
北京入院物語(78)
ところが、人間というのはつくづく勝手な生き物だと感じました。
便利だと喜んだのはしばらくの間です。
いつの間にか、そのことが当たり前となり、感情が伴わなくなったのです。
このことから考えさせられることはたくさんあります。
私のようにまったく歩けない人は、歩けることを願い、時に歩ける人に嫉妬(しっと)することがあるかも知れません。
歩ければなぁ・・・歩ければどれだけ幸せだろうなぁ・・・と夢に見ます。
残念ながら、ほとんどの場合、夢だけになりますから、歩けた時に何が起こるか知る機会はなくなります。
私は歩けるようになったわけではありませんが,以前出来なかったことができるようになりました。
もう一歩進めて、私に奇跡が起こり、歩けるようになったとしましょう。
もちろん、うれしくてたまらないでしょうし、私のことですから1日中階段を昇り降りするかもしれません。
でも、いつかそのことが当たり前になる日がきます。
一般的に達成感というものは、日を追って薄らいでいくものです。
そうするとあこがれていたものが手に入ると、あこがれ以上のものではなかったという場合が多々あります。
カール・ブッセというドイツの詩人がこのあたりのことをうまく詩にしています。
(引用)
山のあなたの空遠く
「幸さいはひ」住むと人のいふ。
噫ああ、われひとと尋とめゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸さいはひ」住むと人のいふ。
北京入院物語(79)