして、要らないものを捨てて、そして引っ越し先でも荷物を受け入れる準備をしなくてはなりません。
ホントにめんどくさい。(実は今、事務所の引っ越しの真最中です)
何も考えないで、昨年と同じ仕事をして過ごせたら、合理的で効率が良くて、そしてとても楽だと思います。
ですから、自然とその方向性を選択してしまいがちです。
自分も、自分が所属する組織にもその傾向があります。
しかし、それでは成長がありませんし、チャンスも見つけられないでしょう。
「楽」と「楽しい」は同じ漢字を書きますが、楽ならば楽しいとは限りません。
むしろ退屈なことの方が多いのではないでしょうか。
幸か不幸か、少子化で学生・生徒募集にとって厳しい時代なので、学校も変革が必要です。
学校の中でさえ、毎年、同じことをしていれば良い部署なんてもはやどこにもありません。
身の回りの変化はリスクがあり、不安に思いますし、変化しないより変化する方が面倒なことは多いです。
そうした意味で、僕自身も根本的には ”変化を嫌う人” ではあるのですが、一方では ”好奇心旺盛で行動する人" というキャラクター設定をしているので、自分自身のモチベーションや行動をデザインする意味でなぜ変化を嫌うのかその理由を理解する必要があると思いました。
マーケティングの側面と組織論の側面から「抵抗」の4つの要素を説明
" 変化を嫌う人" を動かすためには、商品やサービスのメリットをアピールする、すなわち「燃料」にばかり注力するのではなく、受け入れを否定する「抵抗」に着目し取り除く必要があると言います。
本のサブタイトルに『魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』とあるように、「抵抗」には「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」の4つの要素があります。
行動経済学、消費者心理学、消費者行動学の理論がベースにあるようで、消費者が新製品、新サービスを受け入れない理由を具体的な事例をあげて分析するマーケティングの側面として多くは説明されますが、企業の制度やコミュニケーションのあり方を事例として従業員の「抵抗」を分析するならば、それは組織論の側面になります。
①惰性
人は見慣れたものを好みます。
これを「単純接触効果」と言います。
動物は本能から、初めて見るものに怖がって近寄りません。
「新奇恐怖症」と言うのだそうです。
しかし、2回目に見たときには少し慣れます。
そして、出会う回数が増えるに従って警戒心は好奇心に変わると言います。
これは人にも当てはまります。
営業職をしていたときに研修で「ザイアンスの法則」すなわち、単純接触効果について学んだことがあります。
接触回数が多い方が好意を持ってもらえるので、顧客訪問は頻度を上げた方が良いという理屈でした。
また、人は知っている商品を購入するという傾向があるようで、企業が高額なコストを費やして広告を出すのはこのためです。
また、知っている商品に似せるということも心理的に効果があるようで、パッチモンでないまでも、なんとなく人気商品に似せて競合商品が作られるのはこの効果を期待してのことでしょう。
私たちはパソコンで「ドキュメント」「フォルダ」「デスクトップ」という言葉を当たり前に日常的に使っていますが、これはスティーブ・ジョブズが物理的な世界からパソコン上の仮想の世界へと職場が代わったときに、物理的な世界に存在する馴染みがある用語をアナロジーとして当てはめたのだそうです。
MACには要らなくなったファイルやドキュメントを捨てる「ゴミ箱」もありますね。
②労力
例えば自分は、運動靴やスポーツ用品はNIKE、スーツはNEWYORKER、パソコンやスマホはアップル社といったように、購入する製品によって対象のブランドを決めています。(最近は物価があがって買えなくなってしまったブランドもあります)
そうすれば、選択肢が絞られて選択が楽になるからです。
企業側からすればブランディングということになりますが、消費者側から考えるとブランディングはある意味、惰性の一つであり、惰性とは思考停止であると思います。
思考も労力に違いありませんが、もっと直接的に、労力を費やすことが面倒なために変化を躊躇することもあります。
本の中で紹介されているのは、発展途上国の水の浄化の問題をデザイン思考によって解決した事例です。
プロセスを分析して、合理的でない部分やボトルネックとなっているところを探り出して簡素化することで良いアイデアを促進させていきます。
苦労が変化の障害となる例で僕が思い浮かべるのは、先にも書きましたが、引っ越しです。
家を新築して引っ越す、会社が新社屋に引っ越すなど、それがたとえ、ワクワクするような引っ越しであったとしても、費やされる労力を想像すると、変化に対して積極的になれない自分がいます。
それからパソコンの買い替えやスマホの買い替えも労力の面で大きな躊躇いがあります。
これも ”ワクワク" と "面倒臭さ” との戦いですね。
僕は面倒臭さの方が勝ってしまうので、2015年製のMacBookを未だに愛用していますし、iPhoneは12です。
労力には「苦労」と「茫漠感」とがあります。
茫漠感とは聞きなれない言葉ですが、すべきことの多さから、何から手をつけて良いのか、どうしたら良いのかわからないような状態のことを言います。
引っ越しもそうですし、"起業"、あるいは "転職" といった人生の大きな変化の場合にはやはり茫漠感があるのではないかと思います。
茫漠感の克服方法はロードマップの作成だそうです。
転職エージェントや大学院進学、履修証明プログラムなど、なるほどうまくいっているサービスはきちんとロードマップが示されているなと感じることがあります。
②感情
製品やサービスが購入されない場合には、表向きの理由の裏側に「感情」に基づく別の理由があることがあります。
そうした場合には、質問によって本当の理由を導き出したり、行動観察によって調査をするなど、やはりデザイン思考の出番のようです。
”組織が提供する価値は組織が売っているものではなく、その組織の助けを借りて他の人たちが実現できる(機能面、社会面、感情面の)進歩だ”
とあります。
商品の機能や性能ばかりを一方的にアピールするのではなくて、その商品が顧客一人ひとりにとってどんな価値があるのか、何を得られるのかをきちんと説明することで感情の課題の解決をすべきです。
僕が勤務しているような学校について当てはめると、最終的に進学先として選択されないケースについて、そこにどんな感情が働いて選択を阻んでいるのかを分析する必要があります。
卒業後の進路が不安なのか。
大学の評価を通して自分の評価が落ちることへの恐れがあるのか。
保護者や先生、友だちの反対意見への共感なのか。
あるいはアイデンティティの不一致を感じているのか。
まずは抵抗の感情がどこにあるのかを理解した上で、提供できる進歩を示す必要があります。
進歩をどう示すかと言えば、ディプロマ・ポリシーやグラデュエーション・ポリシーでしょう。
それを今以上に大切にして、受験対象者や関係者にしっかりと学びによる機能面、社会面、感情面の進歩をイメージしてもらえることが重要なのだと思いました。
また、自分には理解できない感情面の反応に出くわしたときに、「こんなふうに反応するなんて信じられない!理解できていないんだ」と思うことがあります。
しかし、影響を与えようとしている相手のことを ”分かっていない” とか ”頭がおかしい” と結論づけた瞬間、負けが確定してしまうと言います。
他者の気持ちを否定するようでは、相手の立場に身を置くことはできないからです。
この説明を読んで僕はドキっとしました。
まんまと僕は "こいつ何も分かっていない" と相手のせいにするだろうと思ったからです。
これはマーケティングの場合はもちろん、組織づくりの際にも当てはまると思いました。
提案を行ったときに、怒ったり、否定したり、自分の予想していない反応を相手が示したときこそ、理解を深めるチャンスだと考える様にします。
②心理的反発
「心理的反発」は「感情」の抵抗との区別が難しいですが、客観的な判断に基づくものではないところで、何となく直感的、本能的に受け入れたくないという心理のことです。
後付けで、その否定の心理を正当化する理由をこじつけることもありますが、多くは天邪鬼なだけのような気もします。
自分にも多分にそんなところがあります。
そういえば先日、妻の妹に、全否定する同僚との付き合い方を相談されました。
詳しく聞かなかったので、その同僚が何が原因で、どのように全否定をするのかは分かりません。
心理的反発が発生する要件は「アイデアが基本的な信念を脅かす場合」「変わることへのプレッシャーを感じる場合」「オーディエンスがのけ者にされていた場合」(この場合のオーディエンスとは対象者のこと)だと言います。
「自分は優秀である」「自分こそが良い提案をすべきである」と思っていたら、誰か別の人が良い提案をするのは困るわけです。
また、その提案の実現に際して、自分の能力では業務が追いつかないということがあってはいけないですし、それが自分の関わらないところで決められていたことだとすれば、それだけで腹立たしく感じます。
自分のプライドを守るための防衛手段としては全否定するしかありません。
あるいはそんなところなのかな、と想像しました。
心理的反発の克服に "説得" は逆効果です。
相手を説得しようとするのではなく、相手が自分自身を説得するのを手助けするべきだと言います。
そして、それは「自己説得」と呼ばれています。
自己説得は気づきを押し付けるのではなくて、自ら気づいてもらうことで心理的反発の発生を防ぎます。
「燃料」ではなくて「抵抗」に目を向ける
マーケティングで商品を売り込む場合も、組織改革で何かを提案する場合も、セールスポイントやメリットを提示して、消費者や同僚を説得しようと考えがちです。
しかし、それでは人は動きません。
ましてやそれがまったく新しい提案だったとしたら尚更です。
説得しようとすればするほど抵抗が強くなります。
まず、抵抗を取り除くことを考えるべきです。
という内容の本でした。
これからは僕も、説得ではなく、まずどのような抵抗が存在するのかを考えて、先にその抵抗を取り除くことからしていきたいと素直に思いました。
自分も変化を受け入れられる人になってきたかな。
最後までおつきあいいただきありがとうございました。
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