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解放された個人に企業が選ばれる時代!?|10冊目『PURPOSE 「意義化」する経済とその先』
岩嵜 博論 佐々木 康裕(2021, NEWS PICKS PULISHING)
私はビジョンに関しての研究をしています。
特に関心があるのは、従業員がモチベーションを高め組織として成果を上げるために本当に必要なのは、組織のビジョンなのか、それとも個人のビジョンなのかということです。
ビジョン、ミッション、バリュー、そしてパーパス
ビジョンとはある期限においての、目指す企業の理想の状態を表したものでありますが、ドラッカーによればビジョンはミッションによってもたらされるといいます(ドラッカー,2017)。
ではミッションとは何かといえば、企業が自社の特色や強みを理解して、社会に提供する価値を宣言したものと理解しています。
ミッションやビジョンを言語化している企業がどのくらいあるのか、任意の50社について企業のホームページを調べてみました。
ビジョンを掲載している企業と比較すると、ミッションを掲載しているところは1/3程度でした。
また、企業のホームページを調べてみると、ミッションやビジョンの企業の解釈がそれぞれであるということがわかりました。
ビジョン、ミッションの他にバリューというものもあります。
ビジョンに比べると、ミッションやバリューはホームページへの掲載が少ないのですが、なぜかといえば、ミッションやバリューの内容を含む、経営理念、企業理念が代わりに掲載されているからだと思います。
グロービス経営大学院は、ミッションは経営理念の構成要素の一つであるとし(グロービス経営大学院,1985)、アーサーアンデーセン(アクセンチュアの前身)は、ミッションの存在目的と事業という2つの意味のうち、存在目的が経営理念に該当する(アーサーアンデーセン,1997)、つまり経営理念とはミッションの構成要素の一つであるといっています。
私が在学していたときにRBS(立教大学大学院ビジネスデザイン研究科)の教授をされていたスターバックスコーヒージャパンの元CEO、岩田松雄先生はミッション、ビジョン、バリューを以下の様に説明しています。
ミッション 企業の使命や存在意義。何を達成したいのかを意味します。
ビジョン 目指すべき方向性。将来(通常5年から10年)あるべき姿を意味します。
バリュー(行動指針) 企業の価値観。ミッション・ビジョンをどうやって、何を大切にしながら達成していくのかという行動の判断基準を意味します。
ビジョン、ミッション、バリューはすべての研究者が同じ定義をしているわけではなく、企業の解釈も一様ではありません。
ミッションからバリューが抽出されるのか、バリューをもとにしてミッションが作られるのか、さまざまな考え方がありますが、いずれにしてもミッションとバリューはお互いに強く影響し合っているものであることは間違いありません。
また、ドラッカー曰く、「ミッションによってもたらせるビジョン」とは、すなわち、ビジョンとはミッションが形を変えたものであるともいえるでしょう。
つまり、何を言いたいかといえば、
ビジョン、ミッション、バリューについてそれぞれの定義はあるけれど、根源は一緒のものであり、その境界は曖昧で、実際にはほとんど同じ意味で使われており、その影響、効果も同様のものである
ということです。
そしてさらにそこにパーパスの登場となります。
パーパスって組織変革のためのツールでは?
パーパスとはそのまま日本語にすると目的となります。
ミッションは使命ですが、使命と目的の違いをどう理解したら良いのでしょう。
組織をより良い状態とするため、あるいは組織変革などするために、ミッションが整理され、ビジョンが描かれます。
しかし、もはやありきたりともいえるミッションやビジョンに組織を変革する力があるのだろうかと考えたコンサルティングファームが、パーパスという新しい概念を作り出し、ツールとして使うことで組織変革を行おうとしたのではないかという仮説を私は持ちました。
パーパスとは本当は何なのかを理解したくて、ハーバードビジネスレビューの、パーパスに関する論文を集めた『PURPOSE』を読みました。
パーパスとはこういうもの
これからの企業にパーパスが必要である
ということはたくさん書かれているのですが、ミッションやビジョンとの明確な違いを把握できません。
BIOTOPE代表の佐宗氏は、ミッションをDo型とBe型と区別した場合のBe型がパーパスだと書いています。
すなわち、パーパスとはミッションの種類であるという解釈です。
なんとかパーパスの正体を知りたいと考えて、さらにこの『PURPOSE 「意義化」する経済とその先』を読みました。
パーパス=社会的存在意義
ミッション、ビジョンとの違いとして強調されているのは社会的存在価値の社会的の箇所です。
SDGs、ESG投資の時代ですから、企業のミッションにだってもちろん社会的な意義が含まれているに決まっています。
ですから、ビジョンやミッションが社会的ではないということではないのですが、ミッジョン、ビジョンと言った場合には「社会的」が必須ではないけれど、パーパスにとっては必要不可欠なものであるという意味として私は理解しました。
パーパスと関わりが深いものとしてCSV(Creating Shared Value)があります。
CSVはマイケル・ポーター教授の提唱しているものですが、ポーター教授といえばやはり競争戦略が思い浮かびます。
競争戦略の文脈の中では、企業は独占、寡占をめざす存在であり、かつては競争戦略の文脈からミッションが作られビジョンが描かれてきたと思います。
iPhoneの登場による破壊的イノベーションはAppleとスティーブ・ジョブズ氏の伝説的なできごとでありましたが、もはや破壊的イノベーションをめざす時代ではないといいます。
企業が目的やゴール(パーパスであれ、利益目標であれ)を考える際には、孤立した自社のみの利益につながるようなゴールではなく、社会全体にとっての利益を考えることが必要とも言える。
自社だけでなくサプライヤー、顧客、株主、環境や地域コミュニティなどのステイクホルダー全体の利益を考えると、追うべき目的は金銭的目的だけでは不十分になっていく。
消費者は信頼を置くことができる、自らを先導して社会をよりよい方向に推し進めてくれる企業を求めている。
このあたりが、この本の語る従来のビジョン、ミッションとパーパスとの違いなのだと思います。
企業活動の目的は人間中心から地球中心に
パーパス起点のビジネスのあり方は、人間中心から地球中心という考え方にシフトさせます。
おや、どこかで聞いたお話です。
パーパスに基づくこれからの企業のあり方を探っていくと、サーキュラーエコノミーとも当然のごとくつながっていきます。
サーキュラーエコノミーとサーキュラーデザインについてはデザイン思考の限界!?「人間」中心開発デザインでは地球が崩壊する!!!|4冊目『サーキュラーデザイン』をご覧ください。↓
人間中心はデザイン思考の根本的な考え方ですが、もはや人間中心とは言っていられない、地球のことをもっと考えるべき、という意味でこのようなタイトルをつけています。
パーパスでも同じ考え方をしているのですが、興味深いのは著者である岩嵜博論教授、佐々木康裕氏ともにデザインスクール出身のデザイン思考の第一人者であることです。
企業のパーパスと個人のパーパスを紐づける
本に書かれた企業の事例から、もう一つ、私が興味をもったところをご紹介します。
KPMGという会計事務所、コンサルティングファームの行った1万ストーリーチャレンジというのがあります。
KPMGは「Inspire Confidence ,Empower Change(社会に信頼を、変革に力を)」というパーパスを設定し、1万ストーリーチャレンジによって、外部に向けてアピールするのではなく、社内で内省する機会としました。
これは企業のパーパスと個人のパーパスとを重ね合わせるための試みです。
過去の成功が未来の成功確率を高める時代においては経験値の高さがリーダーに必要な条件でした。
しかし、過去の成功と未来が必ずしもリンクしないこれからの時代にはメンバーを一人で引っ張っていくようなリーダーシップではなくて、メンバー個々人のパーパスを聴き出して、それを組織やプロジェクトのパーパスと紐づける手助けをするリーダーシップが求められているのだといいます。
これは私自身が研究している個人のミッション、ビジョンの組織への影響の話とかなり近い考え方であり、読んでいてうれしくなりました。
ウイリアム・ホワイトという人がむかし、組織に忠実な組織人モデルの人をオーガニゼーション・マンと定義しました。
そして、『モチベーション3.0』『ハイ・コンセプト』の著者ダニエル・ピンク氏はオーガニゼーション・マンの時代は終わりだと言っています。
若い世代のモチベーションはお金から自分で自分をコントロールできる、能力の向上、キャリアのコントロールへと関心が移っているそうです。
だから、これからは企業が個人を囲い込むのではなくて、解放された個人に企業が選ばれる時代なのだといいます。
私はビジネススクールの修論を書くときに、デシとライアンの自己決定理論を参考にしました。
自己決定理論は自律性、有能感、関係性という心理的欲求がモチベーションに影響を与えているとするものですが、特にミレニアル世代やZ世代のモチベーションには自律性と有能感が強い影響を与えているのだと理解しました。
課題の多い現代において、企業は自社の利益ばかりを考えるのではなく、社会的存在意義を明確にすべきであり、そしてそれが企業の「パーパス」であるということ。
企業のパーパスによってリーダーはメンバーを先導するのではなくて、メンバー個々人のパーパスを引き出して、それを企業のパーパスと紐づけるリーダーシップが求められているということ。
こんな感じでまとめてみました。
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