【うたストに応募】歌からストーリー
#課題曲A でイメージしたショートストーリーを応募します。
世界の約束
「やっと見つけたぞ…」
タケルは疲労で半ば閉じそうな目を無理やり見開き、額の汗を拭いながらつぶやいた。
1年かかった。
それは、ある日突然、聞こえてきた。
夢の中だったと思う。
「探せ」と。
声と同時に何故か、白を背景にしたキャンバスにゴシック体のフォントで文字がくっきりと浮かび上がっている。
夢にしてはリアルだな。
SNSのやり過ぎで、睡眠にまで影響が出てきたに違いない。
それにしても。探せ?何を?
訝しげに問い返すと声はもう一度だけ言葉を残して…消えた。
「一番大事なことは…」
大事なことは?
……
……。
だから、何やねんっ!!
そこを教えてよっ!
夢の中なのに僕は何故か
知らない誰かに突っ込みを入れていた。
絶対ワザとだ。
仕方がない、僕は、夢の中で当てもない旅に出ることにした。
その、「大事なこと」を探す旅に。
夢の中で世界は、未知のウイルスに侵されていた。人々は閉じこもり、隔離され、もはや誰も信じられなくなっていた。
外を出歩くことも、ままならず、
隔離された家での生活を余儀なくされていた。
そこで、開発されたのが、《メタバース》。
現実世界とは異なる3次元の仮想空間だ。
インターネット環境さえ用意出来れば、個別のIDが与えられ、独自のスペースが割り当てられる。そこは、一つの家のようでもある。
飲食が出来ないこと、まだ開発途中であるゆえ、SAOのゲームのように、体感することは出来ない。しかし、そこでのキャラクター設定は完全に自由だ。好きなアバターを用いて、自由に発言が出来る。全てが、文字を中心とする、架空の世界ではあるが。人々は、癒しを求めて、その世界に入り込んでいった。
あるものは絵を描き、
またあるものは音楽を奏で
またあるものは、言の葉を用いて
人々を感動させた。
いいこともあれば、
悪いこともあった。
たくさんの人の中、言葉や思想の違いから
争いも生まれた。
バーチャルな世界の中で傷つき、その生涯を終えるかのように消えてゆく人々もいた。
タケルとて、例外ではなかった。
夢から始まったとはいえ、いつからか、もう一つの世界に、すっかり自分の居場所を見つけてしまった。
何度も、傷つき、消えようとした。
しかし、仲間が、バーチャルな世界で出会った、顔も知らない誰かが励まし、支えてくれた。
夢のことなどすっかり忘れていた
ある日のこと。
このバーチャルな世界の中で、
タケルはある任務を受け、
特別チームに招集されていた。
この仮想空間から、さらに宇宙へと旅立つ試みがなされたのだ。
寒さ厳しい2月のある日、プロジェクトチームのメンバーは集められ、紹介を受けた。
言語がわからないが、
タケルには、素晴らしいアイテムがある。
翻訳機だ。
チームのキャプテンのアバターは人間離れしていた。しかし、この仮想空間では、何でもありだ。そのキャプテンの名前は、
Космос Качи。
あとで調べよう。
彼は、最初の挨拶でこう言った。
「Нам это нравится больше всего」
その瞬間、僕の目の前は真っ暗になった。
僕は意識を失った。
薄れてゆく意識の中で、いつの間にか忘れていた言葉が再び脳裏に浮かんだ。
「 探せ 」
稲妻が走った。
僕は見つけた。
その答えを。
「Нам это нравится больше всего」
探していた、1番大事なこと…
目が覚めた僕は、
いや、目が覚めると僕ではなく、
私だったのだけれど…
いつの間にか、寝落ちしてしまったみたい。まだお風呂にも入ってないのに。
あ、でも、何か大切な事を思い出したような…
しかし、彼女はどうしても思い出すことは出来なかった。夢とはそういうものだ。
「ま、いっか。また続き、見るかもしれないし。」
そう言って、たぶん寝落ちするぎりぎりまで見ていた携帯電話を何気なくのぞき込んだ。
直前に書き込んだコメントに
返信が来ていた。
「自分たちが1番楽しむんですよ。」
「 自分たちが1番楽しむ… 」
頭の中で、つぶやいてみた。
その言葉はなぜか、心の奥の方に
ゆっくりと柔らかく響いた。
何かとても大切なことのような気がした。
世界の約束。
選ぶことが目の前に来たら
前に進むことだけ考えて
僕たちは1人1人
何かを背負っているけれど
世界の約束は一つ
Having fun is the most.
あなた自身を大切にして。
世界の約束は一つ
いつか届くさ 君のところにも。