”創造性”は、筋肉と同じ…!? 今、ビジネスマンが絵を描くわけ
全力で絵を描いたら、銭湯に入ったかのような気分になった。
ほくほくとした高揚感と、自分の中の何かが整ったという爽快感。
「おっちゃん、コーヒー牛乳ひとつーー!!」
と銭湯にいたらきっと叫びたくなったであろう、そんな感覚だ。
最後に絵を描いたのはいつですか?
絵や文字を描くことは小さい頃から好きで、ただひたすら好きなひらがなだけを書き続けて日が暮れたこともあったし、図工や美術の時間は私の中では休み時間と同じくらいのわくわく値があった。
中学生の頃、教科書はひとつのキャンパスになり、落書きに没頭した。世界史は特に楽しい時間だった。偉人だろうがなんだろうが、AGA治療以上の毛量を生やしてあげたり、顔色の悪い人にはチークと濃い口紅を引いてあげた。
でも、そんな落書きは、もう許されない。
というか、そういうことをする年齢ではないし、意味ないし…。ということで絵を描くことは日常から消えた。
最後にちゃんと絵を描いたのはいつだろう?と振り返ってみたけど、うーん、思い出せない。
ビジネスマンの研修でも使われるプログラム
そんな私は、「よっしゃ、なんか爆発させたろ!」という岡本太郎的なノリで「EGAKU」というプログラムに参加した。
この「EGAKU」は、アートの力を用いた創造性回復プログラム。
経営陣のひとり、そして1人のアーティストでもある邦さんが始めたこの「EGAKU」は、文字通り絵を描くというプログラムなんだけど、いくつものメディアにも取り上げられていて。これができあがった背景と、運営しているホワイトシップというユニークな会社がとっても興味深かった!
「皆様、とりまなんか爆発させよ!」というただのお絵かきワークではなく、絵を描く前にも絵を描いた後にも、以下のようなしっかりとした流れがあった。
「鑑賞」と「創作」を繰り返しながら、感度を高めていく。
驚いたのが、来ているのはほぼ全員私よりも年上の方であったということ!
もともと子供のための情操教育の一貫でやっていたらしいんだけど、一流企業のビジネスマンが個人で来たり、会社の研修としても使われたりしてるんだって!
EGAKUのプログラムを受けて、思考の幅が広がったり、枠をはずしてフラットに物事を見れるようになったという声があり、今まで約2万の人が参加してきたんだとか…!
最初はパッと ”絵を描く” という行為と ”ビジネス” が結びつかなかったんだけども、話を聞いていたら、ほ〜んなるほど…!と納得した。
背景には、AI化が進んで、もう論理的な情報処理スキルには限界が来ているということがあげられる。これから人間の仕事が奪われていく中で、人間が生み出せるものは、アート。創造性。
これが、これからの時代を生き延びるためのキーになってくるという。
※写真はHPからお借りしました
世界のエリートは、美意識を鍛えている
数ヶ月前に山口周さんという方が大学の講義にいらっしゃって、”人間とアート”について語っていたことを思い出した。いくつもEGAKUの本質と通じるところがあった。
山口さんの著書【世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?経営における「アート」と「サイエンス」】という本では、「直感は知力よりもパワフル」と書いてあり、今までのマーケットのあり方も抜本的に変わってきていると説いていた。
これからは ”役立つ” よりも個人にとっての ”意味” が重要視される時代。
「役には立たないけど、意味があるもの」がこれから多様化して、どんどんアート化していく。
一方で、「役には立つけど、意味はないもの」は淘汰されていく。というのも、そういうものはひとつあれば十分だから。
客観的に正解を出されたマーケットでは価値のデフレが起こっていて、規模はどんどん小さくなっているのが現状だ。(特に家電製品の市場)
”これはかっこいい” という感覚、主観、ストーリーが、今の世界で生き残っている。そしてこれから生き続ける。
ということで、内省的に創出する構想力や創造性が、より求められている時代なのだ。
そして ”自分がなんかいいなと直感的に思ったもの”や "創造性"を取り戻そう!というところから始まったのが、EGAKUプログラム。
客観 vs 主観
日常的には「客観的になれ」とは言われるけど、あんまり「主観的になれ」とは言われない。「客観的な意見」というものが重宝されている今だからこそ、このEGAKUで大事にされている「自分の解釈」「自分のフィルターを通して感じたこと」をぶつけることができるのは、とても新鮮だった。
最初の鑑賞タイムでは、なんとも抽象的でとらえどころのない絵がひとつ、参加者の前にどどんっと置かれた。
「これに対して、何を感じますか?」と最初に聞かれた時は「うーん…」と唸るしかなかった。
でもファシリテーターの方が、「この絵から音が聴こえるとしたら、どんな音でしょうか」「味もあるかもしれませんね、考えてみましょう」「この額縁の外にも絵の世界が続いているとしたら、どういう世界だと思いますか?」「もし動いている部分があるとしたら、どういう流れで動いていると思いますか?」「手触りはどうでしょう」などとすごい角度のある問いかけを投げてくださったので、今までとは違った絵の味わい方ができた。
感じたことをポストイットに書いて絵の周りに貼り、参加者のみんなで共有する。
それぞれの感想がまるで違ったり、まったく同じことを感じていたり、そんな視点を持てるなんてどんな過去があったんだ!?と相手に興味を持ったり。
色んな発見を共有した後は、1時間弱の創作タイム。自分の手を実際に動かしながら、表現していく時間だ。
まずはお題が出され、そのテーマに沿って描いていく。今回は「歓び - pleasure -」だった。「自分が歓びを感じる瞬間」を書き出しながら、自分で好きな色の紙を選び、自分の思うままに描いていく。パステル(クレヨンよりもさらっとしており、粉でできている)を握ったのはいつぶりだろう… と思いながら無心に描く。気づいたら手がカラフルに染められていた。
「歓び」の正解や答えはない。
「客観的に見たら、ここちょっと見づらいかな?」と考えてしまっていた部分も正直あったけど…
ただただ自分と対話しながら、紙は少しずつ彩られていく。
自分から生まれた、ひとつの作品
最後できあがった絵に、最後サインを入れ、タイトルをつける。私は「ENCOUNTERS」とつけた。
私が歓びを感じるのは、”出会うの瞬間” に一番多いと思ったからだ。もちろんリラックスしている時や、大切な人と一緒にいる時、きれいな景色を見ている時も幸せだけど、「私ここにいるとリラックスできる!」「なんて面白い人なんだ!」「こんな景色に出会えるなんて!」という思いがけない発見や出会いが生まれるその時に、パチッとスパークするものがある。その時が一番わくわくするし、楽しい。
「出会い」という言葉よりは、もうちょっと ”偶発性” のニュアンスが含まれている「エンカウンター」のほうがしっくりくるな、と思ってこのタイトルにした。
タイトルがつくと、一気に自分の赤ん坊のように思えてきた。これが私から生まれたものか〜!!
スッキリした。私は、無事お産を終えたのだった。
そして、2回目の鑑賞タイム。チームの中で、それぞれの絵を見て、感想を共有する。それぞれの解釈があって、面白い。
私の絵に対しては「銀河系みたい」「透明感がある」「惑星」「あったかい」「甘そう」「パチパチしている」「芯がありそう」などの言葉が寄せられた。
同じグループだったある人は、選んだベースの紙が群青色だった。黄色を選んだ私は、なぜその色を選んだのかその人に聞いてみたところ、「よろこびは、ネガティブな感情があるからこそ、相対的に感じることができる感情であると思うので、私は暗い色の紙を選びました」とおっしゃっていて、は〜〜!!なるほど!!同じテーマでも、ここまで違うのか!と驚いた。
言葉以外で、表現する機会
振り返ってみて一番面白いなと感じたのは、「歓び - pleasure -」という全人類が持つ普遍的な感情を、自分の ”言葉” ではなく、”感性” で定義づけしてみる、ということ。
言語化言語化、とよく言われているけど…言葉が使えない世界に放り込まれたら、君はどうやって表現する?何をどう伝えていく?
そんなことを問われたような気がした。
自分との対話を通じて絵を描くことで、今の自分のこころの現状が分かったりするんだって。本音が湧き出てきたりするらしい。治療法やセラピーとして絵を描くこともあるくらいだから、絵を描くことはかなりのパワーがあるんだなぁと思った。
まぁ私たち人間は、かれこれ何万年も前、ネアンデルタール人の時から、絵を描くという行為には馴染みがあるもんなぁ。
すごい原始的で、人間らしい行為だ。
とても印象に残った言葉(EGAKUのページから引用)があるので、最後にシェア!
鑑賞は評価をすること、創作は評価をされることが目的ではありません。これらの行為には「対話」「発見」「表現」の三つの要素が含まれています。つまり「鑑賞」と「創作」を通じて、受講者はこの3つの要素を繰り返すことになります。
その繰り返しを何度も循環させながらそれぞれの要素(能力)を高めていくことが、創造性の回復、向上へとつながります。
まさに筋肉を鍛えるようにこの体験を何度も繰り返すことが大切なのです。
生まれ持った創造性は、別に天才だから凡人だから、という区別はない。発揮する機会がだんだんと日常でなくなっていっているだけで、機会を与えればまた鍛えられる、という考えにすごく共感した。筋トレと一緒なのかぁ!
社会人になってもやりたいなこれ!
皆様もぜひ!EGAKUで描いてみては?
明日もあなたにとって、いい1日になりますように!