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奈良紀行 2023秋~④ 春日大社とシルクロードの終着点
旅三日目
朝6時、きょうも興福寺の鐘の音で目が覚めた。
最高だな。この環境ごっそり持ち帰りたい!
今回の宿ホテル天平ならまちは、奈良墨や奈良筆といった歴史がある奈良にふさわしく、『書』をコンセプトにしたホテルです。客室には奈良にゆかりの書家・僧侶・落語家などが揮毫した作品が飾られ(壁に直接書かれた部屋もあるそうです)、水筆の書道セットも備え付けられていました。
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正岡子規
夜、間接照明のおだやかな灯りのなかで硯へ向かいました。筆ペンは時々使うことがあっても、筆は高校以来。水筆とはいえ、ひさしぶりの穂がしなる感触に心がうきうきして、つい時間をわすれて書くことに夢中になりました。
朝起きがけの書の時間もまた、ぜいたくです。
いいなぁ、書の世界。いつか手習いしたい。
さて、優雅な朝をすごしたあとは、いざ出発!
猿沢池まえの階段をのぼり、興福寺の建物を眺めながら東へ向かいます。ホテルの窓からもみえていた五重塔は、明治以来120年ぶりの保存修理工事が始まっており、もう少ししたら工事の覆いで姿が見えなくなるようなので、しっかりと眺める。(終わるのは令和13年予定)
鹿さんといっしょに横断歩道をわたって(ほんとですよ!)一之鳥居をくぐると、そこから春日大社の参道がはじまります。
参道を歩きはじめてすぐ、神々しい光景に出会いました。
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正直、奈良公園にいる鹿はいまひとつ『神の使い』っぽさが感じられないのですが、ここに来るとなんだかそれらしく見えるのが本当に不思議。朝陽がちょうどスポットライトのように鹿さんを照らしていました。
朝8時すぎの参道は清々しく、聞こえてくるのは虫の音と鳥のさえずり、それから鹿の鳴き声。これまで記憶にないくらい鹿の声が頻繁にきこえてくるので、なんだろう?と調べてみたところ、この時期はちょうど発情期なのだそう。
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二之鳥居まできました。人はいません。
この左隣が駐車場になっており、観光バスなどツアーの方たちでここから一気に人がふえるのですが、この時間ならまだ大丈夫なようです。よかった!
手と口を清める場所にも・・・
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清めたあとは隣にある祓戸神社へごあいさつをして、ふたたび表参道を歩きます。この参道が、とにかく気持ち良い。
ふと気づいたのですが、東大寺境内では歩く先々で金木犀の香りがしていたのですが、ここでは全くその気配がありません。
金木犀(という名は牧野富太郎博士がつけたのだそう)の木は江戸時代に中国から渡来したもので、日本には自生していません。その頃にはこの辺りはすでに立派な森ができあがっていたのか、外来の植物をあえて植えるということはしなかったのかも知れませんね。
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本殿前まできて時計をみるとまだ9時前、神職さんたちが掃き清めをしているところでした。特別参拝の受付が始まるまでにはもう少し時間があるので、若宮さんの方へお散歩に行ってみましょうか。
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この時間なのでもちろん人があまりいませんが、普段でもこちらまで参拝される方はわりと少ないので、春日大社のなかで静かな時間を過ごしたい人にはおすすめです。
若宮さんは『正しい知恵をお授けくださる神さま』とか。ぜひとも授かりたい!静寂の中お参りしてのんびり歩いていたところに、本殿の方からドンドンという太鼓の音がきこえてきました。そろそろ時間ですね。
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南門をくぐり特別参拝入り口で受付をすませてから、順序にしたがって右手の回廊へ。直会殿から、神職さんが大祓祝詞をとなえている声がきこえてきます。
本当に不思議なのが、わたしの後からきた方々はみな順序を無視してまっさきに本殿へ参拝し、そのまま左手へ進んでいました。これはとても勿体ない!右手に良い場所があるのに・・・
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春日大社には三千基もの燈籠があり、2月の節分・8月14日・15日の年3回、燈籠にあかりを灯す『万燈籠』という神事がおこなわれます。もう何年も前になりますが、お盆の万燈籠に訪れたとき目にした美しい光景はいまでも忘れられません。
夕暮れ時、提灯を手に整然とならぶ石燈籠のやさしい灯りのなか参道を歩くと、たどりついた本殿は釣り燈籠にもあかりが灯され、昼間みるのとはまったく違う、すこし怖くて、けれどもとても幻想的な世界でした。
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美しい回廊をひとり歩き、御蓋山遥拝所に向かうあいだ、やわらかく心地よい風を御蓋山の方角から感じました。前回来たときもそうだったけれど、ここを歩くとフワフワした感じになるのです。なにかのエネルギー?
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本殿や摂社・末社にもお参りし、すっかり満足しました。
このあと興福寺やならまちを少し散策しましたが、旅のおわり、記憶に留めたくて戻ってきたのは、やっぱりこの場所。
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池の畔にあるベンチに空席をみつけたので、端に腰かけのんびりしていると、反対側の端に西洋人らしき若い女の子が座ってきました。
大混雑のお餅屋さんで買ったであろう草餅を食べながら、わたしと同じ景色を眺めています。どんなことを感じているんだろう?食べ終わったあとも何をするでもなく、じっと眺めていました。
左隣のベンチでは、日本人老夫婦のご婦人が写真を撮ろうとしていたところ、近くにいた若い東南アジア系の女の子が「よかったら、お二人で写真撮りましょうか?」と日本語で話しかけていました。
あぁ、なんだかいいな、こういうの。
もしかしたら奈良時代は、こういう感じだったのかな。シルクロードの終着点で、国際色豊かだった奈良のみやこ。考えながら、自然と頬の筋肉が上がっているのに気づく。
奈良への興味はまだまだ尽きそうにありません。
やっぱり奈良がすき。
また、来よう。
ーおしまいー
<奈良紀行 2023秋 シリーズ> 全4回
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