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南部の鉄瓶。義父の点てるお茶を喫む、など。
義父の点てるお茶。
私は、お茶が好きだ。
お茶といっても、別に茶道に通じているわけではないし、緑茶や玄米茶だけでなく、コーヒーや紅茶、チャイとかラテとか、なんでも好きだ。その時の気分やシーンによって、のみたいお茶は変わってくる。
それこそこの寒い時期になると、やっぱり体が温かい緑茶やコーヒーを欲する。
そんな最近、お寺の家に嫁いだ私が感動したのは、住職であるお義父さんが点ててくれたお茶だ。
普段から、とにかくお酒が大好きなお義父さんだが、ある朝、テレビを見ながらお茶を点てていていた。
茶道に通じているのはなんとなく知っていたが、一緒に暮らしていてもお酒ばかり飲んでいるイメージ(悪い意味ではなく。笑)がついてしまっていたので、朝から茶筌をシャカシャカと動かしている姿に驚いた。
私が物珍しそうに、そして物欲しそうに見ていると、
「喫むかい?」
と一言。
「え、いいんですか。」
うん、最近は久しくやってなかったんだけどね、と言いながら、一杯のお茶を点ててくれたのだ。
スッと出された茶碗には、深い緑だが、さらっとした喫みやすそうな色のお抹茶が。美味しそうだ。
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器を両手でいただいて、なんとなくだが3回手前に回した方がいいかなと思っていたら、
「作法とかいいから、好きに喫んでな。」
と笑いながら言ってくれた。・・・ホッ。
お言葉に甘えて、そのまま器に口をつけていただく。
「・・・あ、美味しい。」
と、自然に言葉が出る。見た目よりもすっきりとした爽やかな味だ。この濃い緑色のせいだろうか、ちょっと森の奥のみずみずしさを感じた。
「お抹茶の粉が古いから、下の方ダマになっちゃったかもな。全部は喫まんくていいから。」
はにかみながらそう言って、席を立った。私が一人でゆっくりお茶を喫めるように気を遣ってくれたのだろう。
普段は寡黙なお義父さんだが、こんな風に意外なタイミングでおもてなししてくれたり、お寺のことを色々と教えてくれる。本当に素敵なお義父さんだ。
ストーブの火で暖まった居間で一人、ゆっくりと抹茶をいただいた。
もちろん、残さず全部喫み干したのは言うまでもない。
美味しい珈琲を。みんなで。
最近はまた、山内(お寺の中の、という意味だ)会議が隔週くらいで行われ、その際にみんなで珈琲をいただくのが習慣になっている。
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ただ山内会議と言っても、家族の話し合いなので、みんなで居間でお茶を啜りながら、今後の方針や行事の確認などをするだけだ。
もちろん赤ん坊のぐぅちゃんも、誰かしらに抱っこされながら参加している。一番のムードメーカーだ。家族円満の秘訣には、赤ちゃんの存在は大きい。
私が嫁に来るまでは、”会議”というほどの話し合いはなかったようだが、私も何もわからないから、もし可能ならやってほしい、とお願いした。そこでお寺のことを一つずつ丁寧に教えてくれるので、とても助かっている。
そしてその場は、みんなが改めて意識を共有する良いきっかけとなっているようだ。家族経営というのは結構難しくて、こういった意識の共有を定期的に行えるかどうかが大事なポイントになってくると思う。
そして最近は、その話し合いの時にみんなでコーヒーをいただく。
お寺はお歳暮やお供物などで、食べ物をいただくことが多いのだが、お茶やコーヒーの類もたくさんいただく。
私がコーヒー好きだからというのもあるかもしれないが、近所の美味しい珈琲屋さんの豆をいただいたこともあり、話し合いが始まる前に私がみんなの分をドリップして、お菓子などと一緒に運ぶ。
これは私の経験上だが、会議をおやつタイムと一緒にすると、場が和むし自由な意見が出やすいという効果もある。
「この珈琲、美味しいねぇ。」
「お菓子も美味しいですねぇ。」
この会話だけでもう、リラックス雰囲気になるのだ。
そこにぐぅちゃんが、
「あぐぅ〜!」
なんて可愛い声を出して笑ったら、みんなもつられて笑う。
こんな風に和気藹々とした空気の中では、反対意見やマイナスな意見は出にくいものだ。お茶とお菓子、そして赤ちゃんの効果は絶大だ。
南部の鉄瓶、その白湯。
実はこの家のお茶文化でかなりの大役を担っているのが、南部の鉄瓶で沸かしたお湯にある。
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お寺ならではの文化かと思われがちだが、実は本当に最近、お義母さんが家に眠っていた鉄瓶を掘り出してきて、その良さを再発見したのだ。毎朝、ポット二つ分を沸かしてみんなで飲んでいる。
これが、本当にすごい。めちゃくちゃ美味しいのだ。
私も都内で一人暮らしが長かったとき、家やオフィスで白湯を好んで飲んでいたので、鉄瓶で沸かしたお湯が本当に美味しいのがすぐにわかった。ポットやケトルで沸かしたお湯と比べて、口当たりがものすごくやわらかくて、まろやかな甘みを感じられる。感動した。
そしてその鉄瓶白湯、想像の通り体にもめちゃくちゃいい。
普段から貧血気味の私は、産後さらに症状がひどくなったので、鉄分が多く摂れるのが一番嬉しい。他にも美肌効果、代謝の促進、便秘解消、冷え性の改善などなど。まさにいいこと尽くしの魔法の飲み物だ。
お義父さんが最近またお茶を点てはじめたのも、鉄瓶で沸かすこのお湯が美味しいからだとも言っていた。
私の旦那は茶道はやらないが、男性の茶道は女性とはまた違う雰囲気がすごく素敵だと思うので、是非お義父さんの影響を受けてほしい、、と密かに思っている。
ただ、体型維持を気にして体に良いものをいつも探している旦那も、白湯の良さを自分なりに調べたらしく、朝と晩、鉄瓶白湯を飲む習慣がついたのは嫁ながらすごく喜ばしい。
こんな風に、鉄瓶白湯ひとつでみんなの習慣が良い方向に変わったのは、なんだかとても深いものを感じる。
ポットやケトルで簡単にお湯を沸かすのもいいが、ひと手間かけてこそ得られるこの奥ゆかしさの中には、現代人がずいぶん昔に置いてきてしまった古き良き日本の知恵や文化を見出すことができる。
それに何より、台所に鉄瓶が並ぶ風景がとても風情があって私は好きだ。
さてと。
今日も鉄瓶のお湯で美味しい珈琲を淹れよう。
補足だが、鉄瓶白湯の詳しい効果・効能については、他のサイトにまとまっているので、ここにもいくつか挙げて置こうと思う。