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ChatGPTとの対決―与謝野晶子と和泉式部のチョコレート語訳に挑戦
俵万智の衝撃
1987(昭和62)年、短歌の世界に口語を大胆に持ち込んだ俵万智の『サラダ記念日』(河出書房新社)がベストセラーになった。
「カンチューハイ」や「サザンオールスターズ」などといった言葉まで取り込んだ俵万智の短歌は当時としてはきわめて斬新で、評判を聞いて本屋で立ち読みした私は、迷わずレジに直行した。
句またがりが多用され、カギ括弧で人物の発話を取り込むなど、見ただけでは五・七・五・七・七の短歌になっていることがにわかには理解できない規格外の短歌だった。
それから11年後の1998(平成10)年に出版された『みだれ髪―チョコレート語訳』(河出書房新社)にも驚かされた。
今となっては古風な言葉遣いに見える与謝野晶子の短歌を、逐語的に口語訳にするのではなく、大胆に意訳し、本歌取りのように飛躍させ、元の歌が表現している世界を現代人の心にも響くものに変貌させた手際は、見事と言うしかなかった。
チョコレート語訳に挑戦
今から15年以上前の2007年11月、40代の国語教師だった私は、無謀にもチョコレート語訳に挑戦した。
制限時間は10分。与えられた歌は二首である。
封筒を開けば君の歩み寄るけはひ覚ゆるいにしへの文
黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき
一首目は、手紙をメールに変えつつ、「いにしへの文」というあたりをどう意訳するのかに苦心した。
亡き夫・与謝野鉄幹のことを詠んだものなのだが、もっと日常的な恋愛に近づけるべく、死別ではない別れをイメージして作ってみた。
保護してた昔のメールを開いたら間近に感じる元カレの匂い
二首目は、「ふて寝」とか「ベッド」とか「ボンバーヘッド」などの言葉が脳裏をよぎったが、元の歌の風情との隔たりが大きすぎる。
思い悩んだ末に出てきたのが、次のような歌である。
さよならを言われた夜の泣きまくら乱れた髪をなでる手もなし
では、ChatGPTに作らせると、いったいどうなるのか?
ChatGPT4 によるチョコレート語訳
与謝野晶子の短歌のチョコレート語訳を、こんなプロンプトでChatGPTに作らせてみた。
「封筒を開けば君の歩み寄るけはひ覚ゆるいにしへの文」という与謝野晶子の短歌を、21世紀の時代感覚あふれる現代短歌に作り変えてください。
得られた出力は、以下の通りである。
「メール開くと 君と距離縮む ふわりと浮かぶ 過去の文字列」
この短歌は、与謝野晶子の短歌を現代風にアレンジしたものです。電子メールを開くことで、相手との距離が縮まる様子や、過去のメッセージが思い出される情景が描かれています。これにより、21世紀の時代感覚が反映されていると言えます。
続いて和泉式部の和歌である。
では、「黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき」という和泉式部の和歌を、同じようにデジタル時代にふさわしい現代短歌につくりかえてください。
迷うことなく生成系AIはこんなチョコレート語訳を出力した。
「黒髪乱れ 知らぬ間に寝 起きぬれば いつの間にかの チャット恋しき」
この短歌は、和泉式部の和歌を現代風にアレンジしたものです。髪が乱れたまま眠り、目覚めると気づかないうちに行われたチャットが恋しく思える情景が描かれています。デジタル時代のコミュニケーション手段であるチャットを取り入れることで、現代短歌としてふさわしい表現になっています。
どうであろうか。
指示されていないのに、自作解説をするあたりが、なかなか健気である。
かつて40代の国語教師であった私と、今をときめく生成系AIの最新版ChatGPT4のチョコレート語訳、どちらに軍配があがるであろうか。
未
2007-11-26「俵万智の世界―チョコレート語訳に挑戦してみました!」による