短編小説(猫シリーズ3)あまり猫ロココの物語3
のりちゃんは高校三年生になったとき
運よく二年間同じクラスだった
春さんと洋子さんと別々のクラスになった。
洋子さんは私立文系コース
のりちゃんは国公立文系コース
春さんは理系国公立クラスに分かれた
これで
自分を救ってくれるのは
「猫と小説しかないんだ」
と僕に強い表情で語りかけた
のりちゃんは
始業式から帰宅した日
僕を抱き寄せて、
「もうお友達は無理に作らなくてもいいよね。
別れるとしんどいから
わたしにはお前と太宰がいるから大丈夫だよね」
少しだけ悲しそうに言いました。
進学校の三年生は、
友達と遊んでいる暇などないのかと
人間も大変なのだな~
と僕はただおとなしく抱かれていいた。
夏になった
三年ぶりにのりちゃんの学校が甲子園に行くことになった
のりちゃんも野球が好きだったので行きたかったが
三年生はみな行けなかった
教師も必死だ
甲子園に行った年の3年生の国立合格率が悪いそうだ。
だから夏休みの間に
全員の家を手分けして家庭訪問をしていた。
暑いのにたいへんなことだ
僕は猫に生まれて本当に良かったと思ったよ。
受験生にとって長い夏休みの過ごし方は大切だ。
でも、のりちゃんは
テレビを見るか、日本史の本を見るかで
不得意な英語の問題集や
数ⅡBの「傾向と対策」は一向に開こうとしなかった。
川の向こうの生徒は
英語と数学の塾に通っていようたが
のりちゃんお家にいはそんな余裕もなく
自分で勉強するよりほかなかったようだ。
「のり、英語と数学の勉強はしよるか!」
この家にはピンポンもないので
みんな玄関をガラガラと開けて勝手に入ってくる。
僕ものりちゃんもびっくりした。
母校は三回戦で負けたが、
甲子園の準決勝を見ていたからだ。
夏休みが終わると本格的に志望校を絞るので
その前にすり合わせをしておくそうだ。
「まあ、どうぞ」
と、お母様が水ようかんと麦茶を出すと
「どうかお構いなく。方々で頂くと近くなるもんで」
担任教師は野球部の部長先生だったので
進路指導の英語の教師がやってきた
「のりも来て話を聞かんかい」
そう言われてのりちゃんは、
あまり好きじゃない英語の教師と三者面談。
「夏休み前にあった模試の結果が出まして
国立C判定 公立が何とかB判定 京都の私立はC判定
これじゃあちょっと不安です
妹さんもおって浪人が無理なら
英語と国語と日本史が100点の300点満点の
私立を探しておくべきです。
たぶんこの三つの中で
のりの英語力では京都の私立が1番難しいかと僕は思います」
「はあ、そうですか」
とお母さんも俯き、のりちゃんは機嫌が悪い。
「それで僕が関西の大学ででリストを作ってきたので
いっぺんご家族で話し合って、10月末くらいまでには
受験先を決めてほいんですが、よろしくお願いします」
教師はそういって帰って行った。
のりちゃんは
教師が置いて帰ったプリントをじっと見つめ
教師押しの◎の入った大学が
今まで聞いたこともなかった大学だったので
下唇を噛んで、プリントをぐしゃぐしゃに丸め
自分の机に行って
英語の問題集を解き始めた。
僕も後から付いて行って、
のりちゃんの足の下に丸まった。
のりちゃんは のりちゃんなりに頑張ったが
結局入試には失敗し
目指していた三つの大学は全て落ち
夏に教師が◎を付けた神戸の大学しか受からなかった。
しばらくふさぎ込んでいたが、
のりちゃんは立ち直りが早い!
ようやくこの田舎町から離れられるのだと思い直し
入学の準備に取り掛かった。
晩ごはんををくれるときは
はじめてこの家に来た時のように
のりちゃんは僕の目を見て笑顔で
話しかけてくれるようになった。
「ごめんね。船に乗っていくんだよ。
ロココは乗ったことないでしょう」
「今度はね、好きな勉強だけできるから頑張るね」
「しばらくいないけど、お母さんのいうこと聞くんだよ
ゴールデンウィークに帰るからね。1カ月だけだからね」
「今度はけいちゃんのお布団の上で寝るといいよ」
こんな風に色んな話を10日かあまり繰り返し、
最後に、親戚のおじさんのトラックにお父さんと乗り込む前にも
ロココと涙声で抱きしめてくれた。
そしてその車をお母さんとけいちゃんと三人で見送った。
約束通り、のりちゃんはゴールデンウイークにも
夏休みにも帰ってきた。
なんだ、大学って休みばっかりじゃないかと
僕は思った
でも冬休みに帰った時に
僕はのりちゃんから知らない人の匂いがすることに気づいた
そしてそれは、
僕があまり好きな匂いじゃなかった
他の家族は誰も気づいていない
のりちゃんはいつもと変わらず笑っていたけれど
そのにおいはのりちゃんには似合わないと僕は思った
のりちゃんが近づいて抱き締めようとしたけれど
僕は反射的に身をひるがえしてしまった
「あれ、ロココいうたら、わたしのこと忘れてしもたん」
のりちゃんは言葉まで変になった
僕は、もう僕の役目は終わったんだと感じた
凄く胸が締め付けられた
その夜からどんな敵とも戦って
好きな女の子を自分のものにして見せると決めた
その冬は立春が過ぎても
僕じゃないものが出す鳴き声を響かせて
夜の田畑をさ迷い歩いた
そして僕にも子供ができたことを知ったんだ
彼女から打ち明けられて浮かれていた
その時である
何かに首のあたりを噛まれたのだ
あんまり驚いてふらついた
そこにはエルの姿あった
僕を噛んだ後に、うるさく吠えた
懐中電灯をもって
お父様とお母様がようすを見に来た
僕は慌てて鶏小屋の後ろの堆肥の陰に身を隠した
もう自分は助からない
判るのだ頸動脈の傷の深さから
迷惑をかけてはいけないと咄嗟に判断した。
「おとうさん、どうしましょう。エルの口に血がついてるわ」
「あぁ~ここから血の跡が鶏小屋の裏まで続いてるんだが」
そう言ってふたりは枯草や鶏の糞で作った
たい肥のところまできて
「コロ、何で近づいたんだ。エルに!」
と、お父様は僕を抱き上げた。
「もう夜中だから動物病院も空いてないわね」
お母様は涙声だ。
そういってふたりは僕を家に連れて帰り、
赤チンやらガーゼやら巻いて
必死で手当をしてくれた。
僕はもういいんだ
子どもん顔は見れないが、
彼女が子供ができたのよって
嬉しそうに言ったから・・・
でも。のりちゃんのことは心配だ
どうにか二人に伝えられないものだろうか
グッと冷えてきた
夜明けが近い
おふたりは炬燵と火鉢で暖をとっていた
ぼくを筵(うしろ)の上において、土間の踏み板に腰を降ろし
ずっと僕を心配そうに見つめている。
だんだんと意識の遠のくなかで
ただのりちゃんも良い匂いのする人に巡り合い
可愛い赤ちゃんを産んでほしいと
だだそれだけをずっと願っていた
僕は強い思いをもって死ぬということが
どういうことなのか知った
何度も違う猫の魂に宿って
今も僕はのりちゃんを見ているよ
あの日決めたよね
わたしをすくってくれるものは
文学と猫だって
だからね
今僕は幸せだよ。
良い匂いの人と結婚して
良い匂いのする子を産んで
また新しい猫と出会ったのりちゃんが
幸せそうで良かったよ
そうだよ
レイニーの魂は今僕が支配しているんだ 了
見出し絵はゆりゆりむさんの
かわいいイラストを使わせていただきました
ありがとうございます