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生まれ来る前に


かなり以前、生前に祖父の手帳に記されていた「生まれ来る前の世界にかえりたい」という言葉を時々思い出す。

祖父は魂の永遠など信じてはいなかった。

生前、「死んだらおしまい」とも良く言っていた。

私は二十歳頃に、一度死にかかったことがある。
その時に、部屋の天井から自分の身体を見つめるもう一人の自分がいたことを覚えている。
あのまま自分の身体に戻らなかったら、今の私はいない。
20歳そこそこの小娘の私は中途半端のまま、あの世には還りたくなかった。

でも今から思うと…また新しい人生経験を生き直せるチャンスだったのかも知れない。
ただもう一度やり直すとなると、もっと重たい荷物を背負う人生が待っていた可能性もある。

こうして生きているからこそ、産まれ来る前にこの世で果たす約束をやっているとも言える。
辛いだの苦しいだの言っているあまちゃんの私。
あなたね、何を考えているの?

生きているって、自分の都合の良いことばかりが起こる訳ではない。

良いことも悪いことも現れる。
それをどう受け取るか、良いと思うことも悪いと思うことも、生きる糧と思えたら儲けものだ。

少しだけ立ち上がれる予感がしたが、またほんの小さな、大したことではないものに打ちのめされる。
「仕方がないよ」「気にしなくていいよ」と言われても、出来ない自分が赦せない。
私って完璧主義❓何でも受け止めようとする。

小さな過ちなんていくらでも起こること。
仕方ないね、と笑って受け流せばいいのに。

こうしてまた一歩進める。

有難いねとちょっとしたことに感謝できることがいい。今この瞬間がいいかも…。

小さな気持ちの切り替えが生きる意味なのかも知れない。その繰り返し。

あの時この肉体を棄てて、生まれ来る前の世界に還っていたら、今の私はいない。

酸いも甘いも分かったふりをして、肉体だけは老いてゆく私。

本当は何にも分かっておりませんという経験。

「あんたなんか、まだまだひよっ子。
早くお迎えが来ないかな?なんて甘い、甘い、まだまだこれからよ」
と人生の先輩は言う。

えぇ~、まだまだこれから?心の中でそれは勘弁して欲しいと叫ぶ私。

苦労をへっ…とも思わないで容易く乗り越えて行けるまで、これも良いことと感じられるように。

イヤイヤ、良いことも悪いこともないと淡々と生きられるようになればいいのに。



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