北京入院物語(25)
前節でずいぶん偉そうなことを書いてしまいました。
書いた本人は
>>日々自分を変えていく不断の努力を必要とするものです
なんてことをしていた訳ではありません。
とにかく神妙だったのは午前の話で、午後からは北京の中心街へ、時に近くの公園へ、もはや常連となった国際医療部の喫茶店へと連日出歩いていました。
国際医療部に入院している患者で最重度でありながら、間違いなく一番出歩く患者でした。
『世界遺産を巡るびっくり北京3日間』・・・というような観光旅行ですと、行くところといえば、観光地とみやげ物屋とレストランというのが定番ですが、私はとにかく現地に数ヶ月は滞在するのです。
いわば絨毯(じゅうたん)を敷いたきれいな場所を歩いて帰国するツアーでなかっただけに、私の目線はドンドン下がり、庶民の世界にまで入り込んで行きました。
北京の町並みを車椅子で移動していると、文字通り普通の人より目線が下がり、路面の石ころやゴミまでよーーく見えてきます。
そうすると2メートル間隔くらいで、点々とピンポン玉くらいの大きさの黒いしみが延々と無限に続いているのが分かります。
私は新たな感動を覚え、思わず写真を撮りましたが、この正体は何か、長い間分かりませんでした。
私が通っているのは車道の一番端で、自転車の通り道でもあります。
中国が自転車の国であるのは有名ですが、朝晩に自転車通勤する数のすごさは日本では見られないものです。
・・・何が言いたいかというと、この自転車通勤する北京の皆様が「ぺっ」と痰(たん)を道路にお吐きになるのです。
通勤中に1人が1回だけお吐きになっても、なにぶん12億人の国ですから、その跡が燎原(りょうげん)の火のごとく、広がりに広がったということです。
中国人と痰(たん)との関係は、女子高生と携帯電話くらいに切っても切り離せません。
白衣を着た立派な先生までが、窓をガラガラと開けると、「ぺっ!」とされるのを目撃しましたが、この時は3階の窓からでした。
付き添いの周さんなど、道路に出ると必ず「ぺっ!」「ぺっ!」「ぺっ!」です。
私はその正体が分かって以降、女性が鏡で新たなシワを発見したような気持ちになり、目をそむけながら通り過ぎるようになりました。
北京入院物語(26)