なにもかもうまくいかない日に、私がもらった1つのプレゼント。
なにもかもうまくいかない日。
そんな言葉がぴったりの1日だった。
朝から頭痛でやる気が出ない。
仕事も予定通りに行かない。
普段、乗りなれてない路線の電車に乗っていたら、乗り換えのために降りなければいけなかった駅を通過してしまう。
帰りも、また行きとは違う駅で乗り過ごしてしまう。
乗り過ごしたという事実に落ち込む。
電車に乗ることが好きなので、普段なら、絶対にこんな失敗はしないからだ。
初めて入ったカフェが、自分が思っていたより値段が高く、なんか無駄使いした気がして、気持ちが沈む。
小さなガラスの容器に入った白い液体。注文したキッシュに全部かけてしまってから、添えられたレタスにかける用のドレッシングだと気付く。
「今日はうまくいかないな。せめて集中して味わおう」と思いながら、食べていると…
奥歯が折れた。
先週、歯医者に行って虫歯が見つかり、明日から治療を始めようとしていた歯が折れたのだ。
これで心もぽきっと折れた。
本当に朝から、全然うまくいかない。
もう、今日という日を投げ出したくなっていた。
*****
そんな投げやりな気分だった時、私はプレゼントをもらった。
重たい気持ちをひきづりながら家に帰る途中、信号待ちで止まっていたときのことだ。
「がんばってください」と、年配の女性の方が自転車のかごにポケットティッシュを入れてくれた。
「事故に遭ワン!」と書かれた紙に包まれたティッシュ。
そこの地域の町内会の人と警察の人が、交通安全のために道行く人たちに配っているティッシュのようだ。
渡されたときに添えられていた「がんばってください」と言う言葉。
どんよりしていた私の心に、その言葉の温かみがじんわり広がってきた。
その人は、みんなに「がんばってください」と言って配っていたのだろうか?
たまたま疲れ切った私の表情を見て、そう声をかけてくれたのだろうか?
知らない方からかけてもらった「がんばってください」の言葉が、とても嬉しくて、信号が青になり自転車を漕ぎだした私は、泣きそうになっていた。
私が、元気な時だったら、こんなに心に沁みわたりはしなかっただろう。
「ありがとうございます」と、元気に言葉を返して、「ティッシュもらったなー」と思うのみで、その出来事は、寝る頃には忘れていたかもしれない。
でも、今日はうまくいかない日だったので、その言葉が、とてもありがたかった。
その女性にとっては、何気ない声かけだったかもしれない。
その何気ない声かけにも、人を元気にする力があることを知った。
なにもかもうまくいかなかった日に、私がもらったプレゼントだ。