人生において大事なものってなに?って、プラハで2人のイラン人に聞いてみたんだ
社会人になるまで、残り1ヶ月を切った。
学生生活が終わりに向かっていく中で、学生生活を彩ってくれた人の顔が鮮明に思い浮かぶ。寝る前に思い出にふけったり、お世話になった方にメッセージを送ってみたり、日記を読み返したりして、ちょっとしたタイムスリップをする。
前のブログにも書いた文章だけど、改めてチェコの首都プラハに旅行をした時の話を書こうと思います!
なぜ今書くのか
コロナで旅行もなくなったので、ちょっと心だけは地球の裏側に飛ばしたくなったからです。
ちょうど2年前の春。スウェーデンでの留学も終盤にさしかかっていた時。私は、チェコの首都プラハに弾丸で旅行することになった。
初めて東欧に行ったんだけども、息を飲むような景色に何回出会ったことか…
一緒に行ったのは、Zara。
同じ寮に住んでいるイラン人の友達で、「ヨーロッパ最後の旅行は、かのんとプラハに行きたい!」とお茶を飲みながら目をキラキラさせて言ってくれた言葉から、急遽プラハ行きが決まった。授業の合間を縫って、プラハに3泊。レポートは雲の上でやればいいや!ということで、レッツラゴーしたのだった。
私がこの旅行のことをブログに書いておきたいと思った他の理由は、Zaraが人生についてたくさんのことを教えてくれたからだった。
そして、Zaraの友達にもプラハで会ったんだけども、その方からも本当に忘れられない時間と機会をもらったんだ。
思い出すたびに、いろんなことを考えさせられる、ひとつの人生に触れた旅だった。
プラハはそれはそれは素敵な観光地で、”みんな”がおすすめする、”行くべき”ところにも、もちろん行った。上の写真は、ストラホフ修道院の中にある世界一美しい図書館!
写真撮りながら泣きそうになった。
天に召されたのかな?と錯覚してしまうレベル。
名前は忘れちゃったけど、こんな名物も食べまくった。
くるくると螺旋状になってるパンの中にアイスやチョコレートがぎっしり入っていて、その上にかかってるザラメのお砂糖がとっても美味しい。寒くてこわばった顔も、一瞬にして笑顔になってしまう魔法の食べ物。
このドーナツは…ってドーナツの話をすると食べたお菓子の話が止まらなそうなので、話を戻すと…
2年経った今、私の心に残っているのは美しい風景よりも、
Zaraと夜に髪を乾かしながら話したイランのことであったり、
座っておやつを食べながら話した日本のことであったり、
大聖堂の前で話した恋愛の話であったり、
スープを飲んだあとに話した学問を学ぶ意義であったり、
そして、プラハの街を歩きながら話した人生のことであって。
一緒に同じ空間で ”考えた” 時間だった。
勉強できる、という奇跡
Zaraは、イランから来た、ずば抜けて頭がいい女性だった。
イランでトップの大学を卒業してその後大学院に進み、心理学を専攻。本当に極めていた。映画を一緒に観たあとは必ずディスカッションタイムがあった。笑
「あのシーンは心理学的にはね、」という言葉で話は始まり、
「こんな角度からこう解釈することもできるんだ!」と私はいつも新しい発見をもらっていた。
イランでは大学に入ることも、卒業することも、留学することも、女性にとっては本当に、本当に、難しい。奇跡的なことらしい。
Zaraは学位をとるためにPhDの学生としてスウェーデンに留学していたんだけど、それまでの道のりがどれだけ大変だったか、何回も話してくれた。そのたびに、ため息をついたり、故郷に想いを馳せたり、時には制度に対して憤りも感じているようだった。
彼女と会話していて、一番おったまげたのは、33歳だということだった。でも英語で会話してると、敬語がないから全く距離を感じない。
Zaraは私よりもひとまわり、ふたまわりたくさんの経験している人生の先輩なんだなぁ!って思っていた。
でも、実際はふたまわりどころではなかった。それ以上だった。
話を聞いていたら、想像を絶する経験もしていて。それを話してくれたことに、私はとっても感謝している。
Zaraの半生も、今まで頑張ってきたことも、イランの素敵なところもいっぱい話してくれた。
イランに絶対来てねって言われたその日から、イランはいつか行きたい国リストの上位をキープしている。
一緒にバラの香りがする甘い紅茶を飲みながら、イランの音楽を聞き、イランの写真を観たりして。スウェーデンにいながらも、幾度もイランにいるような気分を味わった。
イランってどんな国?
Zaraが住んでいるのは、イランの首都テヘラン。イラン文化の中心地。
スマホでたくさんの寺院や絨毯、陶器、そしてペルシャ猫の写真を見せてくれた。
イランの歴史も教えてくれた。世界史で習った膨大な量の王朝や都市や人の名前は、呪文のようで、どうしても覚えられなかった。だから、ここらへんの地域は ちびまるこちゃんの”おどるポンポコリン”に単語を載せて、せっせと覚えていたんだよ、という話をしたら、Zaraはゲラゲラ笑ってた。
頭の整理も兼ねて、イランの歴史をちょっと書いときます。
イランは今はイスラム教国家だけど、ササン朝ペルシャの時代まではゾロアスター教の国家だったらしい。ササン朝が滅びて、モンゴルからの侵略があり、イスラム教シーア派を国教とするサファヴィー朝が1500年頃にできてから、イスラム化が進んだ国。ここの土地は、ヨーロッパとアジアが交わるかなり重要な場所だったから土地をめぐっての争いがたくさん起きた。
20世紀に入って、イランの近代化を進める動きが始まった。脱イスラム化を図った政策としては、チャードルと呼ばれる女性が着る黒い布の着用を禁止して洋服着用例を発令したり、農地改革や識字運動などを進めた。1960年頃にパフラヴィー2世が起こした「白色革命」って呼ばれる、いわゆる西洋化運動。でもかなり急激なものだったので、結果としてイラン・イスラム革命を引き起こすことになる。
イラン・イスラム革命とは、まさにハイジにでてくるおじいさんのような白いお髭を蓄えた「ホメイニ師」っていう人が国王批判をして逮捕&国外追放されたことを皮切りに起こった革命。「それはちがくない!?」って民主化を求める、王制打倒運動が国内で広がっていった。
詰んだ国王の代わりに、1979年にホメイニ師が母国イランに帰ってきて、「イスラム共和国作るよ!」ってなったのが、イラン・イスラム革命。そこからイランは厳格なシーア派国家になったのだけれど、周りのイスラム諸国はスンニ派で、イランの革命の波が広がらないかとビンビンに警戒してたんだって。アメリカとも対立関係になり、ピリピリし始めた。
そんな革命があった次の年、1980年に、イラン・イラク戦争が始まった。イラクとイランの間を流れる川の使用権と、石油の輸出が問題になって、欧米諸国とソ連はイラクのフセイン政権をサポートした。1988年に停戦が成立するまで、他国家を巻きこんで8年間に及んだ戦争。長い…。打撃もかなり大きいものだった。そしてそのあと湾岸戦争が始まった。
Zaraは、小さい頃に体験した戦争のことを話してくれた。
サイレンが聞こえてきたら、お母さんに抱っこされて防空壕に駆け込む日々。
今も、サイレンの音や大きい爆発音を聞くと、その時の情景がフラッシュバックするんだって言っていた。
私はスウェーデンに来るまで、戦争を体験した”友達”には会ったことがなかった。ひいおじいちゃんからは聞いたことあったけど。
私にとって、戦争は遠くで起こっているものだった。
恥ずかしいけど、本当にテレビの向こうの話だった。
でも、私より10年以上長く生きていて、育った国も文化も環境も違って、そして実際に戦争を体験した人が、自分の目の前にいて、生きている。
同じ机で、あたたかいごはんを一緒に食べている。
辛かった経験を、私に共有してくれている。
話してくれて、ありがとう。という言葉しか出てこなかった。
話を聞いている時、戦争の話をするひいおじいちゃんの顔が、私の頭をよぎった。戦争は、あかん。って言葉と一緒に。
でも最近、すごく不穏だ。ニュースを見ていて、胸が本当にざわざわする。
なんだか、世界が行っては行けない方向に流れていっている気がする。
私がこの文章を書いていた2年前、トランプは大統領令を発表した。特定の7ヶ国の国籍を持つ人は、アメリカには一時的に入国を禁止されるというものだ。その7つの国の中に、イランがあった。
Zaraのイラン人の友達は、この大統領令によって、夢が粉々になったと言っていた。
Zaraと同じ大学出身のとっても優秀な女性で、やっとの思いでアメリカの大学で働けることになって、たくさんの希望をスーツケースにつめこんでいた矢先、航空会社から、「イラン人だから」という理由で搭乗を拒否されたらしい。
Zaraに泣きながら電話してきたんだって。
Zaraもそれを聞いて苦しかったって言ってた。
私がZaraの立場だったら、何ができただろう。
イランには一生帰れない、イランの人
そして、プラハでもう1人、イラン人の方に会った。
その方はZaraの友達で、今はプラハでラジオ局に勤めている人だった。
鼻の下に蓄えたあごひげからは、少年のように笑う歯が覗いていた。
テラス席で一緒にご飯を食べながら、仕事のことや今までやってきたことを聞いていた中で一番衝撃的だったことは、
「イランには一生帰れないんだ、アメリカ系の会社に勤めているから」
っていう事実だった。
え? それだけで? 一生って、どのくらい? 死ぬまで?
軽々しく聞ける質問ではなかったので、ごくりと言葉を飲み込む。
イランに帰りたいけど、もし帰ったらスパイと疑われて命が危ないから、もうここ十数年帰ってないんだって。そしてこれからも帰れないらしい。
「だから家族がいつもチェコに来てくれるんだ。さみしいけど、自分の可能性を広げたかったし、自分で選んだ道だからね。でも、本当にイランは大好きだし、いつか絶対に戻りたいって思ってる。とても、難しいことだけど。」
って言いながら、彼は連れてきていた自分の犬を優しく撫でた。宝物を触るような手付きで、黒くてカールがかった艶やかな毛に手を置く。犬は、黒い瞳をこちらに向けて、舌を出して「へぇへぇ」と言っている。
「この犬は、イランで飼った犬なんだよ。こいつといると、イランでの思い出を思い出すんだ。」
一緒に食べていたスパゲッティは、かなり伸びていた。ピザもカチカチに冷えている。
イランの音楽や、伝統的な暮らしについて話しているうちに、食後のデザートが出てきた。
「人生で大事なものってなんだと思う?」
と彼に聞いてみた。
「HOME」
と返ってきた。優しく、小さな声だった。
帰れる”HOME”があるってことは、当たり前ではないんだな…。
”HOME”の定義は、人それぞれだ。
住んでいる家があるところかもしれないし、大切な人がいるところかもしれない。生まれた場所かもしれないし、そもそも場所ではないのかもしれない。
でも、国籍が夢を潰したりする世界があるということ、
自分のふるさとに帰れなくなる世界があるということ、
そしてそれは全く遠くの世界ではないということを、目の当たりにしたのだった。
私がそういう状況に置かれたら…
自分が生まれた国を恨んでしまうのかな、世界を変えてやろうとアクションを起こすのかな。諦めて、まずは今日を生きるのだろうか。わからなかった。
この世界が大事にしているものってなんなんだろう
人の中身、性格よりも、その人の「国籍」や「民族」や「宗教」が最近より重視されて始めたように思う。
良いことなのか、悪いことなのか。
国益を守るための正義なのか、差別的で排他的な悪なのか。
グローバル化という言葉が讃えられていた頃からの反動なのか。
いろんな見方があるから、簡単に ”right” ”wrong”に仕分けられる問題ではないとは分かっているけど。
国籍とか民族とか宗教っていう大事なアイデンティティのひとつが、時にジャッジされるラベルとなって悲しい思いをしている人が世の中にたくさんいることを、忘れてはいけないな、と感じています。
旅で大事にしたいこと
Zaraとゆっくり街を歩いていて、地元の人と仲良くなったり、適当に道を歩いていたら迷子になったけど思いがけず素敵なオルゴールのお店を発見したり、店員さんとプラハの歴史について語ったりして。なんだかとってもわくわくが多かった旅だった。
「旅も人生も、予定を立てすぎちゃだめだと思うの、小さな偶然が起きるためのスペースを持っとかなきゃね」
2人で予定をがっちがちに立てず、北の方に行ってみるか〜、ってかんじで街をプラプラ歩いていたら、あるおじさんと仲良くなって、教会でのコンサートに呼んでくれたんだ!
ちょっとチケットも安くしてくれて、おまけに最前列に座らせてくれた。
パッヘルベルのカノンの生演奏を聞けて、涙ちょちょぎれそうになりました。
自分の名前の由来であるこの曲をプラハで聞けるとは…感無量。
旅はたくさんするといいらしい
あと、心理学を勉強している彼女曰く、”心理学的観点から”、旅はたくさんするといいらしい。
目の前の道を曲がろうか、まっすぐ行こうか。
どうやって目的地まで行こうか。
誰に話しかけようか。
常に選択することが求められる。
旅の中で、人と関わって、その土地の文化や価値観を吸収して、自分の持っているものと照らし合わせて、自分の価値観がまた作られていく。
そして、判断力や行動力、コミュニケーション力が鍛えられるんだって。
選択すること、自分がどこにいるか把握すること、そして積極的にソーシャライズすること。
この3つは本当に大事なものだなぁって、このプラハの旅で思ったなぁ。
これは旅だけじゃなくて、人生全体にも言えることだよね。
イランと日本と、時々プラハ
2年経ち、今ニュースなどで「イラン」という単語を聞くと、必ずと言っていいほど、ZaraとZaraの友達の顔が浮かぶ。
元気にしているかな。バラの香りがするあの甘い紅茶を飲みながら、人の心について学んでるのだろうか。彼は、チェコの街をあの犬と一緒に歩いているのだろうか。
プラハで2人と会話したあの数時間は、私にとって帰りたくなる時間でもあった。
チェコ・プラハにもまた行きたい。あの景色は、何回観ても飽きないだろうなぁ。
ちなみに、イランの公用語であるペルシャ語で、ありがとうは「مرسی۔」って言うんだって。メルシーと発音するよ。フランス語と一緒だ!ペルシャ語は、東洋のフランス語とも呼ばれてるらしい。ほぇ〜
メルシーZara!イランで、また会おうね!
あなたの人生において、大事なものってなんですか?
明日も、いい1日になりますように!
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