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読むまちづくり

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2022年8月の記事一覧

「”リスクを避けるリスク”にビンビンに興奮している日本人」仮説〜あるいは地域活動の担い手である自営業者がなぜ減るのか問題

 地域課題の解決において、地域の中小企業の貢献が期待されている。例えば中小企業庁は、住民アンケート調査から、こうした課題の解決に対する小規模事業者などへの期待について確認している。  これによると、住民に対して、地域課題の解決に当たり、中心的な役割を担うことが期待される者を確認した。これを見ると、「地域内の小規模事業者」に期待する住民は多く、特に最も人口密度が低い「区分1」では、「地方自治体(警察・消防を含む)」、「公的支援機関(商工会・商工会議所等)」を上回る回答割合とな

企業が社員に地域社会でボランティアをさせることをどう考えるか問題

 企業がCSRとして地域活動における社員のボランティアを推奨することは最近では珍しい動きでもなくなった。しかし、それが社員にどんな効果をもたらすのか、どんなやり方だとうまくいくのか、ということは実はあまり良くわかっていない。  宮坂純一は、「CSR、企業市民活動そして企業ボランティア(下)—— 欧米の経験に学ぶ ——」 『社会科学雑誌』第 19 巻(2018 年 )PP1-35のなかで、次のように述べている。  まず、そもそも<企業ボランティアが概念として明確化されたうえ

コミュニティビジネスのコアは「”近さ”と”ついで性”」じゃないかと思ったっていう話。

 昨日、お仕事で、コミュニティビジネスについて考える機会があった。  コミュニティビジネスって、例えば地域団体なんかが地域社会のために、ボランタリーに近い労働で手掛けるビジネスなんかが例示されることがしばしばあって、大阪市なんかでは、地域団体による空き家の活用とか、子ども食堂もコミュニティビジネスの一つとして例示している。  さて、本来的に専門性が薄く、ボランタリーであるがゆえに安定した労働力を確保できるわけではない、いわば市場の競争においては不利な立場にあるはずの地域団

エリアマネジメントという言葉は「誰に向けて何を言うために作られたものか」の話

 国交省のエリアマネジメント推進マニュアルを見ていると、まちづくりの中心が開発(デベロップメント・つくること)から管理運営(マネジメント・育てること)に移行してるぞと言っていて、へーと思った。  で、じゃあエリアマネジメントって具体的にはどんなことなん、というと、例えば地域の施設を作って終わり、はいさよなら−、ではあきませんよと。施設の存在目的は、地域の住民等の利用や、それに伴う様々なコミュニティ活動等の展開を誘導していくことですよねと。なので、地域のニーズにきめ細かく対応

地域活動への参加経路の偏り問題〜あるいは昭和家族モデル・ノスタルジー問題

 地域活動というのは、地域に住んでいる人なら誰でも参加できるように開かれたものであるべきだし、誰もが参加することが望ましいものだ、という信念は、地域活動支援に関わっているとしばしば語られる。この信念は、いわゆる市民社会論的な思想であり、その意味で崇高な理想だと言ってよいだろう。  一方で、現実に目を向けると、地域活動への参加可能性はある属性に偏ってしまっていることが知られている。

無償労働の価値を貨幣労働に置き換えて計算する

 住民参加のまちづくりは主にボランティア活動、とりわけ無償労働に強く依存して営まれていますが、無償労働はその性質ゆえに、貨幣労働に比べてどれくらいの価値があるかわかりにくいという不利さがあります。  では実際問題として、無償労働にはどれくらいの価値があるのか、ということは、実は専門的には計算されていて、そこをわかりやすく解説しているのが浜田浩児「無償労働の貨幣評価― 収入階層別の無償労働額と所得分配 ―」です。

一次創作としての「まちづくり」から二次創作としての「まちつかい」へ〜あるいはカルトとアートのおはなし

 こないだ、「アートとまちづくり」みたいなテーマの話を聞くことがあって思ったことをメモしておきたい。

公営住宅のまちづくり、地域住民ボランティアでどこまでやるか問題

 以前もちょっと触れた話なんですけど、最近また話題に上がることが続いたので、再度取り上げておこうと思うんですが、公営住宅のまちづくりについて。  よく公営住宅では入居者が高齢化して問題になっているといいます。とはいっても、それは変なことではなく自然な帰結だということもできます。というのも、自力で住宅を確保できない人のために供用されるのが市営住宅なわけですから、必然、障害や病気を抱えているなどして十分に稼働できない人が主に入居するわけで、そういう人にご高齢の人が多くなるわけで

保育所運営審議会の司会進行は誰がするべきなのか問題

 まちづくりで地域に関わっていると、ちょいちょい関わりが出てくる、学校運営協議会。2017年に9この制度が実装される以前から、実は保育所運営審議会という、保育所運営に係る事項を主な検討対象とする任命制合議制機関を設置されてきました。学校運営協議会の未来を考える上では、先行して経験を蓄積してきた保育所運営審議会の経験から学ばない手は有りません。  この点について詳しく紹介しているのが山中 拓真『保育所運営審議会の委員構成に関する一考察』です。  まず、保育所運営審議会とは、

ふるさと納税を「消費者としてお得か」ではなく「自治体としてお得か」で考える

 地方のまちづくり行政に関わっていると、一度は耳にする「ふるさと納税」。みんなやっきになってふるさと納税ゲームで競争をしている様子を見ると、なにかよほど旨味があるのだろうな、なんてことを邪推してしまいますが、実際には旨味があるというよりは、むしろ「せざるを得ない」という一面もあるようです。  この点について詳しく解説しているのが、嶋田 暁文『「ふるさと納税」再考― その問題点と制度見直しを踏まえて―』です。  本論文はふるさと納税制度の問題点と改善点を分析したもので、ふる

地域ボランティア活動に若者が参加してくれない問題を、彼らを取り巻く労働環境から考える

 よく「もっと若者に地域ボランティア活動に参加してほしい」という声を耳にします。地域団体に関わると、二言目には聞くような声です。資本主義社会に生きる我々は大抵の場合、労働することで対価を得て資本を形成する、ということを生活の軸に置いている、というか、置かざるを得ないわけですが、そうすると、労働時間に対して対価の発生しないボランティア活動というものは、基本的には余剰資本を使って行う余暇、消費行動の一種であるとみなすことができます。  そんな消費行動に地域組織が支えられていると

地縁と志縁の融和を実現するコミュニティワークはいかに可能か、という話

 地域組織による福祉サービスの提供の必要性が語られて久しいですが、それを実行していくためには、地域の中に福祉活動を担う組織を定着させていく必要があります。  しかし、テーマ型NPOは地縁団体と水と油というようにうまく接合しないことがしばしばであるといわれています。いわゆる「地縁と志縁」の分断がボトルネックになっているわけですね。  そこで、地縁団体自身が福祉活動を担うNPOを作り出す、あるいは、地縁組織と志縁組織の両方を同一人物が兼ねることで、このボトルネッ クをクリアし