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「聖人」発達理論に基づく町内会支援についての話。

町内会の独特の地位の源泉は「組合」性ではなくて、「誰一人取り残さない」性にある

 まちづくりのお仕事に関わっていると常に話題に挙がるのが町内会という存在で。

 町内会の独特の地位の源泉は「組合」性ではなくて、「誰一人取り残さない」性にあるっぽいのよね。

 ここでいう組合っていうのは、複数の当事者が出資をして共同事業を営む契約、あるいはそれによって設立された団体という理解でオッケーです。

 町内会は、みんなで町内会費を出し合って、共同サービスを購入しているわけだから、組合としての側面がありますよね。しかし、組合としての町内会であれば、おそらくコミュニティ政策において独自の地位を保てないんですよ。というのも、例えば私企業とか生協とかと区別する理由がないからなんですね。

 一方で、町内会の「誰一人取り残さない」性っていうのは、独特で。組合員とか顧客のために、ではないんですよ。「地域の人なら、たとえ会員であろうとなかろうと、取り残さないぞ」ということで。「地域のお世話役」ってよく言いますけど、やろうとしていることはこれなんですね。

 だから例えば町内会サービスのICT化って、議論に上がるたびに立ち消えていくんだけど、これは、ITリテラシーのある人たちだけで組合を作るなら、まったく難しくないわけですよ。しかし、町内会は、ITリテラシーの高くない人にも情報を届ける、情報網から取りこぼさない、ということを期待されているわけです。

 だから、「スマホもっていないおばあちゃんのために、紙に印刷された配布物を届ける」という話になるんですね。

「誰一人取りこぼさない」ってことと、「多様性」っていうのは相反する

 で、「誰一人取りこぼさない」ってことと、「多様性」っていうのは、実は相反する性質なんですね。多様性が低い集団の方が、実は「全員を包摂する」っていうことを、しやすいんです。例えば、「みんながスマホ使えれば、メール一発で完結するから、紙の回覧板なんていらない」みたいな話ですね。「取りこぼさない」ためのかかるコストが低い。楽なんですよ。

 多様なニーズを、単一のサービス供給主体で全部を賄うって、基本的に難しい話なんですね。だから、多様な「シーズ」で対応していきましょうよ、という話になります。例えば、「紙の回覧板じゃないと見れない」という人のニーズがあるとして、「紙の回覧板を作るのが大好きなんです!」という人のシーズがあって、二つが出逢えば双方ハッピーなわけです。

 この、「多様なニーズを、多様なシーズで穴埋めするぞ」という戦略を採る場合、単一主体がコントロールできないわけですから、基本的には「偶然の出会い」に期待するしかありません。つまり確率の問題なんですね。で、確率を味方につけるなら、「規模」が重要になります。

 ところが、町内会のやっているような小地域自治っていうのは、この「規模」と相反する性質の営みなんですね。自治の範囲を小さくしようとすればするほど、規模が小さくなり、ニーズとシーズの偶然の出会いの確率が下がるわけです。とすると、例えば町内会なんかでも、小さく刻むんではなく、近隣の町内会と統合してデカくする方がいいように、一見思えます。しかし、そうはなりません。というのも、規模の大きさは、マッチングのコストと相反するからですね。

 例えば奇跡的なニーズとシーズのマッチングがあり得るとして、その双方の持ち主が、例えば日本とブラジルにいたんでは、組み合わせた結果生み出される価値より、組み合わせるのにかかる輸送コストの方がデカいわけです。

 もう一つが「信頼」の問題です。まったく付き合いのない、よく知らない他人を信じてサービスの取引をできるか、ニーズやシーズを晒せるか、という話になります。信頼は、小地域であるほうが獲得しやすいかもしれないですけど、マッチングの選択肢の広さは相反するわけです。

 じゃあみんなでもっと近くに集まればいいじゃん。その通り。その結果生まれるのが過密都市なんですね。

 このように相反する性質がバランスを取り合って、マッチングの範囲の規模が定まっていくんですね。

「誰一人取り残さない」を短絡的に調達しようとすると全体主義になる

 話を戻すと、単一の主体がすべてのニーズにこたえられるわけではない、とすると「誰一人取り残さない」というのは、努力目標であり、地平線であり、そもそも達成できない建前だって側面があるわけですね。

 もし「誰一人取り残さない」を本気でやり切ろうとすれば、やり方はあります。「全体主義」です。みんなが同じニーズになればいいわけですから、思想を統制すればいいんですよ。しかし、繰り返すけど、それは多様性とは相反するんですね。そして、その選択が何をもたらしたか、ということは歴史に学ぶ必要があるでしょう。

 誰一人取り残さないという夢を本気で達成しようとする単一主体は、全体主義の夢を見ます。そのたびに、歴史の傷跡を思い出し、踏みとどまります。で、じゃあどうしたらええねん、という話で。

マッチングの確率を上げる「エリート集団による統治」

 「神の見えざる手」に委ねる確率任せだとそうなる。それでは足りないとするとどうするか。そう、「人の見える手」で確率を変動させていく必要があるわけです。で、それってどうやるのと。

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