『地獄おっさん』⑦
マサキ「え?ガム?」
コウジ「あぁ。さっきおっさんが、やってたんだよ…」
マサキ「マジかよ…だめだ! もう逃げよう!」
コウジ「落ち着けって! もう車が使えねーんだ! 外へ出たって、ガムとってる時にぜってーやられる」
二人は異常なまでに体を小さくし、小声でこそこそ話しているが、
おっさんは気にも止めず、淡々とタバコを吸っている。
マサキ「じゃーどうする?」
コウジ「店員に言って、助けてもらおう。警察も呼んでもらって…」
マサキ「あぁ! そうだなそれがいい! じゃーオレが行ってくる!」
コウジ「バカまて! 静かにいかねーと、店員に告げ口してるのがバレたら、あのおっさんは、何をするかわかんねーだろ?」
マサキ「じゃーどうすんだよ!」
コウジ「オレがさりげなく言ってくるから」
マサキ「は? オレもあいつの隣にいるのがこえーんだよ!」
コウジ「スグに行ってくるから、ちょっとだけ待ってろよ! な?」
コウジ、そう言うと、静かにその場を立って、レジカウンターに向かう。
マサキ「お、おい…」
マサキ、コウジに言いかけるが、おっさんをチラっと見ると、またその場でナイフを強く握り座る。
おっさん、無表情でタバコをすっている。
コウジは、レジカウンターに行き、店員の呼び鈴をおす。
男性店員、カウンター内から出てくる。
店員・男「ありがとうございました。伝票の方、宜しいですか」
コウジ「い、いや、違うんです…あの、警察を呼んで欲しいんです」
店員・男「どうされたんですか?」
コウジ「僕らの席の隣のおっさんが、人殺しで、僕ら狙われてるんで…」
店員・男「は? どんな冗談ですか?」
男性店員は、軽く笑いながら言った。
コウジ「冗談なんかじゃ無いんです。助けて欲しいんです」
男性店員はコウジの状態を見て、笑顔を消す。
店員・男「あの、僕だけではアレなんで、店長を呼んできてもいいですか?」
コウジ「あ、はい。お願いします」
男性店員は、カウンター内に戻り、少しすると店長と出てくる。
店長「まずは、詳しくお伺い致しましょう」
おっさんから死角になるレジカンター前で、
コウジ、二人におっさんに会ってから、今までのすべてを話した。
店長「そ、そんな事が…分かりました。お客様は、また席でお座り下さい。その男を変に刺激してもあれなんで。私どもが警察に連絡を取ったり、お客様の安全をお守りします」
コウジ「ありがとうございます!」
店長「ではスグにお席に」
コウジ「はい」
コウジは、安堵の表情で席に戻る。
店長「タクヤ、店を閉店させて、カーテンとかも下げちゃって」
店員・男「はい、わかりました」
店長「あと、アソコも開けといて」
店長は、男性店員に鍵を渡す。
コウジが戻ると、先程と変わらず、おっさんは無表情でタバコをすっている。
マサキはコウジがやっと戻ってきたと、安堵の表情になる。
マサキ「どうだった? 店員に言ったのか?」
コウジ「大丈夫、もう完璧だ! 安心しろ。スグに警察呼んでくれるってから」
マサキ「マジか…よかったー」
マサキ、握っていたナイフをパントリケースに戻す。
コウジ、タバコに火を点け、おっさんを意識しながらも、少し落ち着きを取り戻し、一服を始める。
先程の男性店員が店じまいをしているのが、コウジから見える。
閉店の看板等を出すと、窓のカーテンを締め始める。
そのまま、コウジ達の席にまできて、コウジの後ろのカーテンも含めてすべてを閉め出す。
コウジの後ろのカーテンを閉める際、男性店員は、かすかな声でコウジに言った。
店員・男「これで警察がきても、外の様子がバレる事はないので、大丈夫です。もう少しですので、頑張って下さい」
男性店員はおっさんの席のカーテンも閉め始める。
店員・男「失礼致します」
おっさんは、返事もせずにタバコをすっている。
テーブルの上の灰皿は、吸い殻だらけ。
男性店員はまたレジの方に戻って行く。
コウジ「大丈夫。もうちょっとだ」
マサキ「あぁ。…とりあえず、おっさんが騒ぎ出さなきゃいいな」
奥から店長と男性店員がこちらに向かってくる。
二人は手にメニューを持っている。
コウジ、レジ側に背を向けていて状況が分からないマサキに、表情で2回「来た」と伝わる様な合図をする。
マサキはその合図に、少し緊張の糸がほぐれ、笑みをこぼす。
男性店員はマサキの真後ろまでくる。
店長が、コウジ達の方に向かって来る最中、マサキの後ろの男性店員は、メニュー表で隠していた刃渡り20センチくらいの出刃包丁を、マサキの首筋に後ろから思い切り突き立てた
マサキ「ウギギギギギギギギギっ!!!!な! な、な・・・」
マサキの首筋から、クジラの潮噴きの様に血液が飛び散る。店員の男の顔は鮮血にまみれる。
マサキ、一気に脱力して、視点をチクハグにすると、テーブルに頭から崩れる。