失恋図書館2号館
失恋図書館2号館
昔に書いた失恋図書館に今でも時々お客様がいらっしゃいます。この言葉に導かれてここに来る人が、何かいい一冊に出会ってくれたらいいなと思って2号館も作りました。
泣きたい人は泣けたらいいし、思い出したい人は思い出せたらいいし、少しすっきりして眠ったりできたらいいねと思っています。
様々恋模様があると思いますが、恋について深く深く考えるのは一人だけじゃないから寂しくないよってここで思ってます。
その手をにぎりたい/柚木麻子
寿司職人さんのお寿司とその腕前に恋をした女性が10年という年月を通じて寿司屋に通いその恋と自らを成長させる話。
カウンター越しの店員さん、教卓越しの先生、ステージ越しの演者。。。この人たちに恋をする事は、何がいいって、いいお客でいたらずっと恋がし続けられるって事だと思います。逆に辛いのはあの人と私のカウンターを越えようとしたらもう元には戻れないと、そう言うことですよ。孕んだ恋心をずっと抱えて、でもずっと無視して、仲良くして。でもやっぱり不自然だから割れて壊れて。。。壊したことに後悔はないけれど、このお話のようにただただ、ずっと抱えたドロドロした恋情がクリスタルになるまで持っていられたら素敵だったなあと思う一作です。
主人公の失恋なんだけど成就なんだよなあって思う。
カウンター越しの幸せが維持できるとしたら、こんな感じだったんだろうなと思いをはせる一冊です。
花伽藍(角川文庫)/中山可穂
失恋にメソメソしていた時、あまりにショックだったので普段だったら読めないものも読めるかもと女性同士の恋愛を描いたものを読みました。
恋をした太鼓打の女性の話「鶴」は恋の熱さと寂しさが美しく静かに描かれています。ラストシーンの思い出に抱かれ、しみじみと孤独に浸る主人公は失恋同盟の盟友のようであなたみたいな人もいるなら私も寂しいけど寂しくないねと思えます。
「偽アマント」は人を愛した事で、過去の想い人に愛されていたことに気付く、過去の失恋を再構築する一編です。
振られてしまった私にとって、あの人が考えている事は本当にわからなくて、あの時ああしたこと、こうした事色々な事がただただ私の空回りでご迷惑で嫌な思い出だったのかな、と思うとすごく申し訳ない気持ちになるのですが、もしかしたらもしかしたらそうじゃない、ちょっとは楽しいとか好きだとか思った一瞬が相手にあったのかな、もしそうなら救われるな、と。もし私が見た失恋の裏側がこんななら、少し温かくて優しいものがあったかもと思うのは、生きる希望だなあと思う次第です。
トラッシュ(文春文庫)/山田詠美
どうしても好きだけど上手くいかない。愛しているけど添えない人との運命がこうであったら、恋を失った側は最高だなっと思える一冊です。
愛したい気持ちも、愛されたい気持ちも満たされて自分が思いいれした男の人の永遠の存在になれたら。。。失恋ロマンの最上級です。失恋と言う他人から与えられる不幸な出来事のはずが、1つずつ選択して失恋を糧にしていく主人公。その人柄故の神展開なのでしょうけれど、こんな風に思った人の心に残れたらいいなと、思う、ある意味御伽噺みたいな失恋者に甘い本だと思います。
A2Z(講談社)/山田詠美
続いても山田詠美さんの著作の紹介となります。トラッシュより、本の厚さも内容もライトな大人の女性の家庭も仕事も壊さない、爽やかな恋愛模様を描きます。変に罪悪感に囚われない、自分を持って選べる人はこんな恋愛ができるのねって言うすごいな、私には無理だなって思いはあるのです。ですが、目の前の相手を好きになる気持ちのきれいさは一見の価値があると思う。特に指輪をプレゼントされるシーンが美しいので皆さんもぜひ。
失恋しても、きれいな思い出は刹那の永遠で消えないし、それは恋の全てだと黄金色の指輪の輝きが教えてくれる、そんなお話です。
ハチミツとクローバー(全10巻)(白泉社)/羽海野チカ
美大に通う5人を中心とした、自分とは?将来とは?を問う姿が柔らかく可愛く、ギャグ折り込みまくりに描かれたマンガ作品です。
大好きな仲間たちが故に愛情の量と種類が釣り合わずあちこちで片思いしたり、失恋したりする様子はなんだかじぶんもヒリヒリして、ヒリヒリしながら見る彼らの思い人はキラキラ輝いて見えます。その美しさをぜひ見てほしい。真山が観覧車で変な顔して乗っているのが4巻の表紙なんだけどさ。ああ、あれが恋なんだよってね。思う。
変な顔しながら私と観覧車に乗ってくれた男の人が忘れられないってのがさ、それを細密に描いて表紙にするってのがさ、恋なんだよね。思いなんだよねと。思う。知らんけど。勝手に思ってる。
叶わない恋が目の前にあるとして、じゃあどうしたら?の穏やかで真っ直ぐな落とし所を見出した傷だらけできれいな場所に行けた人々のお話です。
実際の失恋はなかなかきれいなところに行けないからね。ユートピア的なのかもしれないがでも遠くに見える灯台の灯りはいつだって恋の船乗りの希望を明るく照らすよと思う次第です。
南瓜とマヨネーズ (TOKYO NEWS BOOKS)/魚喃キリコ
失恋マンガと言えばそうだそうだ、これもあったなあと思った一作。交際が長くなり同棲ヒモっぽくなってしまったセイちゃんがありながら、お金のために放埒な選択肢を選び生活を続けているツチダさんが、ものすごく未練があるハギオに再会する話。
あの時フラれてしまった人にもう一度会えたら今度は上手くできるかなって心の奥にある欲望をそのままにしたらこんな感じかなあと思います。
体の価値観が大切にしてるように見えない主人公に共感できない人は多いと思います。主人公ツチダさんはそもそも見ないように考えないようにしていることがあって、だからそれは語られないのです。
怒ったり泣き叫んだりしないで淡々と行動する彼女は、痩せててきれいでそもそも別世界な人の感じもするのですが、ハギオが忘れられないことへの生々しさだけは伝わってきます。ハギオの部屋にいた時の記憶が今でも虚しい景色と愛されなかった自分が想起されるような思い出であること、どうなってもいいからハギオともう一度かかわりたいこと。
ハギオによってモノトーンになった世界を取り返したかったのかな?
セイちゃんとも色々あるんですが常軌を逸さないし。ハギオとも表向きは大人同士のお付き合いなんだけどさあ。ハギオに関わろうとするぶっ飛び感?が際立つんですよね。それ故に。
でね、ハギオはハギオであるって以外にいいところ何もないんだよ。
でもハギオだから絶対に執着しちゃうの。それがツチダさんの選んだ恋でね。辛いよねって言う。
想いが釣り合わず、淋しくなるような失恋模様を垣間見る一冊です。
太陽の塔(新潮文庫)/森見登美彦
こちらは小説です。男の人の失恋でこんな感じなんだ〜って思った一冊です。
前出のハギオじゃない、ごく普通の男の子達はこんな風に失恋してるんですかね。
満開の桜の花が散るような散りぶり(失恋)が鮮やかでした。男子ってよくわからんけど振られたら悲しくて、女子より致命的な感じする〜と思いました。
陰日向に咲く(幻冬舎文庫)/劇団ひとり
表題作「陰日向に咲く」も男子の失恋を描いています。なんだか可哀想すぎて、男子のピュアさがせつないです。アイドルに恋慕する主人公がその恋のシステムのどうにもならなさをずばり言い表していて胸に刺さりました。
女子は振られても次行こうぜ!な感じはありますが、男子の恋愛ってなんかいちいち人生終わっちゃいそうで、お母さん心配だわ〜って思ってしまいました。
リバーズ•エッジ(Wonderland comics)/岡崎京子
失恋の話ではないのですが、たとえ恋が叶ってもこの虚しさはこの悲しみはなんだろうって思う気持ちを全部、表しているようなマンガです。
体のポカンってなる感じとかね。耐えられないよねって言うあの寂しさとか、体が大人になり大人として扱われることは私の思いとは連動してなくて、置いてかれますよねって感じとか。
恋の先にある体のしんどさとか悲しさとかを、言葉以外の全てで訴えているような、登場人物達の醒めた目線が印象的な作品です。
オール・アバウト・セックス(文春文庫)/鹿島茂
失恋は体の悲しみでもあると思います。私は何十年も前にとても好きな人がいてその頃たくさんの本を読みました。恋をして実らなかった事も辛かったけど、体を伴い人と関わる事の不安定さやはかなさがとてもしんどかったです。
本作は体方面にまつわるブックレビュー集で、多分セクシーな方面もあったかと思うんですが、性にまつわる文学を縦横無尽、これでもかと蒐集した仏文学者の鹿島先生が軽く瀟洒に語り尽くしています。Amazonの見出しほど下品じゃないような。下品と言えるような事象も、書き手のテンションが下品ではないから面白くて物悲しいよね、人間って、、と言う受け止めをした一冊です。
失恋図書館として、あちらの図書館への矢印も是非立てておきたかった次第です。あれ一冊読めば体方面の書籍はかなり把握できると思われます。ちょっと出版されて年月経つのが残念なのですが。
レンタル(不倫)(角川文庫)/姫野カオルコ
こちらは、前出の鹿島先生の著作で取り上げられていた一冊です。どんなにタイトルや不倫と言う内容がセクシーに聞こえても、書く人に品があったら軽くて面白い文学になるのだよと言う内容です。
彼氏からの謝罪の手紙を赤鉛筆で添削するところは最高に面白いので是非読んで欲しいです。
何かこの彼氏の霞雅樹さんが仏文学の蓮實重彦さんぽくてすげー可笑しいから、重ねて読んでみても面白いです。