渡る中国にも鬼はなし(19/67)
第4章 中国第3日目 蘇州->上海->昆明
さよなら蘇州
中国3日目は、蘇州から列車でいったん上海に戻り、上海空港から国内旅客機で昆明という中国西部にまで一気に飛びます。昆明は中国語読みでクンミンと発音します。
朝食を済まし、朝7時30分ころにホテルを出発しました。この日は日曜日で、バスは自転車とバイクと自動車の中を走ります。前日までのようなパトカーの先導はありません。バイクと言ってもスクーター式が多く、メーカーは中国産でした。このスクーター式のバイクはヘルメットなしでいいそうです。
別に中国人の悪口でもないのですが、道の両側は大体自転車とバイクが幅2メートルほど占領し、したがって自動車はほぼ道の中程寄りを走ります。このあたりの安全感覚は信じられないほどで、信号のない交差点ではバイクがバスにすれすれで走り去ります。その度にバスの乗客から「危ないなぁ」という声が飛び交います。
蘇州駅に着いて、2日間何かと私の車イスや私の上げ下ろしをしてくれた無口な運転手に、日本から持ってきた電卓をプレゼントし、駅の中に入っていきました。1度も話はできませんでしたが、いい人でした。
中国では座席は「軟座」と「硬座」に分かれます。「軟座」と「硬座」はそれぞれ1等車、2等車と考えれば簡単です。私たちが乗った列車はTという頭文字が付く列車(特急列車)で、蘇州~上海間約90kmで料金は25元(325円)でした。
私たちがのんびりしていると、駅員がやってきて、もうじき列車が来るからすぐに移動しなさいとジェスチャーで伝えます。あわてて駅の構内をバタバタと移動し、乗り込む列車の前に来ましたが、ホームからどう見ても1メートル以上上る必要があります。
私は汚れたパンツをはいてきて、先生からいきなり「今日身体検査があります」と言われた小学生以上にびっくりしました。私は事前に中国の列車の通路は広いか狭いかしか考えていなかったのに、その実、こんな無茶な高低差があるなどぜんぜん知りませんでした。
しかし、とにかくお願いしないと仕方ありません。前と後ろの男性2名でなんとか、私を列車に担ぎ上げます。そのことに時間がかかったのと、信じられないことに、駅のポーターはみんなの大きな旅行かばんを、大八車のようなものに乗せ、階段をガタガタと上って来るではありませんか!この駅には荷物用のエレベーターなどないのです。
そんなわけで、我々一行の旅行かばんが、列車の乗り込み口の下に大量に集まったころには、列車はそろそろ出発の時間でした。あわてて全員で旅行かばんをバケツリレーで車内に入れ始めます。とうとうポーターも車内に入り込み、そのバケツリレーを手伝いはじめました。発車のベルが鳴ったのかどうかさえ覚えていませんが、ポーター2名が列車の中にいたのに、扉が閉まってしまいました。あわててポーターは扉をこじ開け、事なきを得ました。
午前8時20分列車は出発しました。これで忙しかった蘇州とも曹さんともお別れです。しかし、そんな感傷すらする暇がありません。とにかく私たちは忙しかったのです。