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サイレントマジョリティーの信頼も勝ち取るためには(日経MJを読んで想うこと)

 Lipton。黄色や青、時にはピンク(もあったよね?)に姿を変え、クラスの女子の席に置いてあっただろう。そう、紙パックの紅茶である。これでもかっていうくらい、Lipton、女子の机の上にあったよね?それが忽然と消えた...そしてどうなった?今回はそういうお話です。

667通の「恋文」で復活 森永リプトン、1年で元の味に

 667通の恋文というのは、問合せ窓口に寄せられた”ご意見”...とは名ばかりの、困ったちゃんたちのコメントである。そもそもの発端は、記事にある「リプトン ミルクティー」は2022年3月、味を大幅に変更した「リプトン ロイヤルミルクティー」と入れ替わる形で終売した。 …という事件。
 
困ったちゃんと一口で言ったものの、ポジティブ意見ももちろんある。それはそれで嬉しいわけだが、ネガティブ意見こそ、企業が生き残るカギであると言われる。例えばこんな声が届いたそうだ(と記事にある)。「元の味に戻してほしい」「購入をやめてしまった」「約20年ずっと飲んできた」「私の青春の味」「ご飯よりもミルクティー」「己の血はリプトン」「量にすると約11680リットル」。
 もはや最後の方は意味不明である。ただ、わざわざ問合せ窓口にまで意見をよこすような困ったちゃんたちは、肝いりのLipton好きだったりするわけで、実は優良顧客だったりするわけだ。そんな彼ら彼女らが、667通も意見を寄せてくれた。

不満を持つ人の中で、ちゃんとクレームしてくれるのはたった4%

 と、いうことで、そろそろ分析を始めていきますね。その商品に不満を持った人の中で、わざわざ「どれどれ、一言、言っとくか」とちゃんとクレームしてくれる人は、たった4%だそうです。え?残りはどうするって?そりゃ「もう絶対、買わない」という人たち。この96%をサイレントクレーマーとも呼ぶそう。どっちが大事か、お分かりですよね。
 そう、どっちも大事なんです。今回のケースだと、だいたい700件の貴重なご意見があった訳だから、それを、とりあえずネガティブ意見だと勝手にざっくりまとめちゃうと、それが4%だから、パチパチパチ(そろばんの音)…、全体で17,500人のクレーマーがいる計算になります。

クレーマーの影響力は当社比2倍

 いやいや、日本にLipton好き何人いると思ってんのよ。高校時代からみんな飲んでるのよ?そういう、声が大きい少数派(ノイジーマイノリティー
と呼ぶ)に、大企業が戦略を右往左往させるなよ。
 ...ところがどっこい、この人たちの口コミの影響力ってのは、当社比(いい口コミしてくれた人たち)2倍なんだってな。17,500人のクレーマーがSNSで一斉に拡散でもしようものなら、目も当てられん。特に、Liptonのターゲットは若者である。

決断。元の味に戻す

 記事にはこうあります。「半年間で667通という森永史上最多の『ご意見』をいただき、こんなにも愛されている商品だということを再認識した。顧客にとって何が最善か話し合った結果、元に戻すことになった」
 時系列に考えたい。2022年3月、ミルクティー終売。ロイヤルミルクティーへ。半年かけて、667通のご意見の嵐。2023年3月、ミルクティー復活。
 いつから話し合いを始めたんだろう。半年後じゃ間に合わないな。結構、早い段階で気付いたんじゃなかろうか。茶葉を5%増量、乳固形分を1.5倍以上にすることで、より本格的な「大人な味わい」を目指したけど、あれ?なんか反応違くない?と。ただ、想像しただけですんごい大変ですよね。そもそも、1989年以来のロングセラー商品を変えること自体、社内手続きが大変そうなうえに、マーケから工場まで、人も機械も全部が全部、ミルクティーは捨てて(終売)、ロイヤルミルクティーだ!と頭が切り替わってた中で、「やっぱり戻そう」の大決断。
 これはきっと一人のチカラではなく、チームワークのナセルワザ(と邪推する)。日本のビジネスパーソン、いやサラリーマンって言った方がいいのかな、まだまだ捨てたもんじゃないなって思わせる記事でした。

転んでもただでは起きない

 離反したお客様を呼び戻すだけでなく、「さらにこの機会に、学生時代は飲んでいたけど大人になって飲まなくなった人や、一度も飲んだことのない人にも認知拡大できるようなPR施策を打ちたいと思った」。商売人根性が垣間見えます。これだけで、良いチームであることが窺えます。彼ら彼女ら、とある動画を作ったそうです。そのきっかけは、「許せない」「私のミルクティー人生は終わった」「どうして変わったんや」など、愛用していた商品を終売された顧客の、悲しみや怒りの声。
 667通の問い合わせを読んでいく中で、「まるでミルクティーへのラブレターのように見える」という感覚が一致
したそう。
 記事にはこの動画がなぜ秀逸なのか、ちゃんと語られているけれど、観た方が早いです。2分しかないから。

クレーマーのリクエストに応えると、彼ら彼女らは真のファンになる。お客様と真摯に向き合うことが信頼につながる。

 今回の記事を貫くテーマは、「グッドマンの法則」です。いや、グッドマン先生は、そんなに難しいこと言ってないです。この3つです。
①声の大きいクレーマー(ノイジーマイノリティー)は、不満を持つ人たちの氷山の一角(4%)。これを大事にすれば、残りの96%(サイレントクレーマー/クレームせずに「もう買わない」の人)も取りこぼさない。
②声の大きい人たちは、影響力も大きいよ(当社比2倍)。
③声の大きい人たちに真摯に向き合うことで、声を上げない人たち(サイレントマジョリティー)の信頼も勝ち取ることができる。

 結局、このサイレントマジョリティーが何を考えているのか、そもそもマジョリティーと言えるほどの数にまとまっているのか、多種多様な考えだらけなのか、誰も分からない訳です。教えてくれないんだから。96%のサイレントクレーマー(もう買わない)の方が、よっぽど分かりやすいです。
 記事はこう結びます。顧客からの声を一つ一つ見つめ直し、徹底した顧客目線の刷新へと方法を改めた。それにより、ロングセラー商品の礎をより確かなものにしている。

結局やりたいことに繋がっているミラクル。

 そもそも。「学生の定番ドリンク」とされてきた(中略)新型コロナウイルス禍により通勤・通学や部活動が減少したことが、売り上げにかなり影響があった(中略)ロイヤルミルクティーで(中略)より本格的な「大人な味わい」を目指したのだ。とある。で、ミルクティー復活後、売り上げは計画していた販売数量を上回る形で好調に推移しているという。と。
 あれれ。この会社のやりたいことは、学生から顧客層を広げて売上を伸ばすことだったとすると、結局、そう繋がっているミラクル。これ、まさか一人芝居だったってことないよね?と思いながら読了です(おしまい)

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