ノンマリ連載エッセイ「小さなドラマの小さな駒たち」 #7 靴のチカラ

”おひとり時間をご機嫌に過ごすコツ”を綴った全12話の短編エッセイ集 ／ 作：田崎ゆきこさん

第7話
『靴のチカラ』

「いい靴を履きなさい。いい靴は、履いている人間を最上の場所に連れて行ってくれるのよ。」
　誰が言ったかはともかく、なんだかカッコいい格言なので、頭に残っている。
　そりゃ、十センチのヒールを履くとしたら気取った場所に出向くためだろうし、ペタンコのローファーは、内勤向きだ。だが、この考えだと、ＴＰＯをわきまえた格好というだけで、前述のロイヤルな格言にあいまみえない。そこで私は、（私にしては）高級な靴を一足、購入した。　
　ある休日、私はこの靴をはいて街を歩いた。高価な靴を履いているという意識が、私の背筋を伸ばし、無様な歩き方はできないと緊張感をもたらした。街のウインドウに写る私は、いつもより、キリリとして見えた。いい靴は、自分にモチベーションを与えてくれる、そういう実験となった。

文：田崎ゆきこ

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