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読んでない本の書評36「欲望という名の電車」
125グラム。いったいどういうタイトルだ、と思ったらニューオリンズには本当に「欲望」と書いた電車が走っていたそうな。今そんな列車が来たら痴漢専用車両だろうと思ってしまう。
ずいぶん惨憺たる気持ちにはなるけれど、引き込まれて一気に読んでしまう。
ブランチの言動には終始「あーあ」というため息しか出ない。
若いころもてはやされた美貌を失ってオールドミスと言われることも、豊かだった子ども時代を象徴する家屋敷を失うことも、守ってくれる男が見つからないことも、ひとつずつが自尊心を大きくえぐる大変な問題だろう。
だからと言って、手当たり次第人を見下すことで自尊心を保とうとしているのでは、状況は悪化していく一方だ。
狭い家に7か月も居候させてくれ、お酒の盗み飲みも見逃してくれている妹の夫に面と向かって日常的に差別発言してるようでは、どう考えても事態の好転しようもないではないか。
一番美しかったころよりはオーラは減ったのかもしれないが、場違いなおしゃれをして明るい電灯に照らされないようにいつも暗がりにいる30そこそこの女なんていじらしくて結構かわいい。 普通にしてたら、結婚相手とだって出会えるのに、どういうわけかそこで誇大妄想的な嘘をつき始めたりしてしまうので何もかもおじゃんになる。
そんなんじゃ、全然ダメに決まってるじゃないか、あーあ。
それでも、自分が周囲の人間より勝っているのだと信じて、周りの人間にもそれをみとめさせようとしていなければ自分が瓦解する不安はよく分る。そうやって人は、悪意でなくて、ただ無意識でマウンティングしあって社会を作っているのだ。
ブランチ 目を覚まして、現実を直視しなさい。
ステラ 現実ってどうなってるの、姉さんのご意見では?
ブランチ 私の意見?あんたは気ちがいと結婚してるってこと!
ステラ ちがうわ!
ブランチ ちがわないわ、あんたは私よりみじめな境遇にいるのよ!
ただあんたはそれに気がついていないだけ。
イケメン夫とラブラブ新婚で近く出産予定の妹に向かって、居候中の姉が、あんたは自分より不幸だと説得しようとするシーン。手の施しようがなさすぎてうっかり少し面白い。
私はラジオで人生相談を聞くのが結構好きでもあるのだけど、こういうふうに、身近な誰かが自分よりも不幸だっ!ということでうかつに盛り上がってしまっている人というのはときどき発見する。自分もたくさんやられるし、自分でもどっさりやってるんだろう。人の不幸は気持ちいいけれど、それは善意から出てくるわけじゃない。
安物の服で自分を飾り立て、満足にたるヨイショしてくれる男を探し歩いて亡霊のようにさまようブランチが身につまされて切なくて切なくて。
そもそもテネシー・ウイリアムズも性格悪すぎるのではないか。ちょっと適応力欠ける程度の人をなにもそんな目にまで合わせなくても。作家というやつは。