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山に一目惚れした今日の天気は、雷鳥のち雷雨 【山ごもりの夏休み⑥】

ソロキャンプで立山にやってきた私だが、山に興味があった訳ではない。山登りの趣味はないし、歩くと言っても日本では熊野古道、海外ではカミーノデサンティアゴの巡礼くらい。カミーノがまあまあハードであれを歩いたのなら山登りを趣味にしそうなもんだが体力がないのでなかなか気持ちが山登りに向かない。運動が嫌いで汗をかくのも苦手で、あまり興味がわかなかった。

毎日毎日、雷鳥沢キャンプ場でぐるり山に包まれて過ごしていると、「こんにちはー」と山に登っていく人たちが私の家(青いちゃちなテント)を通り過ぎて行く。
呑気にビール飲んで焼き肉焼いててすみませんっていう気持ちがないこともなく、匂いだけお裾分けしている。
キャンプ場のすぐそばの川を渡ってすぐそこの山に登っていく人が多く、これから登ろうとしていた一人のお姉さんに聞いてみると、剱岳に行くのだと言う。
なに?あのツルギくん?
胸がときめく。
そう、あのツルギくん。

剱岳の映画を前日の夜タブレットで見た時もときめいていた。浅野忠信ではなく剱岳にだ。
行きに乗った室堂に上がってくるバスの中で
「あれがツルギだよ」と隣に座っていた、いかにも山やってます系おじさんが親切に教えてくれたので、振り返って見てみると、「おお!」とびっくりするくらいかっこよかった。
山がかっこいいっていうのは初めてわく感情だった。

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岩でゴツゴツしてそうで三角に尖っててシルエットが周りのどの山とも違っていてイケメンだった。バスが通りすぎる1分くらいしか見えず、室堂に着くと位置的に見えなくなってしまい、ツルギくんに会える場所を毎日探したが会えなかった。そもそも霧でどの山も姿を隠していたけど。
つまり、ツルギくんに一目惚れだ。


そんな、ツルギくんこと剱岳に行くと聞いて、お姉さんに詳しくルートを聞いた。いくら無謀な私でもあの岩で尖りまくった剱岳に登ろうなんて気はさらさらなく、剱岳が見える位置あたりまで素人でも行けないもんかしら、というほんの出来心だ。お姉さんが山の一番上のかすかに見える小屋を指差し、「あの小屋が劔御前小屋であの小屋からなら剱岳が目の前に見えるよ」と教えてくれた。(写真の左の方の一番上の山小屋。ちなみに真ん中の青い三角のテントが我が家)どうやらツルギくんはあの山の向こう側にいるらしい。

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いや、あれは無理やわ、一番上やん、と出来心はものの1分で打ちのめされテントの中に戻り二度寝を決め込んだ。
それでも、毎日4日間くらい室堂をぶらついていると、立山連峰も見慣れてきてしまい、会えないツルギくんのことを思い浮かべてしまう。高地にも慣れてきて、息切れも減り、初日は室堂ターミナルまで80分くらいかかっていた私も60分を切るようになってきた。体力が戻ってきたんじゃね?あの上まで登れるんじゃね?と自信過剰な私も現れ始める。恋に落ちると自信過剰になるタイプだ。登ってやってもいいな、と思い始めていた。
翌朝、この地で過ごして数日のうちに、雨雲レーダーを眺めるのが日課になっていた私は、今日は午前中は曇りだが本気の雷を伴う暴風雨が夕方から来ると知り、また今日も雨かよ、とやさぐれて、朝からカレーを作っていた。

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立山ビールをプシュっと開けてカレーを食べている時に
ふと、「やっぱ、今日登ろう!」と決めて、カレーをかき込んで、ビールをほとんど残し、水にアミノ酸を混ぜ、レインウェアとカメラとお菓子の詰め合わせ、のりまきMIXと、ホットドッグをラップに包んで、颯爽と歩き始めた。

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グラグラの恐ろしい橋を渡り山登り開始。

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霧と火山ガスで真っ白な世界でほぼ見えない。

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時々強風で霧が晴れて我が家の青いテントが小さくなっていくのを見下ろしながら登る。

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普段山登りをしない私にとっては結構ハードな道のりで、富士山の方が登りやすかった気がする。
霧は間違いなく剱岳の方へ流れていく。絶望的だった。風向きは変わりそうにない。

登る途中で剱岳が見れないなら行っても仕方ないしやめようかな?と何度も心で葛藤する。座り込んで休憩すると目線の高さが下がり、目の上に赤い飾りをつけた鳥と目が合った。

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「うわ!」
雷鳥のオスだった。
ええ!びっくりした。
めっちゃ普通にいてますやん、天然記念物。夏だから上の方の毛が黒くなってて目のところが赤い。これは完全なるオスの雷鳥!
楽しくなってきてまた立ち上がり登ることにした。
次にラップに包んだホットドッグを食べようと思い、座り込んで休憩すると、茂みからまた別の雷鳥が出てきた。
そしてまたすぐに別の奴らも現れる。

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今度はメスでヒナも4羽!オスと柄が違う。
笑ける。
休憩するたびに天然記念物が出てくる道なのか、ここは。
さすが雷鳥坂(降りてから道の名前を知った)。しばらく親子と一緒に道を進み、別れる。なわばりからそれほど離れない習性らしい。そんなこんなで、かれこれ2時間半くらいで、到着!劔御前小屋!

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コロナ対策で小屋の中へは入れません、と書いてあったがそんなことはいいよ。私のツルギくんはどこ?
ああ。
ここで霧が晴れて剱岳がドドーン!ていうのが人生何やってもうまくいくイージーモードな人なんだろうが、私の場合は予想通り、剱岳の方面だけ大物の霧に包まれて真っ白な世界だった。チーン。

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いいさ、心の目で、心で感じよう。
TSURUGI…。かなり色白。
見えるわ。
ただただ寒いので、さっさと降りることにした。
今度、改めて晴れた日にツルギくんに会いに来ようと思った。今はその時じゃない。しばしお別れします。
帰りはさっきの道と別の道を選び、なだらかな尾根を歩く大日岳の方を回るルートで降りていくことにした。
なんだか知らないうちに山歩きを楽しんじゃっている私がいた。
チングルマという花があちこちに咲いていて、チングルマって名前がいいから何度でも言いたくなる。

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チングルマ、やたら咲いてる。

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チングルマ、可愛い。サウンドオブミュージックの歌を口ずさみたくなるくらい気持ちが晴れやか。空はどんよりしてるけども。

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地獄谷に近づくと火山ガスがひどくなり、視界不良となり、何度か道に迷いかけるが赤い矢印を発見。と思いきや、また雷鳥おるし。

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またヒナが4羽。
この山は雷鳥ホイホイ状態。変な鳴き声で鳴いている。雷鳥の鳴き声はものすごくダサい。グェー↗︎グェー↗︎と鳴く。変だった。大発見だ。語り継いでいきたい。

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霧も晴れて、帰りの道は、行きとはまた全然違う風景が楽しめて下れた。

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雷鳥沢キャンプ場から劔御前まで、行き2時間半、下り2時間半。なんだか疲れ知らずでテンションハイになり、腰を下ろすことなく、キャンプ場の人に雷鳥を見た話をした。
そしたら、驚くことに、キャンプ場の小屋のすぐ横にも雷鳥がいて、キャンプ場のバイトの人たちも大興奮して「おーい、雷鳥いるぞ!」と色んな人を呼んでいた。
山の主みたいな何日もテントで暮らしているおじさんが来て、
「霧の濃い日とか悪天候の日は雷鳥が活動しやすいんだよ」
と教えてくれる。
立山には300羽くらいしか雷鳥はいないらしいが、私は室堂に来て16羽は見ている。かなり雷鳥打率がいいと思う。悪天候の日に山に登ってみるもんやな、と我ながら感心した。ツルギくんには会えなかったけど雷鳥に出会いまくった一日だった。

おじさんに教えてもらい、立山自然保護センターに雷鳥の目撃を報告しに行くことにした。テントから徒歩1時間の距離だが、浮かれていたから、休憩なしに荷物だけ減らして、そのまま行くのもへっちゃらだった。
「雷鳥を見たって言いたい!みんな、聞いて!私は雷鳥を見まくったでーー!」と立山の中心で叫びたい一心だった。

自然保護センターでは、雷鳥を見た時間や場所を事細かに聞かれて写真と動画を見せて、GPSなども確認された。特にヒナが生後どのくらいなのかを詳しく知りたいらしく、雷鳥見たで〜程度の浮かれポンチな私と、研究員ぽい真剣モードのお兄さんとまるで違う温度差を感じた。2万年前の氷河時代からここにおられる神の使いと呼ばれる鳥だ。もっと厳かに観察し報告すれば良かった。まあいい。私にとって雷鳥は旅仲間で道しるべだった。無事、雷鳥シールをもらい、また1時間かけてテント場に戻ることにした。
(オコジョは見てない。気になる…オコジョよ。)

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さあ、帰るか、と外に出ると、雷鳥ハイですっかり忘れていたが、雨雲レーダーの読み通り、雷雨がやってきていた。
雷鳥の次は雷雨。
ひぇーー。忘れてた!雷は勘弁…。
雷に怯えながら、雷鳥シールが濡れないようにジップロックに入れて、また土砂降りの中、我が家に戻る。ギャーギャー言いながら一人で向かう帰路。
土砂降りの中、早歩きをしていたら、みくりが池の横のハイマツの下から雷鳥の親子が出てきた。
今日はどうなってんの、雷鳥活動日?
悪天候な今日、出会った人間の数より雷鳥の方が多い。
ここはメジャーな場所だし報告しなくてもいいな、と思いながら、ずぶ濡れになって登り下りを1時間。思えば今日はかなりハードに歩き通している。
雨でも実り多き日。
雷鳥多き日。
そんな一日。




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のりまき
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