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あなたは私の天使【世界多分一周旅 ルピュイの道2023⑧】

フランスの村を歩いて旅しているルピュイの道、Labastine-Muratからの続きを。

2022年12月~2013年11月に世界をぐるりと旅した「世界多分一周旅」の途中の、歩き旅「ルピュイの道」の記録。
2019年の春に、フランスの「ルピュイの道」を歩く旅をして、コンクという町でその年は終了。
2020年の春に、コンクから続きを歩く予定だったが、コロナ禍で行けず、4年の年月が流れ、2023年にようやくコンクに戻って来られたので、その旅の続きを。

前置き

(↑マガジンにまとめています)

ナタリーとパトリックよりも早起きして、ひっそりと1人で出発。
歩くのがダントツに遅い私は、誰よりも早く起きて、誰よりも早く出発し、誰よりも多く休憩を挟み、誰よりも遅く到着する。
カンさんのじゃがいもの残りは、宿の冷蔵庫に「欲しい人はどうぞ」のコーナーに寄付をし、その代わり、そのコーナーからりんごのゼリーを貰った。少し荷物が軽くなった。昨日の残りのピザと、ナタリーとパトリックの食べきれなかったピザももらった。ラップをして道中で食べるための食糧として確保できた。何より軽くていい。
雨は止んでいたが、霧がすごくて、足場も水溜りが多いので山道は気をつけないといけない。

なんか出そうな朝
昨日の残りのピザを朝食がわりに。
りんごゼリーと思ったらジャムだった
日本から持ってきたETのマスキングテープの使い道。ゼリーの蓋。
パトリックとナタリーが抜いていった。貝殻がついている。
尻尾が長すぎる件
元気です
このシンボルマークを見ると安心する。
間違えた分かれ道
こういうところに足をつけたくなる。
足つけてピザ食べた。

私よりも1時間遅く出発したパトリックとナタリーが、彼らの出発の2時間後に私を追い抜いた。
こういう事象をより分かりやすく掴むために、算数がある。と数学ラブの私は思う。残りの距離と時速とで到着時間を計算してみたり、歩き続けていると暇なのでそういうことを考えたりするが、計算通りにいかないのが旅であり、人生。分かれ道を間違えて引き返したり、また止まって川に足をつけてピザを食べたり。計算から外れつつも、道を進み、9時間ほどかけて歩いて、Versという村に到着。



Versの町の入り口
素敵宿の広すぎるリビング
貝殻のマークのスタンプ
フィジャックからカオールへのルート。
ちょうど私が2023年に歩いた行程。

今日の宿は、ロカマドゥールからのおなじみのメンバー。パトリックとナタリー、おばさん2人組(フロホンスとマハレン、発音が難しすぎた)に、逆方向から歩いてきた3人のフランス人と私だった。

その日はとても特別な出来事があった。

今日歩いていた道の途中で、貝殻が落ちていたのを私は見つけた。
それは巡礼者の証として多くの旅人がバックパックにぶら下げているホタテの貝殻で、ひもが切れてしまっていた。
おそらく私よりも先にこの道を歩いていた人の物だと思ったので、拾って自分のバックパックに入れて持ち運び、宿に着いた時に、同じ行程を歩いている4人に聞いてみようと思っていた。

宿に到着してすぐに、ナタリーにホタテの貝殻を見せて「これ、ナタリーの?」と聞いてみたが、違うとのこと。パトリックも違うと言うので、いつものおばさん2人組のうちの1人フロホンスがそばにいたので彼女に貝殻を見せたら、「Oh!」と大声をあげた。
フロホンスがもう1人のおばさんマハレンを大急ぎで呼びに行って、マハレンが現れ、私が貝殻を見せたら、「Ahhh!」と大声で言って、その場で顔を覆って泣き崩れたのである。
私はびっくりして、「これはあなたの?落ちてたから拾ったんだけど」と英語で言うと、英語が分からないマハレンがフランス語で泣きながら語り出して、フロホンスも涙目になって慰めて、2人で喜んでいる。
「アンジュ、アンジュ」と私のことをそう言って、すごく感謝されて私の頬を両手で包んでから、強く抱きしめられた。
ホタテの貝殻を渡しても、マハレンは泣けて泣けて仕方ない様子で、フランス語で一生懸命何かを説明してくれていたが、私には全く意味が分からない。
なのに、不思議と私も涙がこみあげてきて、意味の分からないマハレンの語る話を、じっと目を見て、うんうんうなずいて聞いた。
そうしていたら私まで泣けてきて、「ウゥ…」と本気泣きをしてしまった。すると、マハレンが優しく髪を撫でてくれて「アンジュ」と私を呼んでいた。

そこに何も知らないナタリーが通りかかったので「アンジュって何?」と聞いたら、ナタリーがフロホンスにフランス語で何やら尋ねて少し説明を聞いた上で、「You are my angelあなたは私の天使って言ってるのよ」と教えてくれた。
そんな大げさな。
そう思ったが、真剣にマハレンはそう言っていた。
おばさん2人から簡単に事の成り行きを聞いたナタリーは、「巡礼者の証であるそのホタテの貝殻は、彼女の亡くなった友達から譲り受けた大切なものだったんだって。一緒に旅していたみたい。それを今日、どこかでひもが切れて落としてしまったから、ずっと落ち込んでいたんだって。良かったね。あなたはとてもいい行いをしたのよ。」と教えてくれた。
そんな大切なものだったんだ。
私まで涙が止まらなくなった理由が分かった気がした。私は落とし物が多くて、しょっちゅう大切なものをなくして落ち込んでいるから、拾ってくれた人への感謝の気持ちはすごく分かる。でもそういう単純な落とし物を拾ってくれた感謝だけではないものが、伝わってきたのだった。言葉の分からない者同士の2人が、向き合ってホタテの貝殻を持ってぐずぐずと泣き続けて、ハグし合って、周りの人が微笑んで。不思議な光景だったと思う。
だけど、彼女は本気で私のことを天使だと思ってくれているようだった。

私のnoteをずっと読んでる方には
ピンとくるかしら。
ラオスのボートの落とし穴に落ちた右足すねの傷跡。
白髪が綺麗なマハレン
鶏肉のトマト煮込みwithライス!
むちゃくちゃ美味しい。ワインに合う。
おフランスのレベルの高い、
深みのあるオリジナルプリン
ドラえもんの袋に入ったふじっこと、
マジックペン型のふりかけ
ナタリーとパトリックと3人部屋で眠る。
私は二階建てベッドの上。


それから、「天使はそこに座って」と言われて、その宿の広くておしゃれなリビングの大きなソファーにふんぞり返り、剥がれかけている右足親指の爪にテープを巻いてもらい、リフレクソロジーに精通しているパトリックに足の裏をマッサージしてもらいながら夕食を待った。
日本人の宿泊客の予約が入ったのが珍しいからと言って、オーナーが張り切って白ごはんの特別ディナーにしてくれていて、みんなで同じテーブルを囲んで食べた。英語を話せる人はナタリーとオーナーだけだったが、そこでマハレンが今日の出来事をフランス語で話して、私はみんなから「アンジュ」とか「アンヘル(なぜかスペイン語)」と呼ばれ、恐れ多くもみんなからの優しさを遠慮なく受け取った。
ディナーが終わって、オーナーが張り切りすぎたせいで白いごはんが大量に余ったので、残りのごはんを日本から持ってきたふりかけと塩昆布でおにぎりを握り、仲間のみんなに1つずつ「明日の道中でお腹が空いた時に食べてね」と言って渡した。
中庭に干していたタオルをナタリーが取り込んでくれていて、カモミールティーを一緒に飲もうとおばさま2人に誘われてソファーに座って飲んだりした。
ナタリーとパトリックは明日でお別れなので、同じ寝室で電気を消してからもしばらくおしゃべりをして、お互いに何度も、寒くないか、毛布を取ってこようかと確認し合った。

こんな風な優しく温かい時間が、これからの自分の人生に1日でも多くあればいいなと心から願ってしまうような、優しい一日だった。


サポートしていただければ、世界多分一周の旅でいつもよりもちょっといいものを食べるのに使わせていただきます。そしてその日のことをここで綴って、世界のどこかからみなさんに向けて、少しの笑いを提供する予定です。