パリのパン屋さんへの思いと思い出
何を今更の、今の流行りからは遠い彼方の話かもしれませんが、現在パリにいるにも関わらず、今やほぼアンテナを張っていない状態なので最新情報では全くないですが、思い入れだけはあったパリのパン屋さんについて、備忘録しておこう!と、パリのパン屋さんについての諸々の、28年前から現在までの思い出、やや長めのつぶやき。
パリのパの字もフランス語も何もできないまま、今の仕事に繋がるただ一途の深い思いで(仕事についてはまたいつか記してみるつもり。そのおかげの現在なので)、アメリカ
1年弱、イタリア2年程の滞在を経てパリへ来たのが1995年。始めに1年間くらい住んだのがパリ20区。当時、パリの日本人の何人にも、どうして20区に(住んでいるの)!と、多少偏見を持って言われましたが、素晴らしく美味しいパン屋さんがアパート近くにあり、まだパリのパン屋さん経験が無の状態でガナショー( Ganachaud )というパン屋さんの洗礼を受けゾッコンになり、パリ20区から始まった私のパリ生活は、多々多々いろいろとありましたが、うん十年たった今から思えば、ラッキーなことの始まりと後々なっていきました(その20区のアパートを借りたことが、後に大転機のきっかけになり。。その話はいつかできたら)。
ガナショーのパンは、小麦は石臼で挽いた小麦の、当時からビオ(Bio。オーガニック)の文字もお店で目にしたような(今パリでは、ビオのパンは結構どこのパン屋さんでもあります。ビオの食材は普通のスーパーでも取り揃えが多くあり、現在では、かなりビオの食材が浸透してきています)、加水豊富なパン生地で、フリュートガナというバゲットがまず名物だったと記憶しています。あんな美味しいバゲットを食べたことがなかった!その初体験がガナショーのパンでした。もっちり系が少なかったように思う昨今のパリのバゲットの中で、粉も酵母も最高のクオリティで職人さんの技術もその意気込みも強く感じられる(思い入れ強過ぎか)、美味しかった印象しかないフリュートガナ(バゲット)。今も忘れ難く深く刻まれています。もう何年も食べていませんので、これを機に買いに行かなくては!
そうして1年程住んでいた20区から大家さんの都合で引越したのが、パリ7区。当時のパリ在住が長い知り合いの日本人に言わせると、7区はお7区だそうで、パリ滞在が1年過ぎてもまだ7区も他の区もどんなところかよくわからないまま、一目惚れした7区のアパートへ引越しすることになりました(今現在は同じ7区でも別のアパートに滞在)。その引越し先のアパートは、プジョラン(Poujauran )というパン屋さんの上にあり、夜中も窓からパン屋さんの働いている様子がうかがえました。ここは当時から行列のできるパン屋さんで、ハード系のパンが充実していて、ヴィエノワズリー、焼き菓子や素朴なタルトなんかもあり、オーナーの二枚目なプジョランさんもいつも働いていて、それはそれは人気の、外観もとてもかわいいパン屋さんでした。フランス人はパンは家の近くで買うのが普通だと思いますが、きっと7区内でも、すぐ近所でなくて、わざわざプジョランにパンを買いに来た人で賑わっていたように思います。と、とても人気の美味しさ太鼓判のパン屋さんで、東京進出!の話があったそうなのですが、書類上の手続きの不具合などで(!?)東京進出の話も流れ、プジョランさんがパン屋さんを経営できなくなり、プジョランさんのパン屋さんは人手に渡ってしまいました。その後しばらくして少しノイローゼのようになったプジョランさんにばったり会い、私にへも(ご近所さんとして、毎日パン屋さんで顔を合わせていると、フランス式に親しくなっていたので)その話の顛末を立ち話で語ってくれたことがありました。今もほぼ同じ外観でパンの取り揃えも同じようなパリ屋さんがありますが、違うオーナーが経営してパンを作っているものと思います。行列もありません(今もその遠からずの所に滞在しているので、先日前を通り確認)。その後プジョランさんはその素晴らしい腕前で、レストランなどに直接パリを焼いて卸しているようなことを聞きました。現に何年も前ですが、ちょっといいレストランで、プジョランさんのパンだと言ってパン・ド・カンパーニュを提供されたことがありました。
当時の若かりし頃の私のパリの日曜日は、パリ5区の区民プールに泳ぎに行くのを常としていて、帰りのバス停近くにあったパン屋さんがカイザー( Kayzer)でした。新鮮なナッツやカレンツやレーズンがこれでもかと入っているパンがとんでもなく美味しくてハマり、日曜日のプールとカイザーのパンを食べるのが楽しみとなり、好きなハード系のパンも充実、どのパンもとても美味しかったのがカイザーです。多分当時カイザーはその5区のお店だけでしたが(!?)、それからの カイザーは、みるみる間にチェーン店やカフェやレストラン風なお店を出してパリを旋風、急にビジネスがかってきて、日本にも大分前に進出していきました。東京にカイザーが開店当時、ちょうど私は里帰り中でカイザーのパンを買って食べて、パリと同じくらい美味しくて嬉しくなったのですが、次の年くらいには、あれー、何だか味が違う、、それからはずっと味が違うまま、きっと粉のランク?を変えたんだな、、と、ド素人の感想ですがそう思いました。商社!?などが介入して、良質な高価な!?粉はもう使ってないんだな、と。今は都内でよく目にするカイザーは美味しいと思いますが(何回か買いました)、あの時の明らかに味が変わってしまったことが引っかかって、もう何年も東京のカイザーには足を運んでいません。
噂で聞いたパリ10区、運河に近い所に、デュ・パン・エ・デジデ ( Du pain et des idées )というパン屋さんがあります。パン・オ・レザンやハード系の大きなパン(計り売りで好きな分が買える)が美味しいというので買いに行きました。確かに活気のある、少し待たないと買えない人気のパン屋さんで、今でこそピスタチオのパン・オ・レザンは見ますが、ちょっと前まではパリにもピスタチオのパン・オ・レザンは見なかったので、ハード系のパンもヴィエノワズリーの類も美味しいし、このパン屋さんにも何度も通いました。そしてこのパン屋さんも東京に進出していきました。始めは表参道で、とんでもなく高いパン・オ・レザンが販売されていましたが、きっと高すぎて、少し値段を下げたり、店内で食べられるように工夫していましたが、表参道のお店は現在はなくなり、今は伊勢丹に入っていると思います。当時のパリ・オ・レザンのとんでもない値段は、現在ではそれなりの値段になっているように思います。東京ではここのパリ・オ・レザンは1回しか買ったことがなく、今や味の記憶はありません(が、つまりは普通に可のなく不可もなく美味しかったのだと思います)。
日本進出といえば、これも伊勢丹や六本木、恵比寿でも見かけた、メゾン ランデュメンヌ( Maison Landemaine)。友人のアパートがパリ9区にあり、友人宅に時々遊びに行く時に通る商店街の坂道をちょっと入った所にランデュメンヌがありました。いかにも美味しそうで、ハード系のパンも充実していて、友人宅に持って行ったり、自分でもわざわざ買いにも行って、少しマイブームになったパン屋さんでした。調べたら11区や15区、その他にも何店舗かあるらしく、時々用事でそれらの方に行った時には、そこのお店にも買いに行っていました。今では納得ですが、何度か行くと、レジやその他お店の見えるところで日本人らしき人が何人も働いており、ごく普通のフランスのパン屋さんの外観なので少し不思議に思っていたのですが、頑張る日本人は結構いるパリなので、お菓子屋さんばかりでなくパン屋さんにも修行の若者がいるんだ、と勇気づけられもしていました(日仏のご夫婦が経営しているようですね)。そうしてこのパン屋さんも知らぬ間に東京へ進出していて、もちろん買ってみましたが、パリで食べた時のような印象はなく(何度か買って食べて、自分なりに確かめたのですが)、日本進出をすると、日本の風土や気候に影響されて、粉も違うのか?パリでの味を知っているだけに、当たり前なんでしょうが、どうも全般的に(味と価格)納得がいかなかったりするので、東京では東京の自分のお気に入りの日本のパン屋さんに足を運びます。
20区のパン屋さん、ラ・ガンベット・ア・パン( La Gambette à Pain )のショソン・オ・ポムも忘れ難い味。中のりんごがずっしり(多分中身は生のりんごで、焼いているうちにりんごに火が通りとろっとしてくるタイプ)、いわゆるバターたっぷりのパット・フォユテ( Pâte feuilletée,パイ生地 )はザクザクのパリパリで、結構な分厚さもあり、これぞ素朴でシンプルの境地。美味しい!先日行ってみたのですが、やはり、とんでもなくの美味しさが健在でした。ここはビオのパンもハード系も昔から充実。外観は街の普通のパン屋と思いきや、超レベルが高いパン屋さんだと思います。コスパもよくて、7区界隈よりリーズナブルな印象もあり。こういうダイナミックで、当たり前に素朴で実を極めていてのパン屋はきっとフランスには結構あるのだろうけれど、近所にあるという巡り合いまではなかなかいかない現状です。もう少し近いと通い詰めたいパン屋さん。フランスでは毎日のようにパンを買うので、近所に美味しい好みのパン屋さんがあれば!やはりパン屋さんは重要項目であります。
数多くのパン屋さんのパンを食べましたが、今になるともう一度食べたい、忘れられないパリのパン屋さんは、ガナショーのフリュートガナ(バゲット)ともうひとつ、15区のピシャール( Pichard )かな。ピシャールは、パリでも珍しい薪釜で焼いているパン屋さんのひとつだそうで、15区の庶民的な商店街にあるごくごく普通のパン屋さん。大分前の日曜日の朝に行った時は(フランスの商店は、日曜日は午前中からお昼過ぎでお終い。午前中は食材の買い物をする人でマルシェや商店街が賑わう)、お店の前にテーブルを出して、バケットだけ並べて、正に飛ぶように売れていく様を目の当たりにしました。次から次へと売れていくバゲットを私も手に入れ、その日に会う予定のマダムにも、フランス人だし大していらないかもしれないけれど、マダムの分も購入して( マダムは昔このパン屋さんの近くに住んでいて、それはそれはこの一本のバゲットを喜んでくれました )、その美味しさに胸を打たれました。ピシャールのバゲットの美味しさは何と表現したらいいのか、、クルート(バゲットの皮)がカリカリとミ(中身)は気泡がきめ細かいような荒いようなでもっちりしていて、塩気や酵母の味わいのバランスも独特な旨味があり、また食べたい!毎日食べたい!!格別美味しい!!!感動の忘れられないバゲットなのでありました。ならばと、コロナ禍明けで2年半ぶりにパリに来て、真っ先にピシャールのバゲットを買いに行こうと思えば、何と閉店。オーナーであのバゲットを焼いていたムッシューピシャールが、セクハラでスキャンダルになったとかで、閉店。こちらは、フランスの週刊誌のサイト記事で詳細を知った次第。残念無念!!
ビオ(オーガニック)歴が仕事柄、思えば今年で35年くらいになるので、パリではずっと専らマルシェビオ ( Marché Bio : オーガニックマーケット、有機野菜食材の市場)通い。ひと昔前のパリでは、4区や11区のかなりマニアックでコアなナチュラルストアで、タイミングよく萎びていない野菜を買うとかしていましたが、今ではビオがかなり浸透して、普通のスーパーでもビオの食材は多岐に渡り手に入るようになったし、チェーン店のナチュラルストア(Naturalia 、ナチュラリアは今年で50周年と古い。Bio c’est bon、ビオセボンは10年くらい前からパリで見るようになった。今は東京でもチラホラある。などなどその他もあり)の野菜も萎びたものはほぼなくなりました。ビオがここ6、7年で急に伸びてきたように思うパリ。そこでマルシェビオ。毎週土曜日は17区のバティニュール通り(Boulevard des Batignolles)のマルシェビオ。毎週日曜日は6区のラスパイユ通り( Boulevard Raspail )のマルシェビオで農家直送の野菜を買い、ビオのパンも必ず買っていました。マルシェビオにきているあるビオのパンが好きで、ハード系、全粒粉多いものや古代小麦(エポートル、épeautre。スペルト小麦)を使ったもの、大好きで、ここにも毎週通ってビオのパンも堪能。マルシェビオはお昼前後は混み混みで、皆マルシェや生産者の人と話しながら買い物をするしで、朝イチでスクーターを飛ばして、ささっとお目当ての農家さんとあるビオのパン(マルシェビオには幾つかパン屋さんも出る。そのうちのひとつ。名前を忘れたけれど、、マルシェの中のどの場所に出店しているかはわかるのでまた行ってみよう)を買うのも習慣のひとつでした。ハード系のビオのパンは大好きだったけれど、フランス人の友人に、パンを切った時にボソボソパンくずがこぼれてくるのはいいパンではないんだ、美味しいパンは切った時にパンくずは出ないと言われ、そういえば、全般的にビオのパンはボソボソタイプが多くて、全粒粉の配分か、酵母か水分含有量の関係か。。それでも重い酸味のあるハード系パンが好きなので、ビオのパンも大好き。
フランスのプティ デジュネ(Petit déjeuner)といえば、パンとカフェ。パリっとサクッと甘い中にも塩味も程いいクロワッサンもいいですが、私の好みはタルティーヌ! バゲットを縦に長く切って、そこにバターをぬって、好みでコンフィチュール( confiture、ジャム)も塗っての定番の朝食。朝にカフェでune tartine (ユヌ タルティーヌ)と言えば、このバター付きバゲットが出てくる。昔はカフェでプティ デジュネをするのが心底好きで、あちこちのカフェでタルティーヌをいただきました。ちなみに私の好きな飲み物は、ノワゼット(une noisette、ユヌノワゼットと言えば、エスプレッソにミルクフォームとミルクが僅かに入ったものが出てくる。ノワゼット、ヘーゼルナッツ色ということらしい。イタリアではマッキアート、macchiato)。この大好きな時間を過ごすにあたっては、マレやモンパルナスにある好きなカフェ目当てにスクーターを飛ばしたり、近くだったり遠くだったり、とにかく朝にカフェでタルティーヌとノワゼットの朝食をとるのが楽しみで、時間がある時の朝はカフェでプティデジュネ。スノッブなカフェのタルティーヌも、近所の商店街の賑やカフェのタルティーヌもどれもこれも好き。この場合は、パンの味というよりは、パンとカフェのあるプティデジュネ、朝食の雰囲気をゆっくり過ごせることを満喫しているので、タルティーヌの味はやや二の次になります。
やっぱり焼き立てのパンは、格別美味しいフランスなのであります。まあ、美味しいパン屋さんばかりではもちろんありません!これは声を大にして言えますが、やはりパンの歴史、毎日フランス人が食べて育んできたパンの奥深さを身をもって感じられることで、それが食文化なのだなと感じます。と、パンにこだわるとバターにもあれこれ言いたくなってきますが、、。
パリの最新パン情報をアップデートしてみたいものの、全く更新できていません!再度パンに探りを入れてみたいとも思います。が、今では、ブーランジュリーならば大体 (でもないですが)どこでもOKになってきています。嗚呼。
それはそれでパンへの興味や重要度、体がパンをどのくらい欲しているかの度合いとこだわりが減ってきたということでもあり、いろいろとこだわりに偏りがあったので、、これはこれでよしとしている昨今です。