地方公務員の本棚 中公新書編④

読んでいない本を大量に積んでしまっているので、本棚紹介と称して、それぞれの本を購入した動機などをまとめています。以下の要領で記載しています。
『書名』(著者名、出版年、出版社名などの書誌情報)
①読んだか読んでないか、どのくらい読んだか、読んでないか
②購入した時期や動機
③内容
④感想

『現代美術史』(山本浩貴、2019年、中公新書)
①どちらかといえば読んでない
②美術史に関心があるため、2020年頃?に購入(私と美術史の関連については、中公新書編②の『印象派の誕生』をご覧ください)。キュビスムやマレーヴィチの無対象芸術、デ・ステイルなんかまではなんとなく「分かる」のだが、50年代、60年代以降の芸術となるとポップ・アートくらいしかやりたいことが見えてこず、漠然とでもいいから知りたかったというのが動機にあると思う。また、美術検定を受ける際の参考書がほしかったというのも多分ある。
③60年代以降の芸術状況について、「芸術と社会とのかかわり」という観点から整理、様々な潮流を紹介するもの。「社会とのかかわりから見た芸術作品の評価なんて、本当の美的な価値とは言えない。本当の芸術は作品単体で完結していて、純粋に美的な視点から見た評価がその作品の価値なのだー!」と言う人もいるかもしれないが、残念ながらそれはもはや過去のものだ。マルセル・デュシャンという人が「芸術」という概念に根本的な揺さぶりをかけるべく、便器にサインしたものを美術館に展示しようとした時から、「芸術」という概念は拡張し、その内容を多様化させている。その中でアートは、黒人差別問題やジェンダーギャップ、ナショナルアイデンティティや戦争など、様々な社会問題を問いとして私たちの前に突きつけているのだ。
④筆者本人が「「正史」ではない」と言っている通り、現代美術について網羅的に書かれているわけではない(そしてそんなことは新書一冊でできるようなものではない)。しかし、現代美術は「ピカソの子供でも描けそうな絵」を通り越して、「地面にクソでかい穴をあける」「避雷針を大量に設置して雷が起きた時にそれを見てもらう」「本物の国会議事堂をすっぽりと布で包む」「大きなガラス板を床に置き、上から庭石ほどの大きさの石を落とす」など、素人目に見て意味不明、とんちんかんなものが多い。そんな作品群を「鑑賞」するためには、背景にある思想や考え方を知ることでとっかかりとすることができる。
いつかちゃんと読みたい。

『現代音楽史』(沼野雄司、2021年、中公新書)
①読んでない
②一応私は中学から大学まで音楽系の部活・サークルに所属していて、それなりに音楽は好きである(ただ、私は造形芸術を見る際には頭でっかちな一方、音楽を聴く際にはコード進行とかリズムの組み立てなんかの理論的なことは好きではない。単に私の「耳がよくない」からだろう)。ただ、そうはいっても好きなのは、正統なクラシックではバロックや古典派あるいは国民楽派であり、吹奏楽をやっていた頃もポップス寄りの曲が好みであって、「「春の祭典」を聴いてイキる中学生」にはなれなかったことへのコンプレックスが多分ある。モチベーションが起こるには遅すぎる気もするが、ちゃんとブーレーズやケージ、武満徹なんかも理解したいという気持ちは今でもどこかにあるのだろう。
③西洋音楽史の中でも根源的な変化が起きた20世紀のシェーンベルク、ストラヴィンスキーからはじめて、ナチ・ファシズムと音楽との関係、録音技術など音楽の電子化の状況をたどるもの。
④吉田秀和賞を獲った柿沼敏江『無調の誕生』を図書館で手に取っては諦めているので、現代音楽についてはいつかちゃんと勉強したい。一方で、現代音楽について扱った一般読者でも手に取りやすい本は本書くらいしかないみたい(著者がそう言っているし、私もamazonで検索かけてみた。20世紀以降の「演奏史」ならたくさんありそうだったのにな・・・)なので、本書は貴重なのかもしれない。

『日本哲学小史』(熊野純彦編著、2009年、中公新書)
①読んでない
②ブックオフ本。通っていた大学のせいもあるのだが、日本哲学については西田幾多郎ら京都学派を中心にまあまあ知りたいと思っている。このため『善の研究』なんかは一応持ってはいるのだが、まあ、読めない。そもそも哲学みたいな分野は、「そこで何が問題になっているか」を分かっていないと入って行きづらく、その問題を把握するためには、哲学史の中でその思想がどこに位置づけられるのかを知っておくのが便利である。ので購入した。(という「いかにも」な理由を挙げてみたが、実際はそこまで深く考えていない。)
③2部構成である。第一部は、明治以降、西周が”philosophy”を「哲学」と訳した時から、戦後の大森荘蔵、廣松渉、坂部恵あたりまで、日本(語)で展開された哲学的思考を概観する。第二部では、20名の思想家の代表的な論文(「著書」ではないので、西田や和辻も出てくるが『善の研究』や『風土』は出てこない)を取り上げ、「ことばへの視線」「具体性の思考」「社会性の構造」など、5つのテーマに4つずつ分けて紹介する。
④いつか読みたい・・・のだが、この分野については最近触れる機会が少なく、読まずに終わるかもしれないなというのが正直なところ。それにしても、編著者の熊野先生の仕事の幅広さには脱帽である。

『絵の教室』(安野光雅、2005年、中公新書)
①ほとんど読んでない
②2021年、書店で「今月の一冊」みたいなコーナーに平積みになっていたものを購入。美術鑑賞が好きなのは先に触れたとおりだが、一方で私は絵を描くのがド下手である。美術の成績は皆勤賞の3か努力賞の4が常だった。そんなわけで絵を描くことにはアレルギーがあるわけだが、絵を見る時に製作者の視点を持っておくと、また違った見方ができるのではないかということで買ったのが本書である。ちなみに、書店は2020年12月に著者が逝去したことから平積みにしていたのだろうが、私は購入時点では安野光雅という人を知らなかった。
③NHKのテレビ講座のテキストをもとにした、3/4エッセイ、1/4絵の描き方の指南みたいな本。
④第1章くらいまでしか読んでいないが、絵を描くには、蝶結びはどんなふうにひもが絡まっているのか、木組みの見えていない部分にはどんな風に木が重なっているか、といった「ものの仕組み」を分かっていることが大切だとするところは「へー」と思った。『ブルーピリオド』でも似たようなこと言ってた気がする。このあと、クールベやゴッホなど、実際の有名な作家を絡ませたエッセイが展開されるようなので、続きも気になるところ。

『平成金融史』(西野智彦、2019年、中公新書)
①ほとんど読んでない
②いろいろな関心から手にとった。コロナ禍の経済・財政に関心があること。この危機を乗り切るためには、バブル崩壊という過去の危機が参考になるのではないかということ。コロナ禍の処方箋としてMMTに期待を寄せており、その理解のためには政府と日銀の関係についての理解が必須であること。単にバブル時代の金融界隈のドラマ(山一証券社長の記者会見など)が好きであること。などである。
③④タイトル通り。バブル崩壊からアベノミクスまでの金融の動きを見るものである。というと無味乾燥とした事実の羅列のような印象を受けるかもしれないが、決してそうではない。報道機関出身の著者は、それぞれの金融機関の出方やトップの思惑、日銀の姿勢、政治の動きなどを、人が見える形で描き出す。宮澤元首相が、軽井沢で休暇中に株価暴落の予兆があったため、突然帰郷することで緊急事態を国民に伝えようとしていたことなど、面白い。山一社長の記者会見もそうだが、ドラマ的な時代だったんだなあと感じる。「ノンバンク」とか「ペイオフ」とか、金融用語に慣れていないため、全然読めていない(山一が潰れていない)のだが、優先順位高めで読まなければいけないと感じている。

いいなと思ったら応援しよう!