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Photo by
frankyy26
揺蕩う
生まれたときから海はすぐそばにあった
実家は瀬戸内海に突き出た高輪半島の尖端の町なのだから
浜辺から透き通るほど美しい海
その海に浮かぶ多くの島々を見ても、それが普通の景色だった
だから、大人になるまで
海についてこれと言った想いを抱いたことはなかった
ただ、夏になると
自転車を漕ぎ、熱く白い砂をけって、水遊びする
貝をひろう 紙コップに入った100円のかき氷を食べる
それがこの辺の子供たちの海だった
遊び疲れると浮き輪をつけ、波に任せ揺蕩うのがわたしは好きだった
この感じが揺蕩うというものだと分かったのも、大人になってからだ
水遊びをしなくなったころから
埋立地が増え、石灰岩の白っぽい浜辺が少しづつ失われていった
そして、受験とか、恋とか 失恋とか
青春ごっこをしているあいだに
揺蕩うという感覚を忘れていた
それが学生時代、広島県の三原から実家へと
フェリーに乗って
潮の流れが速くなる海峡を通るとき
時折、あの揺蕩うという感覚を思いだした
やはりわたしはこのゆらゆらとした感覚が好きなのだ
海流に任せて揺らぐ小舟自体が揺蕩っていた
学生時代を終え
この海に帰ったころ、瀬戸内の美しさに気がついた
橋ができ
それまでと風景は一変し
港に出入りする、客船やフェリーは少なくなり
海で揺蕩うことはなくなった
少し寂しい気持ちもあるが
橋と海の風景も それはそれでなかなか美しい
考えてみれば
大地に根を張り生きる大木にはとてもなれない
水草のように
水の中をふわりふわりと漂うような生き方しかしてこなかった
わたしの人生そのものが揺蕩うなのかもしれない
見出し絵はフランキーさん作品をおかりしました
ありがとうございます
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