コンパッションの世界はどんな世界?|18冊目『Compassion コンパッション』
ジョアン・ハリファックス 著(2020 , 英治出版)
現実世界とは何か
うちの次男は家にいるとき、ご飯と風呂以外はずっとパソコンとiPadを触っています。
トイレに行くときはiPadだけですが、基本は両方使っています。
ご飯と風呂だって、極力、時間をかけないようにしているようで、あっという間に食べて、すぐに自分の部屋に戻ってしまいます。
知人友人に相談してみると、多くの人が「うちの子もそうだ」と言いますので、どうやら多くの小中学生が同じような状況のようなのです。
でも、それが自分に理解できないからといって、頭ごなしに子どもを否定しても解決できないことぐらいわかっています。
ならば、いくらかでも次男の見ている世界を理解できたらと思って、『WIRED』のゲーム特集(VOL46 2022年10月1日発行号, プレジデント社)を読んでみました。
序文で『WIRED』日本版編集長の松島氏がこんな風に書いています。
地球が人類にとって居住可能な場所ではなくなり、火星への移住を真剣に検討しはじめるその前に、アルファ世代はすでにディジタルの世界へと移住をはじめているのかも知れないですね。
私はいつからかこんな世界観を持つようになりました。
”宇宙とは神によって観察されたシャーレの中の存在。”
調和が取れて、平和が長く続くこともあるが、何かの調子に化学的な変化が起きて崩壊へと向かうこともある。
みなさんも同じような想像をしたことがあるのではないでしょうか。
WIREDの松島氏の序文によれば、例えばディヴィッド・チャーマーズの「マトリックス仮説」やニック・ボストロムの「シミュレーション仮説」というのがあります。
これはすなわち、自分は今、本当はヴァーチャルワールドの中にいるのではないだろうか、という哲学的な問いです。
竜とそばかすの姫
こちらは『Compassion』の本文の掲載から。
かのアルベルト・アインシュタインはこんな風に言っています。
先日、テレビで『竜とそばかすの姫』を放送していたので見ました。
そこに登場する”Uの世界”はまさしくヴァーチャルワールドです。
ネタバレになることは書きませんが、物語の中ですずのお母さんは子どもを助けようとして命を落としてしまいます。
ベルは竜を守ろうとします。
竜とベルは過去に因縁があるとかではなく、家族愛ではありません。
美女と野獣のように見えますが、男女の愛とも別物です。
子どもや竜を助けることが自分の手柄や名声になるとか、何か自分のメリットになるなど、そういうことでもありません。
例えば車が近づく道路に、突然小さな子どもが飛び出してきたら、きっとあなたは自分が危険であるとわかっていても助けると思います。
自分をいい人間にしたいとか、その子どもが知っている子だから、可愛い子だからとか関係なくて、あるいは大嫌いな人の子どもだったとしても無関係に助けるのではないでしょうか。
コンパッションとはそうしたものです。
すずのお母さんやベルを行動させたのはまさしくコンパッションなのだと私は思いました。
コンパッションとは何か?
『Compassion』では冒頭、コンパッションにこのような注釈をつけています。
本文中で、ベトナムのティク・ナット・ハン禅師の言動がたくさん紹介されていますが、その一つでこんな文章を紹介しています。
次男が作るヴァーチャルワールドは次男の世界です。
ゲームの中では敵役も登場するでしょうが、それも含めて愛すべき彼の世界なのだと思います。
我々がリアルだと思っているこの世界も、チャーマーズやボストロムの仮説のように、実は誰かのヴァーチャルワールドなのかも知れません。
自分はその世界の登場人物であり、世界を構成する一要素です。
顔を見るのも嫌だという誰かも、自分と同様に世界の構成要素です。
だとしたら、彼は自分であり、自分は彼でもあるでしょう。
エッジ・ステート
とはいえ、アインシュタインが言うように、自分と他の世界とを切り離して考えてしまうのは普通のことです。
自分と自分以外とを切り離すことによって、競争が生まれ、妬みが生まれ、敵意が生まれます。
利己的とは自分の利益のみを考えることです。
利他的は自分以外の人の幸福を考えるという意味で素晴らしいですが、”利他”と言っているうちは自分と他者とが区別されています。
右手は左手ではありません。
目先の自己の利益だけを考えるのではなくて、世の中全体のためのことを考える。
そしてそれはつまり自分のためでもある。
それが理解できている人も世の中にはいて、多額の寄付をしたり活動をしたりしていますが、普通の我々には、なかなか難易度の高い考え方、そして行動なのだと思います。
せめて、エッジ・ステートについて、たくさんの人が理解することができたならば、もしかしたらアルファ世代の子どもたちは私たちのところに帰ってきてくれるかも知れませんね。
最後までおつきあいいただきありがとうございました。
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