エスパリオンは、南フランス最初の笑顔【ルピュイの道2019#11】
フランス、ルピュイの道を歩いて旅をしている続きの話。
いくつもある「フランスで最も美しい村」の一つ、サンコームドルトの村を、日が昇る前の早朝6時過ぎに出発。
今日のルートは山を登ることになっていたため、亀のように歩みの遅い私は、みんなより一足お先に歩き始めることにした。
昨日飲み過ぎた割に目覚めは良い。
明るいうちから飲んでさっさと寝たからかも知れない。
今日のルートも世界遺産となっているからゆっくり一人で味わうのにちょうど良い朝であった。
向こうにうっすらと見える山を越えていくのかと思うと少し足が重くなるが、気を取り直して、ロット川を渡る。
しばらくして森の入り口のような道に入った。
霧でよく見えない。
霧が出ると映画「ミスト」を思い出して怖くなる。あの映画は世界一の後味の悪さであった。好きだけど。
ふと、私の少し先を歩いている人を見つける。
いや人ではなく鹿だった。
しばらく、鹿に導かれるように歩く。
写真を撮ろうとグズグズしていたらこちらに気付かれて逃げられてしまった。
逃げた先で少し立ち止まって振り返ってこちらを見ていた。
私も立ち止まり、数秒間見つめ合った。すると、ピョンピョンと跳ねるように森の方へ去っていった。
とても幻想的な時間を独り占め。
ゴール地点で落ち合う予定のみんなと合流したらあとで自慢しよう。
森の道を抜け小さな廃墟のような教会に寄ったり、小さな町を抜けたり。
歩き旅はこれだから楽しい。
冒険は続く。
今日は、ルピュイの道を歩き始めて以来1番天気が良い気がする。
初日から暴風雨、大雪、大雨、どんより曇りを経て、ようやく晴天のターンがきた気がする。
これぞカミーノだなと再確認できるような空の青と森の緑。
歩いていてとても気持ちが良い。
そしてまた小さな教会とマリア像。
巡礼路らしさを感じる。
山から見下ろす形の町が見えてきた。
あれがエスパリオンらしい。
サンコームドルトとエスタンというフランスで最も美しい村認定されている場所の間に位置する、町なのか村なのか分からないエスパリオンという地。
フランス語で書かれたガイドブックのエスパリオンについての解説をGoogleで英語に翻訳したところ、こう書いてあった。
「The first smile in the south france」
南フランスで最初の笑顔、と呼ばれている場所らしい。
どんな町かワクワクしてきた。
エスパリオンの町の入り口に差し掛かったのがすぐに分かった。
なんて素敵。
本当に、素敵過ぎて思わず笑みがこぼれるような場所だった。
ロット川沿いの遊歩道を歩いて町に入るのだが、なんて気持ちのいい場所だろう。
歩きながら、ため息と深呼吸の連続である。
まさに、こういう道を歩けるということが、これまで歩いたスペインの道とは一味違う、フランスのこのルピュイの道の醍醐味なのだろうとやっと思えた瞬間だった。
天気も味方してくれていたとは思うが、それでも、どの風景を切り取っても絵画のようである。
フランスの田舎町の美しさが、スペインびいきの私に全力でアピールしている気がする。
どうよ、フランスもいいでしょ。
ハイ、確かに。
思わず一人で笑みがこぼれる。
なるほど、これが南フランス最初の笑顔という訳ね。
ひときわ古くて威厳のある中世の橋は、1000年前に造られたポン・ヴュー橋で、あの橋も世界遺産らしい。
この道も世界遺産だし、美しい村と村の間にある最も美しい村認定されていないこの町エスパリオンがこんなにも素敵だから、フランスのレベルが恐ろしすぎる。
川沿いのベンチで座ってフランスパンを食べる。もうそんな私すら世界遺産。フランス映画の主人公である。
そして、私が画家ならここで絵を描くし、きっと有名になってる。
訳もなく自信が湧いてきて笑いが込み上げてくる。美しさとはもはや笑いが生まれるものなのかも知れない。
本音を言うと、最も美しい村認定をされていないこの町が、今回の旅で最も美しいと私は思った。
ルピュイの道の旅、後半にしてフランスとフランスの空がいよいよ本気を出してきたのであった。
追記:
エスパリオンの素敵な町のおしゃれなカフェでお茶やランチをしようと思ったら、この日は日曜日で、お店はどこも開いていなかった。
おしゃれじゃなくてもいいしテイクアウトでいい…と街を彷徨ったが静まり返る町。
ヨーロピアンよ、日曜日も働こうよ。そんな風につい都合よくヤサグレた。
お腹が空きすぎて、開店前のハンバーガー屋のガラス窓に顔を押し付けて「お腹空いたよー、開けてー!」と泣いた。
そんなエスパリオンの思い出。
フランスの美しい村を歩いて旅するルピュイの道の話はこちらにまとめています。↓