見出し画像

ハピネス・デイズ in ボルドー#3

 世界多分一周旅の途中。

そろそろ寝ようかと思うタイミングで毎晩イザベラがノートPCを持ってきて、「明日、ここに行くなら、この辺でお茶したら?いい店がいくつかあるの。あとここの公園がおすすめで…」「このワインを飲める店があってね…」とGoogleMapを見せてくれる。
イザベラのおすすめのカフェやボルドーで押さえるべきスポットをメモして、おやすみを言って、電気を消す。
毎晩の儀式。

 私は厚かましい王国の王女なので、人の家に居候になりながら、毎晩ノンストップで朝まで8時間以上眠り続けることが平気でできる。
遅くにのっそりと起き出すと、リビングでリモート作業をしているイザベラが「おはよう」と笑顔で迎えてくれた。
イザベラに誘われて、寝ぼけた状態で一緒に階段を降りてアパートメントの中庭に出る。
そこに大きなプルーンの木とベンチがあって、プルーンをもいで2人で並んで座って食べた。イザベラがプルーンの木を見上げながら話す。

「覚えてる?コロナ禍で、外出が全くできない時期があったでしょ。お互いにどこにも遊びに行けなくて辛いねってメッセージのやり取りをしていた時。
その時は毎日このベンチに座ってプルーンをとって食べたり、本を読んだり、あなたにメッセージを送ったりしてたの。
ここはアパートメントの敷地内なのでセーフでしょ。
ここが唯一の逃げ場だった。
早く落ち着いて山に行きたいなぁ、泳ぎに行きたいなぁ、あなたがフランスに1日も早く来れますようにって思ってたんだ。」

それを聞いていて、寝ぼけた私の目が少しだけじんわりする。
みんなみんな、あの時期に窮屈で辛い思いをしながら過ごしていたことを思い出す。
私が仕事でギリギリまで追い詰められるくらい神経をすり減らして医療従事者として働いていたこと。
コロナが終わったら仕事を辞めて世界一周の旅に出ようと決めたこと。
それまで頑張って職務を果たそうと思っていたこと。
ここに私が来られたことがすごく特別な気がして嬉しいけど、一方で、なんだか日常のように私がいて隣にイザベラがいて、目の前にプルーンの木がある。
緑が眩しかった。


また、別の日の朝。
私が起きたらイザベラ夫妻の2人ともがいつのまにか出勤していて、家に私だけということもあった。2人が、私を起こさないように音を立てずにかなり静かに身支度をして朝食をとって出勤していったのかと思うと、ありがたいやら申し訳ないやら。我ながら図太い神経だと思う。
そういう日の朝には、必ずリビングのテーブルにメモが置いてあった。

「おはよう。
今日も雨が降りそうだから、出かけるときはバスルームとリビングの窓を閉めて出かけてね、ありがとう。
合鍵を置いておきます。
長いひもをつけておきました。
朝ごはんのパンとアプリコット、全部食べてもいいよ。
良い1日を!
ボルドー探検の報告、待ってるね。
今日はJCの手作りディナーです。
夜に会おう。 
イザ&JC」

なんて幸せな気分の朝だろう。
居心地が良すぎて住み着いちゃいそうな自分が怖い。こんな両親の元で生まれていたら、私はきっともっと明るくて優しくて素直な人間になっていただろう。いや、ボルドーに住むフランス人夫婦の元で素直な人間として生まれたら、もはやそれは私ではなくただの別人だなと思って諦めた。
私はこれまでアプリコットをジャムでしか食べたことがなかったのだが、こんなにもアプリコットの果実が甘くておいしいことを、この家で知った。正直アプリコットを甘くみていた、いや味は甘いから表現がややこしいんだけど、アプリコットがここまで美味しいフルーツとは知らなかった。生まれて初めてのアプリコット。アプリコットといい、生まれて初めての野生のフランボワーズといい、生まれて初めての庭の木からもいで食べたプルーンと言い、フルーツ大好き王国の王女でもある私は、毎朝感動をもらっている。
「ハピネス。」
「こういうのをハピネスって言うんだな。」アプリコットをかじりながら、なぜかそう口に出して、思わず笑った。

厚かましい王女は、朝ごはんにアプリコットを全部食べて、またちょっとソファーに横たわってだらだらし、パパとママの言いつけ通りに窓を閉めて指さし確認し、リンゴを1つリュックに入れて、長いひものついた合鍵を無くさないように私の財布につけて出かける。

洗って食べてね、と前日の夜から言われていたのを忘れて、そのまま洗わずに食べました。


道中で雨がパラパラ降ってきて、もっと早く家を出れば良かったと少し後悔しつつ、レインジャケットを着て歩く。
さてさて今日はボルドーのどのあたりに行こうかな。
今日はイザベラは会議はないって言ってたし、JCは基本的にいつでもメッセージのやり取りが可能な仕事のようだし、多分またランチの時間帯に「何してる?」って2人からメッセージが来るだろな。
ふふふ。
今日はカヌレを食べ比べる日にしよう。
今日はトラムに乗って橋の方まで行ってみよう。
今日はワイン博物館に行ってみよう。
昼間の雨の中のボルドー探検は飽きることがなかった。3万歩くらい歩いたり、何時間も博物館にいたり、雨宿りしながらカフェで本を読んだり。

そんな感じでボルドーの日々が、ゆっくりと穏やかに過ぎていった。

基本的に1週間ほぼほぼ雨
ボルドーのベントー
日本マーケツト
私の愛する午後ティーとの再会。
五百円以上したから買ってない。
これは別の回で紹介予定の
ボルドー発祥のカヌレ
(食べまくった)
雨宿りにホットショコラとチョコレート
900円
雨で寒いから靴下を買った。
そして
TEVAサンダルからHOKAへ乗り換えた。
これが私が想像していたボルドー
ここにもカミーノのサイン
スペインのサンティアゴにつながる道
カミーノの巡礼事務所発見
イザベラおすすめの
日本人パティシエのいるお店のケーキ
アプリコットをスーパーで買って
食べてみたけどこれは美味しくなかった。
フルーツは熟すまで、
しばらく待つ方がいいのよと
イザベラから習った。
雨の日は緑が綺麗
パリ、リスボンに続き
ボルドーにもあった
cafe joyeux
(別の回で紹介予定)
ボルドーで買ったロクシタンの石鹸は
旅の間、眠る時に必ず
枕元に置くようになった。
(ハンドクリームは買ってない)
ボルドーワイン畑から生まれた
ブランドCAUDALIEの
ワインの香りのハンドクリームを
記念に買った。
このクールなワイン博物館の話も
別の回に紹介!
濁った川を、
「カフェオレ色」と言った
イザベラが好き。
夜景を見ながらの3人でのディナーも
別の回に。

続く。

いいなと思ったら応援しよう!

のりまき
いいなと思ったら、よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは、世界2周目の旅の費用に使わせていただきます!いつか1周目で残した宿題をしにいきます。