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地獄おっさん

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地獄のおっさんに遭遇致しました。 短編小説です。
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#小説

『地獄おっさん』①

『地獄おっさん』①

『地獄おっさん』

○ 千葉県・国道・昼

山に囲まれた国道を、運転席のマサキ(20)と、助手席のコウジ(20)の二人は車で進む。
マサキ「つーか、もうどこら辺で曲がればいいのか、全然わかんねーよ」
コウジ「やっぱナビが無い車はダメだね」
マサキ「お前、人に車出してもらってて、スゲー態度だなー」呆れた顔のマサキ。右ポケットから携帯を取り出すコウジ。コウジの右手人差し指には、大きめの指輪がはめてある

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『地獄おっさん』②

『地獄おっさん』②

白いセダンの中に、ハゲて小太りの中年の男が確認できる。相手の女の素顔は全く見えないが、長い髪をくるくるに巻いた、今時の若い女性の様に見える。
中年のおっさんが女の頭を両手でさわり、自分の顔に近づけると、ペロペロと顔を舐め回し、少し経つと自分の顔から離し、少し見つめ合うと、また自分の顔に近づけペロペロと顔を舐め回す。
マサキ達には薄っすらとだが、白いセダンの車内はこう見えている。
コウジ「あの二人、

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『地獄おっさん』③

『地獄おっさん』③

マサキ・コウジ、目も完全に慣れ、その光景がはっきりと見える。
二人は涙目になり、硬直する。体を窓から離し、白いセダンから自分達が見つからない様に、リクライニングシートを倒し、隠れる。
マサキ「な、なぁ…」
コウジ「あ、あぁ…あれは、完璧に生首だよな…」
マサキ「…でも…でも違うかもしんねーよ。見間違いとか…」
マサキは体を少し起こし、運転席の窓ギリギリところに目をやり、白いセダンを除く。
白いセダ

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『地獄おっさん』④

『地獄おっさん』④

○千葉県・ファミレス・駐車場

車を駐車場に入れる。マサキ、車を降りる。コウジ、車を降りる際、自分の携帯を見る。電波のマークが、かろうじて一本たっている。小さい笑みがこぼれるコウジ。
その時、震えた小声でマサキ、
マサキ「な、な、なーコウジ、あの車、おっさんのじゃねーよな?」
コウジは持っていた携帯を助手席に置くと、すぐにマサキが顔を向けている方を見る。
そこには白い四駆車が止まっている。
コウジ

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『地獄おっさん』⑤

『地獄おっさん』⑤

コウジ、くわえていたタバコをテーブルに落とす。

マサキ、振り返りコウジの視線の先を見る。
マサキ「(呟き)は?…な、なんで?」

マサキ、視線をコウジに戻す。
コウジは落ちたタバコを拾い、火を消している。体は小刻みに震えている。
マサキも、体振るわせ、震えて声で口を開く。

マサキ「コ、コウジ。どうする? どうするよ? なぁー、なぁー」

白いセダンのおっさんは、隣の隣のテーブルに座る。
席に着

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『地獄おっさん』⑥

コウジ「ん? なんだ! なんだ!」
マサキ「え? どうしたの? あのおっさん!」

二人は、外に出て行ったおっさんを、ガラス越しに視線で追う。
おっさん、自分の車のところで一度運転席をあけると、またスグに閉め、駐車場の中のマサキとは違う車に向かう。その車に、丁度会計を終えた老夫婦が近づいてくると、おっさんはきびすを返し、もう一台のマサキの車に近寄っていく。
そしてマサキの車の周りを、ゆっくりと回っ

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『地獄おっさん』⑦

『地獄おっさん』⑦

マサキ「え?ガム?」
コウジ「あぁ。さっきおっさんが、やってたんだよ…」
マサキ「マジかよ…だめだ! もう逃げよう!」
コウジ「落ち着けって! もう車が使えねーんだ! 外へ出たって、ガムとってる時にぜってーやられる」

二人は異常なまでに体を小さくし、小声でこそこそ話しているが、
おっさんは気にも止めず、淡々とタバコを吸っている。

マサキ「じゃーどうする?」
コウジ「店員に言って、助けてもらおう

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