山種美術館を訪ねて vol.5 癒やしの日本美術
1月中頃、東京広尾にある山種美術館を訪ねました。
信州から東京へ出向く際には、中央道高速バスを利用しています。いつもより早起きして新宿行のバスへ乗り込み、伊那谷をぬけて諏訪盆地へ入ったころ、ちょうど朝日が出てきました。
左側の窓際席に座った今回、窓から前方に見えたのは八ヶ岳。
山頂から地平にかけてゆるやかに広がる裾野が、やわらかな東雲色に染まるようすはあまりに美しく、また神々しく、その景色が見えなくなるまでずっと眺めていました。
顔をすこし右へ向ければ、富士山も見えます。
しっかりと冷え込んだ朝でしたが、この光景が見られただけでも”早起きして良かった”と思えました。
◇ ◇ ◇
さて、山種美術館で現在開催されている企画展はこちら。
新年にぴったりの、おめでたい作品が楽しめそうな企画ですね。
開館とほぼ同時に入館し、さっそく展示室へ。
まず登場したのは、伊藤若冲と長沢芦雪の「ゆるかわ」作品。若冲と聞いて鮮やかな色使いを想像していましたが、フライヤーにもある<伏見人形図>以外は墨画で、意外としっとり落ち着いた雰囲気でした。
いまだ墨画の良さがいまひとつわからない若輩者のわたしは、さらりと通りすぎましたが、ただ今回撮影OKのこちらの作品だけはしっかりと見ました!
近ごろよく耳にする長沢芦雪、これはまさに・・
かわいい!
仔犬が9匹、じゃれあう姿に癒されますね~。
照明が控えめだったので、その場でははっきりと視認できなかったのですが、あとから拡大して見ると黄色い菊の花がより一層、可愛らしさを添えているのに気付きました。
コロコロと可愛い仔犬に和んだあと、
次なる展示テーマは「癒しの風景・心地よい音」
癒しの風景の名のとおり、豊かな木々や草花を描いた緑色の作品が多く、そんな絵の前では自然と足が止まり深呼吸していました。まるでそこから清らかな空気が出ているかのようです。
その中でもひときわ気になる作品を見つけました。
林功 <月の音>
林功さん(1946-2000)が29歳のときに制作された絵画です。
じつは、今企画展に足を運ぶのは2度目です。どうしてももう一度見たい作品が3つあり、そのひとつがこの<月の音>でした。
作品の正面に陣取り、じっと向き合います。
うっすらと雪化粧した地面、木立のなかを右下から左上に横切る小径。人ひとりが通れるほどの小径の両脇には、散りはじめた白と薄桃色の椿の木が一本ずつ佇み、冬の景色に彩りを添えています。
そしてなにより存在感を放っているのが、木立の間から正面にみえる、大きく丸い月。現実ではちょっとありえない大きさですが、なぜだかとても懐かしさを感じました。
月の音って、どんな音だろう?
高くもなく低くもない中音のシンセサイザーのような音が、わたしには聞こえてきました。ほっと安らぐ音です。
とても気に入ったこちらの絵、ミュージアムショップでポストカードを探しましたが、見当たりませんでした。これです!と見せられないのが本当に残念です。
次のテーマは「かわいい動物・愛しい子ども・親しい人との時間」
もういちど見たかった作品2つめでもあり、これはもう群を抜いたかわいさで、ギュッと抱きしめたくなったこちらの子!
奥村土牛 <兎>
でました、土牛さん。
ちょっと珍しい黒兎ですが、耳の内側が桃色だったり、座った姿がコロンと丸くてなんとも愛らしい。思わず手を伸ばしたくなります。
いいですね~、和みますね~。
土牛さんの兎の絵はもう一つ展示されていましたが、わたしはこちらの方が好みでした。
そして、締めくくりに第2展示室の「心が解き放たれる絵画」へ。
3つめの作品もこれまた土牛さん。
師と慕った小林古径が亡くなった年に描いた、中尊寺の一字金輪坐像。自分の心の奥にある仏さまも描きたくなり<浄心>と名付けたという絵画を眺め、心穏やかに鑑賞を終えました。
鑑賞のあとはいつものまったりお茶タイム。
気になる次回展はこちら。
山種美術館が開催する公募展で入賞した作品が展示されるようです。
新進気鋭の画家たちが描く日本画、どんな作品と出会えるのかとても楽しみです♪