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現在地までの地図

うちのママの場合、
生まれつき個性的な性質の為、認知症のカタチになりつつあることはすぐには判らなかった。


社交性のある人は分かりにくい傾向があると、初診のドクターに言われた。取り繕うことが出来てしまうので近い人ほど気付き難いとも言われた。



元々、なんでそういう事をする?という事が多すぎた。発達障害の特徴的キャラクターでもあったのだ。


柔軟剤の容器にマジックで漂白剤と書いてあったり(怖い怖い…)味噌の容器に別の食材を入れていたり、しかも同じ容器が並んでいたりした。



様々なノートをつけては3頁が限界で続かず書きかけのノートが溜まっていったり、シンクの洗い物は水に浸け、朝になってから洗うとか、兎に角子供の頃にこうしなさい、こういうものだと言われたことは社会に出ると謎行動でしかなかった。



それでも
あの辺りから異様だったということを
備忘のために記そうと思う。



むかで靴下

事あるごとに私の靴下を買ってきた。
イオンなどの量販店で、二足だったり三足だったり。また?というくらい。
あっという間にむかでが履いても有り余ると言うほどになった。



謎なプレゼント

誕生日にパジャマを買ってくれた。
しかも、翌日もパジャマ。
全身に猫プリントで可愛いが如何にもパジャマなので、部屋着としては着れないね、と言ったのを気にして買ってきたと思っていた。



菊芋事件

親戚が菊芋と浸ける酢を送ってくれた。
玄関の少し入った所に置いていたが、帰宅したら煮物にされていた。
なんかこのじゃがいも変なの、と言ったがそもそもじゃがいもではない。




約束を忘れる

近所の仲良しでたまにモーニングに行っていたが、ある週末ドアチャイムが鳴った。ママさん居る?
近所の人に出口で待ってるという。
ママは完全に忘れていた。
しかし。これは私が子供の頃からたまに有ったのでノーカウント。



そんな時ママは決まって謎でしかない決め台詞を言った。
『すっかりこんこん忘れてこん』
↑どなたかご存知でしょうか。。。?


国会中継を観ている

政治に興味がある、ということはないのに帰宅したら国会中継がやっていた。
それが何度か有った。出かける時に私がNHKを見て支度し出掛けたまま、チャンネルを変えていないことが判明。
あんなに韓流ドラマを予約してたのに。



料理を作らなくなった

美味しいのとミステリーなものが混雑するママの料理。録画してレシピを書き起こしたり、EXCELやWordでレシピブックを作ったりしていたが、なに食べる?と帰宅してから聞いてくるようになった。



文字を書かなくなった

前にも書いたひとつ、あんなに書いていて帰るとメモがあったりしたが
カレンダーに書くことも、食品開封日や使用開始日もblu-rayのレーベルの紙に番組名も書かなくなった。
漢字の書き方を聞くことが多くなる。



迷子未遂

いつものように自転車で出掛けたのに、間違えて遠くまで行ったと言っていた。地図を見て一緒に確認するとかなり遠くだった。元々のキャラクターに含まれるし、一度だけだったのでこれもノーカウント。




パトカーでの帰宅

書類を役所に取りに行った。去年は行けた。今年も行けたが一枚足りなかった。
翌日もう一度行ったが、帰り道、大通りを通らない方が早いと思い、保育園に迷い込み結果パトカーで帰宅した。


この辺りの時はママは
パトカーなんて初めて乗ったのよ!とはしゃいでさえ居たように記憶している。
会話も成立し、思ってることを口にした。まだママの元々がおかしいと私が気づく前の話。



このパトカーの辺りで病院に行っていたら、今のこの状況はまだまだ先だったかもしれない。




その後苛立ちなのか、認知症の初期症状なのか、怒鳴ってくることが多かった。
発狂というような爆発の仕方。
病院も勧めたが
『お前は親を障害者扱いするのか!』
とひどい言い草で、結局少しずつ出来ないことは増えていった。


段々、毎日毎日取り憑かれたように編んでいたアクリル束子も編まなくなり、韓流ドラマも観なくなり、料理もしなくなった。



突然ぱったりではなく
料理はお惣菜を買ってきて夕食に並べたり作ってみたり、やがて私がやる方が早いとなっていった。これがドクターの言う取り繕うのが上手い、ということか?



そうして病院に何とか連れ出して、認知症と診断を受けたのだった。
診察中に私は泣きじゃくった。ママは陽気にドクター達に愛想を振りまいていた。



何故泣けたのか?
ママのネイティブな性質と女王な性格でこんなに迷惑掛けられてきたのに、これからまだ私にママは自分を背負わせようとするのか、と思うとやるせなく絶望に近い感情がこみ上げて、どうしても否定出来なかったのだ。


そうしてその後、
数々の事件の犯人になってゆくママとその認知症に抗うと決めた私は、ヘトヘトになるまで試行錯誤と希望の種の喪失を繰り返して、今の現在地に着いたのだった。




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咲く麦茶
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